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ベトナム・ハノイ工場立ち上げ奮闘記〜契約から本格稼働まで〜 第2回

驚愕のハノイ工場稼働へ向けて、アパート探しが始まった

元某自動車パーツメーカー ベトナム法人副社長 石井希典

 

驚愕の工場稼働にむけたスケジュール

「来年の5月には、工場をテスト稼働させるのが、取引先との約束。」
11月の訪越時、社長から発せられたスケジュールだった。土地の権利を獲得し、これから工場建設の準備という段階ではあったが、あと半年だ。

当然ながら、社長は、土地取得と並行して、建設会社とは打ち合わせをしていたとのことで、彼らのハノイオフィスを訪問した際には、費用見積もりの概算がでていた。スケジュールも、今からやれば、ぎりぎり間に合うという。本来ローカル企業に頼んだ方が、建設費は絶対に安いのだが、半年という短期間で、建設を進めることは、日本企業でなければ、不可能だろうとは、直感的に感じた。

 

緊急対応でベトナム滞在に向けての準備に入る必要性を認識。もともとは、C社に転職し(2013年1月1日付)、それからじっくりと推進と考えていたのだが、そんな悠長なことは言ってはいられない。今日明日にでもハノイに入り、現地で対応を始めた方がよいスケジュールだと悟った。

 自分の個人のアドレスに工場建設に関する情報を流してもらうと同時に、年が明けたら、すぐに暮らせるようにアパート探しを始めることにした。


アパート賃貸のルール、相場が不明確なハノイ

アパートを借りるといっても、いったいこちらでは、どうやって借りるのか? 11月の訪越時、ハノイ駐在の日本人にいろいろ尋ねたのだが、どうにも要領を得ない。わかったことは、少なくともハノイでは、不動産仲介のシステムが、日本ほど整備されていないという事だった。 

よって、人づての紹介や、評判のよいアパートに直接出向き、個別交渉で物件を借りているようだ。今回、KIM MA(キンマー)地区にあるVタワーという日本人向けサービスアパート(80平米で$2000/月)や、旧市街近くの5F建ての戸建て住宅の丸々賃貸(150平米で$1000/月)の紹介を受けた。いろいろ話をしている中で、大別すると、サービスアパート、コンドミニアム、通常のアパートの3種類があるということは、理解できた。ただ、少々定義も曖昧で、今一理解しにくい。この状況下で来月中に物件を探し、契約をするのは、独力では厳しそうだ。ここで、ようやくインターネットを検索。

結果として、日本人向けのアパート賃貸仲介業者2社を発見。そこで、この2社にコンタクトし、仲介を依頼した(自分がコンタクトしたのは、「ハノイの賃貸君」と「スターツベトナム」)。

 

【2012年12月20日訪問時、建設の最終段階だったアパート】



アパートの種類

ベトナムの場合、物件には、前述のとおり、大別すると3種類に分かれる。

1)サービスアパート:家具、電化製品等は全部そろっており、掃除、洗濯、食事等、物件によって違うがアドオンのサービスが受けられる。さらに、家賃には、水道料金、電気代等の諸費用も含まれているケースが多い。電球、トイレットペーパー等の消耗品の補充を、やってくれる物件も多い。このスタイルには、ホテル等の企業が経営するものと、個人がオーナーとなっているものに分かれる。サービスをどう受けるかは、交渉次第の側面がある。

2)コンドミニアム:マンションの一室であったり、戸建てだったりするが、基本は、家具付きの部屋なり建物を、そのまま借り受ける。サービスは一切ついておらず、掃除は自分たちで、光熱費も自分たちで払う。基本、消耗品の補充は、自分で行う。企業が運営するケースと個人オーナーのケースに分かれる。

 

3)普通のアパート:多くの場合は、個人オーナーと直接交渉して、条件を詰める。アパートだと通常は、家具類、電化製品を別途購入する必要があるため、初期投資がかかる。

家賃という意味では、サービスアパートが一番高く、普通のアパートが一番安い。


実際のアパート探し

2012年12月20日、丸々1日をアパート探しにあてた。事前に仲介業者に提示した条件は、以下のとおり。

1、工場が建設されるBACNINH省(バクニン省(ハノイの隣))に通勤しやすい場所

2、近所に、日本食レストランや、スーパーがある

3、一人暮らし用物件

4、家賃はサービスアパートの場合、$1000から$1500の間

日本人が多く住む場所として、ハノイの中では、日本大使館のあるハノイ中心より西部のKIM MA(キンマー)エリア、西湖の東のエリア、そして、ハノイ駅の東南、HAI BA TRUNG(ハイバーチュン)エリアとのことだった。この中でも、KIM MA(キンマー)エリアは、日本食レストランも多く、日本人が住むには適していると言われたが、BACNINH(バクニン)にゆくには、不便なことから、今回は候補からはずした。

【ベトナム・ハノイ赴任時に借りてきたアパート】


サービスアパート、コンドミニアム、通常のアパートと、終日、訪問させてもらい、家賃も$700~$3000と千差万別だったが、結局、HAI BA TRUNG(ハイバーチュン)区に近く、ダイソーから歩いて30秒ほどの場所にある、サービスアパートに決めた。ここは、個人オーナーで新築、オーナーが最上階には居住し、そのすぐ下(701号室)があいていた。また、HAI BA TRUNG(ハイバーチュン)の繁華街に近いのだが、大通りから一本入ることから、思いのほか、静かであることも気に入った。

【アパートから出た通り。比較的静かな狭い通り】


ベトナム人との親交の始まり

オーナー夫婦は、とても気さく。自分が最初の入居者だったことや、すぐ真下にいることと、ご主人(と子供たち)が英語を、話せることから、入居の準備段階から何かと世話をやいてくれ、足りないもの(調理器具、洗剤等)は、どんどん買ってきてくれた。また、入居後も、近所の案内やマーケットへの買い物に連れて行ってくれたり、夕食に招待されたりと、何かと世話をやいてくれた。おかげで、随分近隣に詳しくなり、マーケットへ、自分だけで再訪した際、すでに、顔見知りになっていた。近所の人も、何を言っているのかよくわからないのだが、何かと話しかけてくれ、すぐに近隣の人達と挨拶をしあう状況になった。

【アパートのオーナー夫妻】

全く言葉のわからない異文化の国に来たはずなのだが、住み始めて一か月もたたない内に、妙に暖かく懐かしさすら感じる生活環境になっていた。

ベトナム人は、仲間だ、家族だと思うと、とにかくフレンドリーで、親切だ。もちろん彼らは日本人のことが全般的に大好きなようだ。会う人会う人、日本人には、本当に世話になっているという。たとえば、日本のODAで、橋や高速道路の建設が進んでいることを、皆知っている(告知されている)。また、多くのベトナム人(ハノイ人?)のコメントとして、太平洋戦争時、フランスをベトナムから追い払ったのは、日本だというし、USAと戦ったアジアの同胞であり、ベトナム戦争時、兵を送り込まなかった国(韓国は送り込んだ)であり、中国との国境問題を共に抱えている同志だと言う。

かつて多くの国を訪問させてもらったが、良い意味でここまで自分が日本人であるという事を意識させられるのは、ベトナムが初めてだった。

 

次回は、いよいよ工場建設の開始について。


 

石井希典

元某自動車パーツメーカーベトナム法人副社長
石井希典

石井 希典 (いしい まれすけ)
1960年生まれ
1982年日本ビクター(株)に入社後、1990年、ソニー(株)へ転職、20年間在籍したのち、(株)メルコホールディングスに3年ほど在籍。
常に、新規事業を創出するための事業開発、事業企画および、事業運営に携わる。
2013年1月より、とある自動車部品メーカーに入社。現地代表として、単身ベトナムに渡り、工場建設から陣頭指揮し、11月に本格稼働をさせた。一定の成果をあげたことと、家庭の事情により、職を辞し、次なるチャレンジに参画すべく、充電中。