海外ビジネスに関連するコラム

ハラールを合言葉にイスラム圏と日本の架け橋に 第4回

結局、マーケティングなくしてハラルの成功はない。

一般社団法人ハラル・ジャパン協会 代表理事 佐久間朋宏

 

最近ハラルという言葉の認知度がとても高まりました。そのことは歓迎ですが、心配なこともあります。それは認証を取ればビジネスが成功するという考え方、つまり理解度の浅さです。この理解度でビジネスを進めると結局は遠回りするかもしれません。認証制度についてはイスラム的な進め方を非合理と考える上司を担当者が説得しきれなかったり、あるいはハラル対応策を認証団体の指示のまま計画したところ、コストが想定以上にかかり、事業が前に進まなくなってしまったりするケースを見てきました。

それ以前にそもそも味や色など気に入らない商品だったらハラル認証が付いたから急に好きになるわけがありません。ハラル・ジャパン協会としてはイスラム教とハラル認証制度の理解、そしてマーケティングせずに成功はないと考えています。



 



■ハラル市場の概要

ハラルビジネスの対象者とはどのような人たちでしょうか。イスラム教徒がそのままハラルビジネスの対象者として考えれば良いです。市場の全体像から見てみます。ある調査レポートによると、イスラム教徒市場の規模としては、2012年に1兆6,200億USドル(試算)だったものが、2018年までに2兆4,700億USドルに成長すると予測されています。うち食品とノンアルコール飲料の市場規模は2012年に1兆880億USドルで、2018年までに1兆6260億USドルに伸びる予測です。成長要因は人口増加と経済成長です。

ただし世界中の全てのイスラム教徒が同じ考え方、嗜好を持つわけではありません。これがポイントです。「イスラム教徒はこの味が好き」といった説明はありえません。通常のマーケティングと一緒で、国・地域・性別・年齢・所得などによってセグメンテーションするのが良いのです。しかし条件にしにくい個人の信仰度合いも影響があります。

 

■販売現場で実情を知る

マレーシアでは元来ハラルであるはずの米や水などにハラル認証マークが付いた商品が増えています。この状況はハラルの意味を知る人には??かもしれません。認証取得マークを付ける理由は加工・包装工程でもハラル性を保てていると担保するためで、製品の価値を上げて差別化をはかる目的だったのが横並びになってしまい、水はほとんどの商品にマークが付いています。実際の店頭や消費者の意識を調べないと見えてこない例の一つです。



 

■ハラルビジネスに有効な調査事業と参考資料

ハラルビジネスとは言え、消費者を理解した調査設計と分析さえ行なえば、技術的なものは一般の消費者調査と変わりません。ここからは消費者調査を含め、ハラルビジネスに役立つ具体的な調査事業と参考資料を紹介します。

 

1)マクロ統計データ

ハラル市場の規模やシェアは、急激に成長しているためか様々な機関が行なう推計に違いがあり、調べる際には出所を確認する方が良いです。マレーシアのHDC(ハラル産業開発公社)やアメリカのシンクタンクPEW research centerなどのデータがよく使われます。

輸出・進出に関しては日本貿易振興機構(JETRO)、インバウンドについては日本政府観光局(JNTO)のウェブサイトなどにも消費者についての情報があります。

 

2)消費者調査の方法(国内)

ハラル・ジャパン協会として企業に勧めるのが「本人に聞くこと」です。非ムスリムの日本人たちが憶測で商品を評価しても結果にはつながりません。現地の商社からの引合いも有力情報ですが、「本人」たちは身近にいるかもしれません。例えば大学の留学生です。全国各地の大学にいるイスラム教徒の留学生は大事な相談相手になるでしょう。さらに、ハラル認証取得後ないしハラル性が担保できる商品であれば、輸出の前に国内のイスラム教徒が多い地域に商品を流す形での情報収集もできます。

 ただし、ニーズを掴むためには少数の同じ人に聞くだけでは情報の不足や偏りが生じます。ハラル・ジャパン協会では企業からの要望に応じて消費者調査を行なっています。これは国内在住のムスリムが調査対象者となり、製品やサービスについて個別もしくはグループでインタビューを実施し、製品の評価や意識調査など深く掘り下げて「本人」の消費行動を探るものです。

また、ホテルやレストラン、テーマパークなど観光施設向けにモニターツアーも実施しています。食事はもちろん、温泉で他人に肌を見せられないなどイスラム教徒ならではの課題に正しくおもてなしの対応ができるか、施設側の実践を「本人」に評価してもらいます。

試食も有効な方法です。ある菓子メーカーはハラル・ジャパン協会のテスト販売事業「ハラルマルシェ」に3回参加し、販売時の試食の反応をみて味の調整を行い、最終的な味にたどり着きました。今では国際空港のお土産店での扱いに加え、国際線機内食に採用されています。

 

3)消費者調査の方法(海外)

現地で販売する製品なら、できるだけ環境が同じ現地で調査をする方が有効性が高いです。ハラル・ジャパン協会では、現地での個別/グループでのインタビュー、および数百名を対象としたインターネットでのアンケート調査も要望に応じて実施しています。また、展示会視察やスーパーの売り場などを見て回る市場視察ツアーを年数回行っています。

 

4)ニュース/動向収集

最新の情報収集も大切です。世界的に市場への参入企業が急増しているうえ、政府間の主導権争いも起きています。日本政府も今年度から農産品の輸出増に向けてハラル製品の支援にも補助金を出すなど取組みを強化しています。世界的な動きは1年前に比べ格段に活発化していますし、日本の動きはこの1年で始まったことも多いです。政府の支援を含めた業界全体の動き、競合の動きを把握するためにも、刻々と変わる最新の情報は収集できると良いでしょう。国内最大規模のハラルニュース解説サイトハラルジャパンチャンネル:https://www.halal.or.jp/hjch/ などを活用すると良いと思います。

 

イスラム教徒と言っても幅が広いことがおわかりいただけたと思います。ぜひ色々なイスラム教徒の意見を聞き、マーケティングして売れる製品やサービスをつくってください。

当協会ではハラルに関するマーケティング&リサーチを行っています。

https://www.halal.or.jp/main/service_10.php

 

次回は、事例をご紹介したいと思います。

 

佐久間朋宏

一般社団法人ハラル・ジャパン協会代表理事
佐久間朋宏

略歴
1964年 岐阜県下呂市生まれ
1991年 国立岐阜大学工学部工業化学科卒業
1992年  株式会社中広 入社 
2006年 常務取締役管理本部長でIPO準備  
2007年 名古屋証券取引所(証券コード:2139)に上場
2009年 株式会社東京事務所、日本エリアマーケティング支援機構設立
2012年 一般社団法人ハラル・ジャパン協会設立代表就任