海外ビジネスに関連するコラム

キムチの国から見たニッポン 第1回

日本企業は新卒ではなく、新入社員採用をするべき!

一橋大学 大学院生 金成美

 

外国人からみた不思議な国、日本

 

 国語大辞典(小学館)によれば、国際化とは国際的なものになること、世界に通用するようになることです。日本企業は現在、いつよりも国際化という言葉に迫られているのではないかと考えます。そこで、企業の国際化を進めて行くためには世界に出て行くことも重要だと思いますが、国内にいる外国人をより深く理解することも大事ではないかと思います。本コラムでは外国人の目からみた日本の文化の中で不思議なことを紹介し、その理由や背景を探してみる、または想像してみようと思います。

 

写真1 寮にて外国人仲間とともに食事会

 

不思議な就職活動文化

 私が日本に始めて来たのは19歳の時にバックパック旅行だったのですが、日本で始めて長期滞在をしたのは2006年大学学部3年生の後期でした。その時私は交換留学生として日本に来ていました。交換留学生だった私は与えられた1年がもったいなくて、もったいなくて、寝る時間を減らしても色んな場所に旅たち、毎日の悩みはどうすればもっと多くの日本人に会うことができるかでした。その頃、元々は学部3年生だった私のほとんどの友達は学部1年生か2年生でした。なぜでしょうか。学部3年生の学生たちはほとんど就職活動で日本語もあまり話せない外国人留学生なんかに気を配ることなんてとても難しいことだったからです。当時の私は学部3年で就職活動に苦しむ日本人学部生3年生たちがどうしても理解できませんでした。

 現在私は日本の大学院で博士後期課程に在籍しています。しかし、現在私のほとんどの友達は相変わらず学部1年生か2年生です。いや、私が日本の大学院に来てもう3年目なので、初めて会った時には1,2年生だった友だちが既に3年生4年生あるいはもう就職して社会に出ています。もちろん大学院に進んだ人もいます。しかし、私が良く会う「日本人友達」は常に学部1年、2年生です。

それはなぜでしょうか。

7年前と同じく学部3年生になると皆就職活動で大忙しになるからです。今の私は相変わらずその現象が不思議でたまりません。


留学への憧れと就職の現実に揺れる日本の大学生 

 最近さらに不思議なことを経験しました。アメリカに交換留学で旅たっている今年学部3年生の友だちがボストンで行なわれている日本人学生向けの就職説明会に参加したという話でした。因みに彼女はLAで留学中です。また、オーストリアで交換留学をしているもう一人の友だちは向こうでインターンシップをするために、私経由で成績証明書を送ってもらいました。日本に戻ってきた時にすぐに就職活動にインターンシップ経験欄に書こうと思っているようです。私はその国をたっぷり楽しんで、言語力などをアップさせることに頑張った方がいいのではないかと思うのですが、どうやら日本人の学生たちは留学先に行ってもやはり就職が気になるようです。

 

そこからまた頭の中に浮ぶ「なぜ…?」。日本人の学生たちに聞いてみたところ、「大学4年できちんと卒業しなければならない」と考えているからだと言われました。そこがまた不思議です。1年くらい留年または休学したって良いじゃないかと、私は思ったのです。

 

なぜでしょうか。この終わらない疑問を解決するために一ヶ月くらい人に会うたびに聞きました。なぜ日本では学部3年生の時に就職活動をするのか、そして、なぜ日本の学生たちは学業をたった1年伸ばすことをそれほど怖がるのだろうかと。

 

答えは意外と簡単でした。

「日本企業が学部3年生を対象に新卒採用を行なうから、日本の企業が学業を伸ばすことを嫌うから」です。

友だちは皆学部3年生の時に就職活動する。それと同じようにしなければ、日本にいる友達のように、いわゆる「良い会社」すなわち、日本の大手企業に就職できないからだと言います。

 

 このことは、日本人の方々から見れば当然なことかも知れません。学部1年、2年生の時には頑張って単位取得に取り組み、3年生になったら授業なんかに邪魔されず就職活動に頑張る。そして、4年生になったら卒業論文を書き終えて、1年前に決まっていた内定先に無事就職する。普通なことに見えるこのような流れが私の頭ではどうしても納得いかないのです。

写真2 多種多様な留学生が寮には存在する


 

日本企業は本当に「求める人材」を採用しているのか?

  そこから始まったわたしの疑問が今度は企業側に目を向けることを導きました。企業側から求めている人材像があまりにも採用している人材とは遠いのではないかというところです。なぜかというと、今の日本企業が求めている人材は「多様な経験に満ちている英語(または他の言語)が話せる人材」です。しかし、日本で就職活動をしている学生たちはほとんど学部3年生。1、2年生の時には、授業が多くて他の経験や英語力の向上などはあまりできません。そして、日本企業は留年や休学した人をあまり歓迎しないために、学校を休んで経験を増やしたり言語力を向上したりする時間がありません。いったいいつ、その「求める人材」になれるのでしょうか。

まだあります。日本企業は「新卒採用」というものを行ないますね。新卒と言うのは私が知っている限りでは、働き始めるその年に大学を卒業した人です。しかし、日本の新卒採用の対象は働き始める1年前の学部生です。いや、就職活動を始めるのはほぼ1年半から2年前ですね。このシステムのもう一つの不思議なところは、「新卒」という言葉です。なぜ、新卒でなければならないのでしょうか。

大学を卒業してから1年、2年くらい旅行したり、大学で学びたかったけどできなかったことを習ってみたり、自分のこれからの人生をどのように生きていくかを悩んでみたりしてから始めての職場を探してはいけないのでしょうか。そのためには企業側も「新卒」ではなく「新入社員」を採用するべきだと思います。

今回は日本の就職活動について不思議なところを並べてみましたが、次回ではこのような文化が定着できた背景について調べてみたいと思います。そうすると、なぜ「新入社員」ではなく「新卒社員」を採用するのかについて解明できると思います。

 


 

金成美

一橋大学大学院生
金成美

一橋大学商学研究科博士後期課程 一橋大学イノベーション研究センターリサーチャー
修士テーマは破壊的イノベーションと新興市場:POSCOのFINEX技術開発を事例にあげ、韓国鉄鋼産業の成立歴史/最新技術開発におけるイノベーションと日韓比較と言うダブルフィールドで経営ヒストリーとイノベーションを専攻とする。