世界は身近にあるもんだ ~国歌研究家 日本で海外の魅力を探す~ 第6回 「ニッチを強みに変える」世界で唯一のカナダワイン専門店 ”ヘブンリー バインズ”  後篇 ~ニッチな商品を売る戦略とは~

浅見良太
 
前回、世界の流通量の0.5パーセントほどしかないカナダワインの魅力について話を聞きました。(前回のインタビューはコチラ
魅力あるワインである事は分りましたが知られていないのはビジネスとして致命的・・・と思ってしまうのですが。
今回はその辺りを世界で唯一のカナダワイン専門店、
ヘブンリーバインズ株式会社の代表取締役ジェイミー パクイン氏に話を聞きました。


とっても親切で丁寧に教えてくれるジェイミー氏


ニッチを強みに変える

―カナダワインってニッチな世界ですよね―
そうですね。カナダのワインは生産量が少なくて醸造元で売り切れちゃうから流通しないというのが原因のひとつです。
日本でいうと、醸造元でしか買えない幻の地酒のようですね。生産量が少なくて東京では手に入らないものがありますよね。それと一緒です。

―知名度が低いのはビジネスをするうえでかなりマイナス要素ではないですか?―
知らない産地のワインは買わないですよね。
以前、量販店に卸して販売していただいたことがあったんですが、あまり売れませんでした。それは他の国のワインと同じように並べられてしまったからです。カナダワインについて詳しく説明できる店員の方もいなくて差別化出来なかったんです。
同じ価格だったら有名どころの方を手に取るのは当たり前ですよ。
でも、知られていないニッチなワインというのは販売するのが難しいと思われるんですけど強みに変えられる所もあるんですね。

ニッチの強み①【競合他社がいない】
フランスやイタリアのワインは多く飲まれていますよね。ニーズはありますが、そこには大変さがあるんです。どうしたら他の卸業者と違いが出せるのかを考えなくてはいけません。
でもカナダワインなら扱っている業者が少ないですから、欲しいお客さんの多くをゲットすることが出来ます。

―でもカナダワインが魅力的であることが分かれば大手が参入してくるのでは?―
ニッチである理由の1つにカナダワインの生産量がとても少ないことにあります。
それはニーズを広げられないというデメリットではあるんですが、私たちの様な小規模な店にとってはメリットにもなります。
大手が参入しようとしますよね?でも棚にずらっと並べられるほどのワインを生産しているワイナリーは多くない。そうすると大手は参入しにくいんですよ。

あとワイナリーが売ってくれないんですね。わざわざ輸出しなくても、ワイナリーに来た人や会員に売るだけで、即完売できちゃうんですよ。なので彼らからすると輸出したいというモチベーションが非常に低い。
私が当初、ワイナリーにお願いした時
「輸出できるほどの在庫はないですよ」というのが最初のリアクションでした。
売ってくれるワイナリー探しが本当に大変でしたね。
直接ワイナリーに行ったり、メールや電話で何度も交渉をしました。
そんな中、運よくカナダで最優秀ワイナリーに3年連続で選ばれているような実力派ワイナリーが興味を持ってくれたんです。そこのワインが輸入できることになったことで、他のワイナリーとの交渉もうまく進むようになり、徐々に販売アイテムを増やしていくことができました。

―どんな交渉をされたんですか?―
ワイナリーにはただ売るんじゃなくて作り手の想いを顧客にちゃんと伝えながら売りたいと説明しました。
小規模で大事に大事に作っているのでたくさん売れればいいやという感じではないんですね。ワイナリーとしては魂を込めて作った大事なワインなので、やはりワインをしっかり受け止めて楽しんでくれるお客さんに飲んでもらいたい、作り手の想いやこだわりなんかを知ってもらいたいというのがあります。

また、消費者にとってもそういったワインのバックグラウンドを知ると、ワインがより楽しめるというメリットがあります。同じブドウ品種で同じ造り方だけど畑によって完成したワインの味が変わるとか。製造年とか環境で全然違う味わいになる、奥深い飲み物です。
ワインに限らずバックグラウンドを知ることによって、よりその良さがわかるってありませんか?。
例えばルイヴィトンの場合、ただの茶色のバックではないですよね?
作り方のこだわりとか、どんな由来で作られたのかとか。そういう事を知るからこそ高額にもかかわらず購入する人がいるわけですよね。それと一緒でワインも情報があるとよりおいしく楽しむことが出来るんです。

そういったことも伝えたくてこの店舗があるんです。実店舗を持たずにインターネットで販売すれば固定費もかからないのでいいかもしれません。でも、現物を見てもらいながらカナダのワインを直接紹介したい。その拠点が必要だと最初から思っていました。ですから、来店されたお客様には、つたない日本語ではありますが、できる限り丁寧に産地やワインのご説明をしています。それでも語りきれないことがあるので購入されたワインの説明書をお渡ししいているんですよ。


お店に行くとカナダ地図を使いながらワインの説明をしてくれます


ワインを購入すると細かく特徴が書かれたA4サイズの説明書をくれる

それとワイナリーには東京で売りたいということも伝えました。
日本にはソムリエの資格を持っているワイン好きの人が本当に多いんですよ。ワイナリーとしてはただお酒として飲むんじゃなくてしっかり評価してくれる人に飲んでほしいんですね。
あと日本、特に東京は美味しいお店が沢山ある世界有数のグルメな所です。ワインに合う料理があり、それを評価できる舌の肥えた人たちがいる。
そんな東京なら取引してもいいよという事になったんですね。

―ワイナリーの交渉を考えると新規参入の壁は高いですね―
そうですね。
カナダワインは誰にも知られていなくて自分たちで市場をクリエイトしていかなくちゃいけません。人気のあるワインを始めるとそれなりに難しさがあるし、カナダなら知名度が低いという難しさがある。
そこがメリットでもありデメリットですね。

ニッチの強み②【コストパフォーマンス】
今、コンビニでもワインが買えますよね?ボトル1本1000円で買える物もあります。
当店だと一番安くて2500円。
カナダワインは大量生産をしないので、ものすごく安いワインはありませんが、良いクオリティのワインをリーズナブルな価格で出せるというのが強みなんです。
例えば、カリフォルニアで30000円するワインを作る有名ワイナリーを立ち上げた人が醸造を手掛けているカナダのワイナリーのワインは6800円で買えたりします。
あとカナダ国内ですら手に入らない物が買えるのというのもあります。
この” フォックストロット ヴィンヤード ピノノワール”は、ニューヨークの老舗ワインスクールの校長が「今まで飲んだニューワールド(ヨーロッパ以外の産地)のピノで、最も素晴らしい」と最高の賛辞を送ったワインなんです。都内の老舗ワインショップのソムリエの方にも、「ピノノワールの完成形」と高く評価されています。
非常に生産量が少ないので、カナダ国内では一般販売はしていないんですね。ワイナリーの会員と高級レストランに卸で販売しているだけです。それを当店では小売りしています。価格は10000円です。10000円は決して安い価格ではありませんが、このワインのクオリティからすると普通では考えられない値段です。
ピノノワールで有名なブルゴーニュ産ワインだと10000円を出しても外れてしまうことが少なくないんですよ。まして、ここまで高いクオリティのピノは、その価格ではまず手に入らない。最高のクオリティのワインが、他の有名産地よりもずっと手頃な価格で楽しめるというのが、カナダのワインの強みなんです。ちなみに10000円というのは当店でもかなり高い方で、多くのワインは2000円~3000円台で手に入りますよ!


 ”フォックストロット ヴィンヤード ピノノワール”


ニッチの強み③【他店舗との差別化をうたえる】。
都内でソムリエの資格を持つ大将が営む日本料理屋があるんですね。そこのワインは大将自ら選んだ物をしか入れていないんです。でもそんなお店は東京には沢山あるんですよ。
そこで彼がやったのはワインリストの90パーセントをうちのワインにしたんですね。
お店の個性の一つとしてカナダワインを入れたんです。
カナダワインは珍しいだけじゃなくてクオリティも高い。でも他のお店では飲めない。
これは強いですね。
実際、このお店は開店当初から人気を集めて、繁盛しています。
知られていないという事はニーズが無いということで難しさはあるんですけど、そこに価値を見出してうまく使えると強みになるんです。


ブレイク寸前!? 今がオススメ カナダワイン!

カナダのワイン産業はここ10年で変わってきています。
昔、カナダでは寒さに強かったり伝統的な品種ばかり作っていたんですね。
それが80年代になるとアメリカなど他国産の安いワインが入ってきて、大規模で作っている所に淘汰されてしまうと不安が広がりました。
そこでカナダのワイナリーはどうせ少量しか作れないなら、良いものを手間暇かけて作ろうという事にしたんです。
そこで古くからあったぶどうの木を、最高の品質のものに植え変えをしました。
それが20年30年経って木が成長し良くなっているというのが今なんですね。
私がいた頃はワインのクオリティは高くなかったし、カナダ人でもワインを作っていることを知らない人がいました。
でも今は産地の大学に醸造学科が出来たりとか、地元の醸造技術のレベルが格段に上がっています。
さらに土壌が良いために世界の醸造家がカナダで作ったりしているのもレベルを上げている要因です。
今カナダワインは世界的に評価されてきています。例えばこのワインは北米で6位に選ばれたワインですが、当店では6900円で販売しています。それが、イギリスでは8300円で売られているんです。それはイギリスの販売業者がボッタくっているのではなく、それだけワインの価値が評価されているんです。
日本にも必ずブームが来ると思います。その時に物を持っているのは強いですよね。


まずは認知してもらう事が大事

―先ほどイギリスで8300円で販売されていると言っていたワインですがカナダではいくらぐらいなんですか?―
60ドルくらいですかねぇ~。

―え?儲けがほとんどないじゃないですか!―
まずはカナダワインの知名度が低いので、そこを何とかしたいんですね。
さっきも言いましたが、カナダワインは手間暇かかっていて小規模の生産なので安くないんですよ。
どうしても安いワインと比べると高いのでなるべく安く提供できるようにコストを抑えて販売しています。
とにかく多くの人にカナダワインを知っていただきたいですね。
一晩でうまくいくことはなくても長期的に広がっていけばと思っています。
ちなみに当店の店頭ではまとめ買い割引があるんですが、カナダでの小売価格より安くなることもありますよ。


元研究者というハマったら追及する性格が、カナダワインに対する知識量と情熱を生んでいるのかもしれない

ジェイミー氏曰く、カナダワインはワイン初心者にとってとても入りやすいのだという。
「カナダでは主要品種がほとんど作られているんです。なので色々な品種が楽しめるので初心者でも入りやすいんですよ」

最後に値段度外視でお勧めのワインを尋ねた。
”ベンジャミン・ブリッジ ブラン ド ブラン 2004”
お値段なんと税込で32,400円。


気のせいか他のワインに比べ重厚感があります

「たけーーーーーーーーーーーー」と思う前に読んでいただきたい。
このワイン、カナダで200本しか作っていないという超プレミア物。それゆえワイナリーのメンバーしか買えない一品なんです。でもジェイミー氏の度重なる交渉とワイナリーとの信頼関係で18本お店に入ってきたという。
スパークリングワインで、温暖化の影響を受ける前のシャンパーニュ地方の良年に非常に近い気候を有する産地で作られたということもあり味はもちろん言う事なし・・・なんだそうです。
飲んでいない筆者は味の表現を書くことを控えますが、こんなバックグラウンドがあるなら妥当な値段ですね。そんなことを知ってしまったら飲みたくなるのが人のサガ。
財布と相談しようと思ったが、20000円以上自分の財布に入っていたことが過去ない事に気づき早々に諦める。そんなビンボー筆者にも手を抜かず丁寧に説明してくれるジェイミー氏からはカナダワインに対する純粋な愛情を感じた。
世界的に評価された知られざるカナダワイン、ブームが来る前に高品質の味を確かめに恵比寿に行ってみてはいかがでしょうか?

【ヘブンリーバインズ】
 住所:〒150-0022
     東京都渋谷区恵比寿南2-29-5 ブルーローズガーデン1F
 営業時間:平日    午後3時~午後8時
      土・日・祝 午後2時~午後8時
 定休日:月曜日
 TEL:03-5773-5033
 HP: www.heavenlyvines.com

 
 

浅見良太

国歌研究家国歌の輪プロジェクト代表
浅見良太

埼玉県出身。テレビ番組制作会社を経て現職。
大学2年の時、ヒッチハイクで埼玉~屋久島間を19台乗り継ぎ往復し、自分の知らない世界に触れ、様々な人に出会える旅の面白さを知る。
2007年、初めての海外旅行でインド・ネパールを1ヶ月周ったことをキッカケに就職するまでにバックパッカーで計30カ国を訪問。
旅中、出会った人に出身国の国歌を歌ってもらい、それをボイスレコーダーで録音する“国歌録音活動”を始め、数多くの国歌を収録。国歌の奥深さ、面白さにはまる。
2010年、名古屋の東海テレビプロダクションに入社。情報番組、バラエティ番組、スポーツ番組などでディレクターを務める。同社在社中も仕事の合間をぬって国歌録音、執筆活動を継続。

2015年に退社後、”国歌研究家”として「国歌を通じた国際交流」の普及を目的に、国歌に関する執筆活動や講演、イベント運営などを行っている。
同年4月、国歌を通じた国際交流の普及を目的とした団体「国歌の輪プロジェクト」を立ち上げ、代表を務める。