お客様の笑顔は世界共通。いざ、本気の海外展開へ!

森辺一樹とゲストの特別対談シリーズ【グローバルの流儀】
第10弾のゲストはアース製薬株式会社 代表取締役社長 川端克宜氏をお迎えしての対談です。

「ベストクオリティで世界と共生」をコンセプトに、心地良い暮らしに貢献

森辺: アース製薬様は、家庭用殺虫剤商品の老舗として、日本人なら誰もが知っている企業です。 他にも我々の生活には欠かせないさまざまな商品を開発・販売されていますが、まずは御社の事業内容についてお聞かせいただけますか?

川端: 弊社は1892年の創業以来、安全、安心、快適な生活空間をサポートする商品を提供してきました。 主力商品である「ごきぶりホイホイ」「アースレッド」「アースノーマット」といった蚊、ゴキブリ、ダニ、コバエなどの家庭の害虫を駆除するための殺虫剤では、国内市場において55%を上回るシェアを占めています。 また、入浴剤「バスロマン」や洗口液「モンダミン」などの家庭用品分野でも順調に成長し、現在、家庭用園芸用品の分野にも力を注ぎ、成長基盤の確立に努めています。

また、グローバル戦略ではタイと中国の現地法人を中心に販売体制を強化し、展開を加速させつつあります。 「ベストクオリティで世界と共生」をコンセプトに、世界中の人々とさまざまな豊かさを創出し、心地良い暮らしに貢献することが弊社の使命だと考えています。

森辺: 家庭用殺虫剤市場において55%を上回るシェアを占める御社の強みは、どのようなところにあるとお考えでしょうか?

対談風景 川端: やはり消費財商品を売っている会社ですから、市場におけるシェアは、イコール「お客様の支持率」だと捉えています。 支持率というのは、買っていただいたお客様が笑顔になってこそ得られるもの。 笑顔になればもう1回リピートする。 それが信頼につながり、気に入った商品の新しいバージョンが出たら買ってみようかと思っていただけるんです。 そもそも「使って良かった」と思える商品でないと意味がない。 そういうものづくりをやっています。 それがシェアにつながっているんじゃないでしょうか。

森辺: 一時的に売上を伸ばすだけなら、プロモーションに力を入れるなどのテクニックで何とかなりますが、シェアを継続的に保つには、お客様の笑顔がないとダメだということですね。 笑顔のない商品が、高いシェアを獲得するなんてあり得ない。

川端: 弊社の商品だけではなくて、世の中すべてそうだと思います。 自分が消費者側としてものを買う時にもそうですよね。 気に入らなかったら二度と買いません。 そういったことを常に全社員に意識させているというのが弊社の特徴なのではないかなと思います。 笑顔にならない商品のことを「失望品質」という言い方をしていますが、そうならないようにやるんだと。

それともう1つは営業力。 営業力だけでも商品力だけでもダメで、その両者がクルマの両輪となって、ここまで会社を押し進めている要因になっているのだと思います。

「お客様目線」が笑顔を生み、リピートにつながり、売れ行きが拡大する

森辺: 消費者側の目線、お客様目線が重要だということですね。 川端さんにとってのお客様目線とはどのようなものなのか、また、現場にどのように活かされているのかをお聞かせください。

川端: 「お客様目線」という言葉って、ほとんどのメーカーやサービス業にかかわる企業でも言うじゃないですか。 私は通り一遍の言葉ではなく、それを本当に追求しなければならないと思っています。 メーカーの場合は研究者がいて、「こういう自信作の商品ができましたよ」と。 会社としても付加価値のある商品を作っていきたいというのは当然のことなので、ついつい、スペックに走りがちになってしまう。 しかし、そのスペックが本当にお客様の目線なのか、メーカーの目線なのか、ということが重要なんですよ。

いつの間にかメーカーの都合で商品を開発していることが多々ありますが、それは余分なスペックですよね。 そうならないようにしたい、というのが我々の考えるお客様目線。 それができれば笑顔を生み出すことができる。 笑顔はリピートにつながる。 リピートによってその商品の売り上げが拡大する。 これにより業界にも貢献できる。 こういうサイクルです。 お客様目線とメーカー目線の線引きは非常に難しい。 付加価値と言うと格好いいですが、そこにお客様目線があるかどうかが肝心なんです。

海外戦略でも同じです。 日本で良かったものが海外では必ずしも通用しない。 するわけないですよね。

海外は海外の生活形式があるんですから。 海外の生活に合った商品を開発しないと、日本では良くても、海外の消費者にとっては余分なスペックになっていることはよくあります。 これもまったく同じことだと思います。

対談風景 森辺: 付加価値が高くても、必ずしもお客様の笑顔を増やせるかどうかはわからない。 ここを間違えると独りよがりになってしまうわけですね。 「お客様目線」という言葉はありふれてるけど、御社の場合は、実はその奥底に、お客様にとっての付加価値、お客様の笑顔を追求しようという考え方があるんですね。 その先に、お客様からのリピートがあるという。

川端: 方針発表会や決算説明会などでも、我々が考えるお客様目線について必ず説明しています。 本当の意味でのお客様目線を大切にしたい。 頭ではみんなわかっているとは思いますが、それを実行できる企業は少ないでしょう。 弊社はそれができる会社になりたい。 わかっているのと、できるのとは違いますよね。

森辺: その通りですね。 海外事業では、わかっているけど、そうできていない例はごまんとあります。 製品も価格も、チャネルもプロモーションも、現地のお客様が最も大切だと言いながら、結果としてそうなっていない。

ガーデニング事業が前年比200%を超える売上を記録。経営の収益基盤に

森辺: 川端さんが社長就任前に、ガーデニング事業の立て直しという大役を果たしたという話をお聞きしました。 そもそも御社は、ガーデニング事業にどのように参入されたのでしょうか?

川端: 弊社がガーデニング事業に参入したのは前の社長の時です。 もちろん、新しいビジネスに取り組む時には、世の中にまだない商品を作り出せたら一番いいですよね。 先にやれば利益もついてきます。 その意味で、ガーデニングに関しては弊社は本当に後発中の後発。 当然、競争の中に飛び込んでいくわけなので、利益もあまり見込めません。 では、なぜガーデニング事業に参入したかというと、ガーデニングには植物の種や苗から園芸用具まで、さまざまなツールが必要。 その中でもいわゆる薬剤関係に関して言えば、そのベースになる部分には弊社が長年、殺虫剤で培ってきたノウハウがあるわけです。 ゼロからのスタートではなかったわけです。

そして、世の中にニーズがあるかどうかを考えていきました。 調査会社を通して調べた結果、「会社を辞めた後に何したいか」という質問に対して、「園芸」という回答が上位のほうに挙がったんです。 普通はニーズが高ければ市場は拡大するものですが、こんなにニーズが高い割に、ガーデニング市場はずっと横ばい。 「何か問題があるに違いない」と考え、弊社も参入したわけです。

森辺: 少子高齢化が叫ばれて久しい日本では、今後もガーデニングのニーズは高まっていくはずだと考えられたわけですね。 当時、御社は後発中の後発である中、具体的にはどのような問題があり、川端さんはそれをどう解決されたのでしょうか? 川端さんの経歴と併せてお聞きできますか?

川端: 私は1994年にアース製薬株式会社に入社しました。 大阪支店の営業部に配属され、順調に成績を伸ばして、2006年には広島支店長、2011年には役員待遇大阪支店長に。 「次は東京支店長だろうか」などと漠然と考え始めていた2013年、突然命じられたのがガーデニング事業への異動です。 ガーデニング事業は当時、鳴かず飛ばずの部署でしたから、正直、ショックを受けました。

弊社は後発であることはわかった上でガーデニング事業に参入をしたものの、いわゆる通り一遍の悪いスパイラルに入ってしまっていたんですね。 何かと言うと、先発メーカーさんがすでにやっていることをメーカー目線で、「うちのほうがちょっと安い」「うちのほうが速く効く」と、スペック追求をしていった。 それがお客様のニーズに合っていなかったんです。

ガーデニング戦略本部長に就任した当時、会社からは期待も込めてだったと思うんですが、「お前ができなかったら、たたんでもいいよ」ぐらいに言われまして。 そこまで私を信頼して預けてくれるんだったら、怖いものなしというか、何でもやれる風土を会社側が作ってくれたという後押しもあったわけです。 まずは失敗している原因をSWOT分析にかけていく中で、たどり着いたのがお客様目線ということでした。

お客様目線の第一歩は不便、不満の解消です。 何にしても100%完璧な商品なんてなくて、実はどこかに不便なところや不満点がある。 大小にかかわらず、それが解消できればリニューアルや新商品につながるんだと。 まったく新しくはならなくても、不便・不満が解消できれば充分に売れる可能性があるはずです。 園芸用薬剤商品の中で不便・不満を考えていくと、実は薬剤そのもののスペックにはお客様はもうある程度満足している。 それよりも、先発メーカーさんの商品はプロ向けなので、一般家庭から見ると希釈の仕方が難しいことがわかりました。 10分の1に希釈、100分の1に希釈と言ってもわかりにくいし面倒くさいわけです。 希釈すると手につく可能性だってあって、薬剤だから手につくのは嫌なわけですね、お客様は。 それならば、最初から希釈しなくていい商品があったほうがいいじゃないかと、弊社はスプレータイプを開発しました。

肥料にしても、効き目の速さより、どのくらいあげたらいいかがわかりやすいことが重要。 自分が育てている大切な植物には、肥料はいくらでもあげたくなるものです。 しかし、あげすぎても枯れてしまいます。 適度な量をわかりやすくするために弊社が行ったのは、計量キャップつきの肥料の開発。 片手でボトルを押せば計量キャップの中に肥料が入るようになっていて、簡単に計れるという。 中身は何も変えていませんが、その便利さが非常にウケたんです。

除草剤では当時、農薬を使うことが当たり前でした。 農薬というのは人間の世界で言えば医薬品で、決して悪いものではありません。 ですが、昨今では農薬を混入した食品による事件が発生したことで、農薬のイメージが悪くなったのも事実です。 小さなお子さんやペットを飼っていたりする消費者にとっては、農薬は使いたくないものに変化してきました。 それならばと、弊社は業界の常識に反して、農薬を使わない食品成分由来の除草剤を作りました。 初めは社内外、業界全体から「絶対に売れない!」と反発を買いましたが、それが爆発的に売れたんです。 一言で言えば、他社がやっていないことではありますが、他社がやっていないことを追求するのではなく、あくまでも起点はお客様。 お客様の不満点を解消した結果、他社にはない商品ができた、という話です。

森辺: さきほどお話しいただいた、お客様の笑顔を増やしたいという気持ちから、そのためには問題点を取り除かなければと。 その問題点は一体何なんだとひたすら考えていったら、希釈しなくていい園芸用殺虫剤、計量キャップ付きの肥料、農薬を使わない除草剤の開発に行き着いたということですね。 川端さんは園芸のプロとして採用されたわけじゃないですよね?

対談風景 川端: 逆にそれが良かったんだと思いますよ。 まったく園芸のことを知らなかったからこそ、素人の目線を持っていましたから。 業界のタブーだろうが、そんなの関係ない。 自分が使うんだったらこのほうがいい、という視点から見ることができました。 結果的に、ガーデニング事業は前年比200%を超える売上を記録する急激な成長を遂げたんです。 私自身にとっては、ガーデニング事業が経営の収益基盤に乗ったことよりも、商品作りの大事なことがすべてお客様目線にあるということを身をもって実感した経験が非常に大きい。 これは園芸に限られたことではなく、殺虫剤、入浴剤、芳香剤、すべてに言えるので、社長になってからも自分の中で大きな比重を占めています。 そういう意味では、ガーデニング戦略本部長をやらせてもらったことは、私の原点になっています。

弊社の社員でもそうですが、メーカーで研究員や営業マンとして勤めていると、自社製品に誇りを持つことはとても素晴らしい。 しかし違う側面を見れば、自分たちも消費者なんですよね。 食料品や日用品を買う時にはしっかり消費者の目線で見てるじゃないかと。 そこから「どんな商品があったらいいんだ」と考えれば、答えは自ずと出てくるじゃないですか。 売れると思った商品が売れなかったのは、そこを外していたから。 要は自己満足になっていたんだと気付くことが大切なわけです。

森辺: これは業界、エリア問わず、万国共通でどの領域にも応用が効きますね。

川端: しかし意外と実行は難しくて、多分どこのメーカーでも少なからずやっていると思うんですよ。 「やっていません」というメーカーは、とっくにつぶれていますから。 ただし、その実行力によって、大きな差が出てくると思います。

森辺: その調整が重要ですよね。 「アジアでは中間層が大切だ」と言いながら、結果として富裕層向けの商品開発になっているし、モダントレード中心な販売チャネルになっていて、伝統小売りにはなかなか商品が並ばないという。 輸出のビジネスをしている場合は特に顕著です。 お客様目線を本当に追求できているか否かの実行力がものを言うわけですね。

チャネルの重要性に着目した店頭支援部隊「EMAL」が大成功

森辺: 次に、私がとても興味を持ったのが、2004年に御社が立ち上げた独自の店頭支援部隊、「EMAL(エマール)」という組織についてです。 この活動についてお聞かせいただけないでしょうか。

川端: EMALは前社長の時代にスタートしたんですが、その時には「お客様目線」という言葉は使わないにしても、時代の先を読んだ試みだったと思います。 営業の現場は男性が多く、売場では段ボールをビリビリ破って、商品をどんどん積んで、値段をボーンと付けて、はい売りますよ、とやっていたんです。 当時はそれが当たり前で、それでも売れる時代背景でした。 その時に前社長がふと思ったのは、我々の商品を購入する消費者は7割が女性だということ。 それで、地域の女性の目線に立った売場づくりができる組織を作ろうと考えたのがEMALだったんです。

消費財業界ではフィールドレディと言われるようなアウトソーシングの部隊はたくさんありましたが、アウトソーシングでは意思や想いが伝わらない。 弊社では直接雇用で、未婚・既婚、子どものいる・いないにかかわらず、地域の女性たちを雇っていったんです。 彼女たちは地域の消費者代表。 その目線で、「私だったらこういうことがあったら買いたいな」「子どもがいるからこういうことが心配だ」と思うことを全部手書きのPOPにしていったんですね。 それがEMALの始まりで、現在では全国で280名くらいの組織に成長しています。

こうした発想もお客様目線です。 今でこそ当たり前のようになってきてはいますが、弊社が始めたのが10数年前。 この間に培われたノウハウは、他社にはとても真似できないものなのではないかと思っています。 EMALには売上のノルマを課していません。いかに売場が活気付くかどうかで成功・不成功を判断しているんです。 それが信頼感になり、いい方向に行ってるのかもしれませんね。 冒頭でお話しした両輪の片方、営業力にはEMALも大きく貢献しているというわけです。

森辺: どこかの記事で、川端さんが「いくらいい商品を作っても、店に並んでなければ何の意味もない」とおっしゃられているのを拝見しました。 多くの消費財メーカーの社長さんや海外担当役員の方々は、海外展開においては、チャネルが重要だということをあまり言わないんですよね。 どちらかというと商品、よりいいものを、より世の中のためになる付加価値の高いものを追求すると、製品寄りの話が多い。 しかし、川端さんは、チャネルが重要だと言っている。このことについてお聞かせください。

川端: 我々が「お客様」と言うのは、2つあると思います。 1つ目はいわゆる消費者。 もう1つは流通業者です。 どんなにいい商品を作ったとしても、流通業者が店頭に並べてくれなかったら、消費者の手に渡ることはない。 最初は付き合いで置いてくれたとしても、その商品に魅力がなかったら続くことはないですからね。 この2つのお客様を満足させることが大事だと思います。

森辺: アジア新興国などへの展開時、日本企業の最大の問題は、「うちは高い原材料を使って、高い技術でいい商品を作ってるんだから、高くて当たり前。 アジア新興国の皆さん、さあどうぞ!」と出て行くんですが、これでは、なかなか受け入れられません。 「うちの洗剤は生地を傷めずに真っ白になるんです!」と言っても、アジア新興国の中間層の人たちは、元々着ている服の生地がまだそんなに良くないから、生地を傷めないことはまさにオーバースペックになってしまうという。

そういう意味で、商品以上にチャネルがすごく重要で、EMALという組織はまさに今、日本企業が海外でできずにいることを実行できるような組織に思えました。 将来的にはEMALを海外に持って行くというようなことはお考えですか?

川端: 弊社の海外展開は私の代になってから加速しようとしているところで、私に言わせれば、まだ1つもやっていない状態に等しい。 そうは言っても、タイと中国の一部ではある程度のルートを確立しているので、必ずしもゼロではありません。 今は、これまでに何をやってきたかということをしっかりと分析しながら、次の手を練っているところです。 タイについてはEMALみたいな部隊を作ろう、ということで実は少し前から動き始めていまして、タイ人の責任者を日本のEMALの会議に出席させています。 日本でも10数年間かかってますから、タイにおいてはお楽しみということで(笑)。

お客様と、メーカーが持ついい商品をつなぐのは店の売場だということは万国共通。 いい事例は物真似せよ、じゃないですが、日本での成功体験をそのまま持って行くのではなく、他の国にも応用していこうと考えています。

すでに基盤のあるタイと中国・上海で、支持率=シェア獲得を目指す

森辺: よくビジネス誌やビジネス書には海外で活躍している日本企業の特集や記事が載っていますが、実際に私は現場を見ているので、ユニリーバやネスレ、P&Gのような先進グローバル企業のように、アジア新興国を網羅的に、且つ、戦略的にマーケットシェアを取っていく、という段階には、どの日本の消費財メーカーもまだ到達していないと思っています。 しかし、特に国内の殺虫剤の分野では、シェア5割を超える巨人。 私的には、「ついにアースが、重たい腰を上げた!」みたいな印象があるんですが、海外にはどのように取り組むおつもりでしょうか?

川端: そこに対する思いは、実はいろいろありまして。 日本の場合は1億2,700万という豊富な人口があり、日本で充分商売できていたのに、たくさんの企業が海外に行ってはいます。 万が一失敗しても、別に日本で充分にメシが食えるという考え方が絶対にあったはずなんですよ。 それは別に悪いわけではないんですね。投資家が喜ぶからだと思うんですが、「海外比率が売上の中で何%を占めます」などということばかり言うじゃないですか。 それは全体の売上に対しての話であって、何が大事かというと、お客様の支持率=シェアだと考えれば、そのエリアにおけるシェアが何%かということなんですよ。

例えマーケットサイズが小さかったとしても、その国においてシェアを5割取っていれば、成功していると判断できます。 そういう見方をする企業があまりない。 「どこの国でいくら売った」と言いますが、「シェアが2%しかない場合でも成功と言えるんですか?」と、常々思っていまして。 弊社はそのような海外進出をする気はまったくありません。 やるからには、そこの国で支持率を得る、ということしか考えていませんので、海外進出は本気でやります。 タイと中国の上海周辺は害虫が多いことや、経済成長率、流通がそれなりにあるかどうか、伝統小売りからモダントレードのへの移行の度合いなどを考えると決して悪くはない。 そこを真剣にやるだけで、2020年に2,000億の売上を目指す弊社としては、結果として300から400億ぐらいは海外でいくだろうと推察しています。 弊社にとってはタイと中国でシェアを上げることが最優先。 そこで成功していないのに、二兎を追っても意味がないんですよ。 やるからにはその国に根差すというか、その国の消費者に「アース製薬があって良かった」と言われて、初めて成功したと言えるのではないかと。 それができれば、次はベトナムかインドネシアかマレーシアかサウジアラビアか……、インフラや会社情勢などを考えながらターゲットを決めていくことになるわけですが、今からどうこうとは考えていません。

いろいろな意味で社長交代が転機になっていますよね。 前社長の時には、海外をやれなかったんじゃなくて、やらなかった。 当時はM&Aも含めて、結構いろいろな案件があったみたいなんですが、全部断ったそうです。 当時はまだ日本が盤石ではなかった。 闘う敵は少ないほうがいいに決まっています。 まず国内基盤を充分に固めてから海外に行けばいい、という考え方があったんです。

現在でも、まだ国内での闘いは100%終わったわけではありません。 しかし、先ほど述べたような考え方の中で、海外に討って出る時が来たのかな、というのがこのタイミングなんです。 そこにはさまざまな要素がありますが、1つは異常気象。 ここ4、5年、毎年、「異常だ、異常だ」と言っています。ここまで来たら来年、普通の夏が来る保証がもうないじゃないですか。 「冷夏が続いたから経営が危ない」なんて嫌ですよね(笑)。 これを筆頭にさまざまな要因が重なって、私は時が来たと。海外に出るのにちょうどいいタイミングだな、と思っているんです。

対談風景 森辺: 川端さんの考え方は素晴らしいと思います。 海外展開というと、マーケットのこともわからず、ただ他の国に輸出するという日本企業が多いですが、輸出ビジネスというのは、日本の輸出業者か現地の輸入業者に商品を売っているだけなので、そんなのはグローバルビジネスでも何でもありません。 相手国の港から、自分たちの商品がどのような流通を通じ、どのような小売に、どのように並べられ、どのような消費者が買い、それを食べて、使って、何を感じ、リピートしているのか、していないのかを完全に無視したビジネスです。 それではマーケットシェアなんか作れるわけはないので、私は常々、そういう輸出ビジネスから日本の消費財メーカーは脱却してチャネルビジネスをやるべきだと言っています。

このチャネルビジネスとは、流通や消費者の全てを把握した上で行うビジネスです。 最初は輸出ビジネスで始まっても良いと思います。 しかし、シェア5%以上を目指すなら、それを輸出型のチャネルビジネスに変え、シェア20%以上を目指すなら、最終的には、原産現販型のチャネルビジネスに変えていかなければ、他国の地で本当の意味で継続的に勝ち抜くことはできないというのが私の持論です。 なので、御社が、タイと上海に拠点を持ってそこに集中するというのは、まさにチャネルビジネス。 そこで笑顔を作ろうという考えこそが、本当のグローバル展開だと思います。

川端: むしろ輸出をやめたいぐらいなんですよね。 先ほど言ったような、本当のメーカーとしての使命を果たしてないことに加えて、これほど不安定な経営を強いられることもないんですよね。 今年は売上が達成できても、来年以降は保証がないわけです。 ひょっとしたら来年は、「今年送った分の在庫が残っているから1年間休みます」と言われかねない。 「世界55カ国で展開してます」と言えば聞こえはいいですが、2カ国でも1カ国でもいいんです。そこでしっかりと存在感を示せれば。

森辺: その通りだと思います。輸出ビジネスから脱却できないメーカーの、輸出目標未達の言い訳は、「為替」と「景気」です。 円高が進み苦しかった。 現地の経済成長率が落ち込みしんどかった。 為替や景気は、業績を上げる上で非常に大切な要素ではありますが、それらアンコントローラブルな二つの要素に委ねられた海外展開はリスクでしかありません。 しかし、川端さんの海外事業に対する考えを聞けば聞くほど、これからの貴社の海外展開にワクワクしますね。

語学よりも、経験を積んだ優秀な人材を海外に送ることが第一

森辺: 海外展開においては社員のマインドもグローバルビジネスにふさわしいものに変革していくことが重要ですよね。 これについてはどうお考えでしょうか?

川端: 実は弊社では、タイに600人ぐらいの社員を抱えて、30年以上細々とビジネスをしてきました。 過去にどういう人材が海外に行っていたのかを調べてみると、現地の本部長からも日本の海外事業の本部長からも、「タイ語か英語ができる人」という答えがまず返ってきたんですね。 確かに、現地語で会議をやっているところに日本人が入って、通訳さんを横に置いてまどろっこしい話し合いをするのは、むしろモデルパターンとしていいことではないと思います。 だからといって、タイ語が優先順位の1番じゃないですよね。 タイ語を専攻した人間を採って、何の営業経験もさせずに現地に送るというのは、弊社の歴史の中でも間違った判断だったと思います。

まずは考え方が1番。 今、私の代になってから、何人か日本人を向こうに送っていますが、タイ語ができる人はゼロ。 日本である程度の経験を積んだエース級の人間を送っています。 言葉は後からついてくるだろうと思っていますので。 今は、ホップ・ステップ・ジャンプで言えば、ホップからステップに行こうとしてるところなので、考え方を共有することを第一に考えて、言葉はしゃべれなくても日本の優秀な人材を投入する。 次のステップからジャンプの段階では、日本人だけではなくて海外の人材も含め、ダイバーシティの考え方を取り入れていこうと。

ただ、タイ行きに指名された人はショックを受けるんですよね。 それまで海外に行った人は左遷に近いような状態のことが多かったので、いいイメージがないわけですよ。 私がガーデニング事業に行けと言われた時と一緒ですね(笑)。 そこで私は、ベタな言い方だけど、「これからは海外を経験した人じゃないと、出世しないよ」と。 「逆に行きたくても、行かせられない時代が来るから、その先例として行ってくれ」と、説得したわけです。 何人かが私を信用してくれて、行ってもらったのが今の人材。 それからようやく2年ぐらい経ってきたので、今後は「海外に行きたい」と手を挙げてくれる人間が出てきてくれたらいいな、というのが今の人材への考え方です。 社員のモチベーションがそこへつながるようになっていけばいいなと思っています。

森辺: その通りですね。 御社がずっと大切にしているお客様の笑顔を作るということは万国共通なので、それを一番に考えられる人が海外に行けば、語学は後からついてくると思います。

川端: 結局、多様性があって前向きないい人材は、どこへ行っても通用するんですよ。 専門や得意分野はありますが、「これしかできない」という人じゃないから順応していくわけです。 そういう人は、海外に行ってもすぐに言葉を覚えますよね。

過去の成功が未来を保証してはくれない。だからこそ前進を!

対談風景 森辺: 最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか?

川端: 売上金額で言うと、東京のオリンピックイヤーである2020年に、2,000億円の達成を目指します。 今、当社の実績は1,600億円弱ですが、そこへやりたいこと、やらなければいけないこと、成長基盤などを考慮して算出したもので、たまたま語呂合わせがいい数字になっていますが(笑)。 ただ、私は数字ありきではないと思っています。 ここまで述べたようなビジョンが一人ひとりの社員に浸透していけば、自ずと達成できる数字なのではないかと。 そういう会社でありたいし、常に人を大切にして、結果的に社員が幸せになっていくというような方向性を目指したいですね。

それから、今後は国内と海外の戦略がもっと変わっていくのではないかと考えています。 私が入社した20数年前には殺虫剤に特化した会社でしたから、将来、ガーデニング事業をやることやバスクリンを買収することになるとは、夢にも思いませんでした。 ここから10年、20年のスピードは、その時よりも5倍、10倍速い。 アース製薬がどう変わっていくかを楽しみにしていただきたいです。 時代の流れとともに変化していく中で、ひょっとしたらクルマを売ってるかもしれません(笑)。 東京に本社がある必要もないと思っていますので、ひょっとしたら上海やタイに移転しているかも。 それぐらいの転換をする可能性は、私は否定しないです。

過去の成功はDNAになっていると思うし、収益源でもあるし、大事なことですが、過去の成功が未来を保証してはくれませんからね。 過去を尊敬しないという意味じゃなくて、伝統の中で敬意を表しながら次へ進んで行かなければならない、と思っています。

森辺: 「過去の成功が未来を保証してはくれない」というのはいい言葉ですね。 コアの部分で大切なものは大切にするけれど、だからといって「自分たちは殺虫剤屋だ」ということに縛られずに、もっとオープンマインドで前に進んでいこうよ、というわけですね。 50年先、100年先はどんな会社になっているかわからないんだからと。 また、余談ですが、川端さんが記事に書いていらっしゃった「人生に夢があるのではなく、夢が人生を作るのだ」という言葉、まさにその通りだなと思って、会社に貼り出したんですよ(笑)。

川端: 僕が考えた言葉じゃなくて、学生時代に読んだ本の中の言葉ですけどね。 実現したいと強く思う夢や目標を抱くからこそ、絶えず追い求めて努力することができて、人生が作られていくのだと思います。 弊社は100年以上の歴史がある老舗企業ですが、私が過去の否定をしなければ誰も否定することはありませんし、もちろん否定ばかりでもない。 あくまでも会社が、いい会社として存続していくことを自分や社員の夢として、さまざまな課題に向き合い続けていきたいと思います。

グローバルの流儀 特別対談シリーズ

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森辺一樹

スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長 ファウンダー
森辺一樹

1974年生まれ。
幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。
帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。
2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。
2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。

専門はグローバル・マーケティング。
海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。
15年で1,000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。
著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』(白桃書房)などがある。

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