「まだまだ足りない」という思いで、海外へ、新商品開発へ

森辺一樹とゲストの特別対談シリーズ【グローバルの流儀】
第11弾のゲストはシヤチハタ株式会社 常務取締役 舟橋明範氏をお迎えしての対談です。

ネーム印をはじめ、機能性や利便性を追求した捺印具や筆記具を提供

森辺: シヤチハタといえば、言わずと知れた、朱肉やスタンプ台がいらないインキを内蔵した浸透印で有名な企業です。 中でも「ネーム印」は、会社や家庭においても使われ、 今では社名というよりも「シヤチハタ」がネーム印の呼び名として使われているほどですね。

舟橋: お陰様で、1925年の創業から90余年、スタンプから電子印鑑まで、機能性や利便性を追求した捺印具を作ってまいりました。 他にも筆記具をはじめとするオフィスや家庭で便利に使える数々の商品をお届けしています。 日本のハンコ文化には言わずと知れた長い伝統がありますが、専門の印章店さんで扱っているような登録印などの「印章」に対して、 当社が手掛けるのはもっぱら「事務印」なんですね。

森辺: 初めて舟橋常務にお会いした時、「常務だというのに、本当にいい人だなぁ」と感じました。 初対面で、味噌煮込みうどんの話をしましたよね(笑)。 その後、おみやげで味噌煮込みをいただいたこともありましたね。 気さくで、人と人とのコミュニケーションを大切にするあったかいお人柄だと感じました。

対談風景 舟橋: コミュニケーションを大切にするのは、当社の社風といえるかもしれません。 会長も社長も、「人を大事にしろ」「お客さんの信頼を大事にしろ」としょっちゅう言っています。 特に海外ディストリビューターとは40年、50年と長いお付き合いなので、 商売そっちのけで昔の写真を見ながら話に花が咲くこともよくあるんですよ。 ディストリビューターにも、当社の会長や社長のことが大好きだと言ってくれる方がたくさんいます。 一番の戦略はコミュニケーション、一番大切にしているものは「きずな」、といったところでしょうか。

森辺: 御社は小さな文具店さんや印章店さんまで大切にされているイメージがあります。 普通なら大きな文具店ができたらこぞって営業をかけに行くものですが、 御社はそれよりも、ご縁のある取引先と長く、深く、きずなを積み上げていくタイプの企業だと感じます。

90余年の歩みの中で、世の中のあらゆる企業の業務効率化に貢献

森辺: 御社は元々、スタンプ台のメーカーだったそうですね。90年以上にわたる歩みをざっとお聞かせいただけますか?

舟橋: 当社の創業者である舟橋高次は私の祖父に当たります。 祖父は配置薬の仕事をしていましたが、当時は印刷の技術がそれほど普及していなかったので、 1枚1枚の薬袋にスタンプを押していたんですね。 そのスタンプ台のインキがすぐに乾いてしまってインキを補充しながら使っていたので、 祖父は「乾かないスタンプ台があったらいいなぁ」と思い立ち、研究を始めました。 その結果、インキにグリセリンを入れることで乾燥しにくい「万年スタンプ台」の開発に成功したんです。 それを機に独立し、スタンプ台のメーカーとしてスタートしました。

対談風景 森辺: 今のシヤチハタというと、「ネーム印」や「Xスタンパー」といった、インキが既にしみ込んでいるスタンプが有名ですが、 スタンプ台からスタンプへと業務の幅を広げていったわけですね。 そもそもスタンプ台メーカーとして創業した会社がスタンプ台いらずのスタンプを作るということは、 スタンプ台の売り上げを落とすリスクがあるように思えるんですが、その点では当時、どんな経営判断があったのでしょうか?

舟橋: 祖父は非常に研究熱心だったことに加え、自分の仕事の効率を上げるために「万年スタンプ台」を開発したことからもわかるように、 人々の作業をより楽に、便利にしたいという思いが強い人でした。 「Xスタンパー」を開発し始めたきっかけは、高度経済成長期にさしかかり、事務能率の向上が求められていましたが、 相変わらず会社では、スタンプ台や朱肉を使ってハンコやスタンプを使っていました。 それを何とか効率化できないかと考えたことに端を発します。 スタンプ台が売れなくなるという危機感もあったでしょうが、便利にしたいという使命感の方が勝ったんでしょうね。

森辺: 今では消えてしまった消費財メーカーはたくさんあって、自社の商品に危機感を持てなくて失敗したケース、 危機感はあったものの次の柱を作れなくて廃っていったケースが見受けられます。 そんな中で、既にある商品が売れなくなることにそれほどリスクを持たず、 変わることを恐れずに、よりいいものを作る方が世の中のためだと考えたことから、新しい柱を立てることに成功したと。 シヤチハタは誰もが知っている企業でありながら、今の時代にないような縁の下の力持ち的なスタンスで、 世の中の企業の業務効率化に貢献されてきたんですね。

舟橋: そのようにおっしゃっていただけると格好がつきますが(笑)、 実際には社内で「スタンプ台が売れているんだからこのままでいいじゃないか」という声もあって、 開発は順調に進んだとは言えない状況でした。 「Xスタンパー」の開発には10年以上の歳月を費やし、投資額もかなりのものになってしまって。 出したら出したでまた苦労があって、ちゃんとした職人さんが彫ったハンコを扱う印章店さんからは相当バッシングがあったと聞いています。 発売当初は返品の山で、「もうやめてしまおうか」、というところまでいったそうです。

しかし、印章店さんには「Xスタンパー」が事務作業の効率化にいかに役立つかを根気強く説明して、 文具店さんだけではなく印章店さんにも置いていただくことで共に利益になるように持っていきました。 発売当初は商品も完全なものではなく、返品された商品はその原因を探り、改善して、もう一度お客様のところに納品して……。 お客様が再チャレンジさせてくれたから、育ててくれたからこそ、やめずに済んだという経緯があったんです。

森辺: ロマンがあっていいですね。企業が何か新しいことをやる時には、必ず社内にはそれを良しとしない反対勢力が生まれるものです。 それが恐らく9割で、新しいチェンジに向かって行こうとする人はほんの1割といったところでしょう。 その中で、反対していた9割を賛成に導くことができたのは素晴らしいですね。 新しいことを生み出し、さらに利益を出していくのは、ものすごく時間と労力もかかるので、途中で諦めたくなるじゃないですか。 例えるならば、嵐の中を飛行機を操縦士して飛んでいるようなもので、 この先に急に雲が晴れて太陽がパーっと差し込む光景をパイロットが明確にイメージできなければ、 とてもじゃないですが進んで行くことはできません。 創業者であるおじい様だからこそ、そこへ引っ張って行けたんでしょう。 そうした苦労があって、印章店さんとの協業をはじめとする市場にも育ててもらって、今の状況があるんですね。

約8割のシェアを誇る、日本の事務印文化を浸透させてきた立役者

対談風景 舟橋: その後は「これは便利!」と話題になり、瞬く間に「Xスタンパー」は一般の消費者に浸透していきました。 中でも個人名のスタンプである「ネーム」という商品が親しまれ、商品自体が「シヤチハタ」と呼ばれるようになったんです。 現在ではお陰様で、国内の浸透印市場で約8割のシェアを誇るまでに成長することができました。

森辺: 「Xスタンパー」は今でこそ当たり前のように皆さん使っていますが、 「スタンプにインキをつける」というたった1ステップが省略されるだけで事務作業の改革になったと言っても過言ではないでしょう。 2ステップのもが1ステップになるというのは50%カットですからね。 2倍速になるということですから、これはすごいですよ。何より、書類から目を離さずに済むのは非常に便利ですもんね。 印影も鮮明で、押し損じるなどということはまずありません。 銀行だけではなく、承認印が大量に必要な大企業やお役所でも大いに助かっていることでしょう。

スタンプ関連の他にも日本で人気の商品はありますか?

舟橋: 実は事務用の朱肉も当社が開発したんですよ。昔はどろどろとした練り朱肉で使いにくいものでしたが、 スタンプ台と同じような構造を考えました。 これも企業の業務の効率化のお役に立っているものと思います。 今では、紙に押すスタンプ台やXスタンパーだけでなく、工業用として金属などに押すためのスタンプも作っています。 それから、変わったものだと、電子印鑑システム「パソコン決裁」ですね。 パソコン上で書類へ捺印して社内メールで決裁が可能なソフトウェアです。

森辺: 「印章文化」と一口に言っても、伝統的な「ハンコ」の文化と、より効率よく仕事を進めるための「事務印」の文化に大きく分かれていて、 今の日本にはどちらも欠かすことができません。 日本でこれだけスタンプが浸透しているのは、業務のスピードや確実性を重んじた独特の商習慣によるものですよね。 御社は事務印文化を浸透させた立役者であることは間違いないでしょう。

舟橋: そう言っていただいてうれしい限りです。 スタンプ台にしても「Xスタンパー」にしても、発売から何十年も経っている中、まだ利益の柱になっていて、 それでシヤチハタという会社は成り立っているわけです。 徐々に進化はしているものの、ベースの考え方は全く変わらない。 確かに、なかなかない不思議な会社かもしれませんね(笑)。

米国では日本と同じ捺印具、その他の海外では筆記具をメイン商品に

対談風景 森辺: 常務のお兄様が社長として国内を統括されていて、常務は海外における事業全般をご担当されているんですよね。 御社は複数の国においてグローバル展開にも成功されています。 海外では文房具メーカーとして認知されているそうですが。

舟橋: 日本の場合はビジネスにおいて、社名印やさまざまなスタンプに加え、個人用のネーム印が必需品になっています。 しかし海外では韓国と台湾を除き、個人でネーム印やスタンプを使うという習慣がほとんどありません。 ビジネスで使うスタンプは確かにありますが、日本のように使用回数が多いわけではないんです。 そんな中で、海外では文房具の方が売りやすかったと、単純にそういうことだったのではないかと思うんですが(笑)。

こうした背景もあり、最初に海外に出たきっかけはスタンプではなく、インキがしみ出す技術を売っていこう、というものでした。 当社はスタンプ台の技術開発から始まっている会社ですので、インキの技術を駆使した筆記具はずいぶん昔から作っていたんですよ。 日本のこの業界では最初の方だと思いますが、筆記具商品を持って、まずは海外への輸出を開始しました。

森辺: 日本国内で成功している商品やビジネスモデルをそのまま海外に持って行ってしまうのは、よくある海外展開の失敗例です。 日本での成功体験がそのまま生かせれば楽ではありますが、同じような市場が必ずしもそこの国にあるわけではないんですよね。 その商品が売れる市場をゼロから創造するか、もしくはその国のニーズに応じた別の商品を提供するか、どちらかしかありません。 そのどちらにも失敗して、撤退を余儀なくされる日本企業が非常に多いんです。

その点、御社の場合、世界のニーズに合わせて、海外ではスタンプよりも筆記具を売っていったというわけですね。 日本でそれほどメジャーで自信があるというわけではない商品を海外で展開するというのはなかなか難しいもので、 普通ならスタンプを売ろうとして、失敗して断念。 「うちは二度と中国やらんぞー!」というほど懲りてしまいます。 しばらく経って2代目社長の代になると、もう1回中国にチャレンジして、また失敗……、ということを繰り返すのが関の山。 そういう意味では、御社は「自分たちが何をやりたいか」ではなくて、 「その国の市場が何を求めているか」というところをベースに、賢い判断を下されたことが成功につながったんですね。

舟橋: そんな大層なことではありませんよ(笑)。 元々当社が開発したのはスタンプ台、筆記具、スタンプの順です。 それぞれ完成とともに日本でも海外でも売ろうとしましたが、 結局、国内ではスタンプ、海外では筆記具が生き残ったために、現在では分かれているというわけです。 ただ、海外でも国ごとに状況が違っていて、米国ではスタンプがメインになっています。

米国への展開は最初は筆記具が中心で、その当時はよく売れていました。 それを元手に1968年、米国ロサンゼルスにシヤチハタUSAという現地法人を設立するという形で本格的に進出して行ったのですが、 結局は品質を保つために価格競争で負けてしまった。当社のスタンプは作り方が特殊で、 当社の加工機でなければ作ることができません。 ほとんどの国のパートナー企業は、「わざわざ加工機まで買わなきゃならないなら結構」と、尻込みしましたが、 米国だけは捺印具の大きな市場があったのでXスタンパーなら他にない付加価値があるということで、 スタンプで展開していきました。

アジアの場合は、当時は今以上に国が困窮していて、当社が工場を構えるほどの捺印具の市場はなかったので、 日本で作った商品を輸出するという方法を取ったんです。

森辺: 機械や設備の導入費などのイニシャルコストが、アジアでは賄うことができず、米国では賄うことができた。 加えて、「1回設備投資をしてしまえば、その後は機械がお金を生む」というビジネスモデルを受け入れられる 米国の国民性にぴったりはまったという感じでしょうか。 舟橋常務はご謙遜されていますが、国ごとの市場動向を敏感に捉えて柔軟に対応されてきたのは、 本当に賢い戦略だったと思いますよ。

また、筆記具にはスタンプ台で培った技術が投入されていることをお聞きして、根幹の技術の部分ではすべてがつながっていることがわかりました。 御社の強みがしっかり商品に生かされているという技術力と品質の高さにも頭が下がる思いです。

いいパートナーとその国に合った商品開発で、海外でもトップシェアを獲得

森辺: 今、オーストラリアやマレーシアなどで、御社の「アートライン」というサインペンやマーカーのブランドがトップシェアを誇っているそうですね。 日本には筆記具専門のメーカーが何社もあって、マーカーもたくさん作っているじゃないですか。 しかも日本人は、シヤチハタは捺印具のメーカーだと認識しています。 そんな御社がサインペンやマーカーで海外でトップシェアを取っているという事実は、 この記事を読んでいる方もおそらく初耳で驚いていることでしょう。 この成功の秘訣を教えていただけますでしょうか?

対談風景 舟橋: 成功の秘訣は、いいパートナー企業に恵まれたことです(笑)。 オーストラリアにしろマレーシアにしろ、当社の商品を熱心に売ってくれる現地のパートナーに出会えたことは本当に大きいですね。 当社の都合でディストリビューターを替えるなどということは、一切したことがありません。

オーストラリアと取引を開始したのは今から50年近く前になります。 弊社の商品をひどく気に入って取扱いを開始して下さったパートナー企業の社長が、 アートラインなんてオーストラリアでは誰も知らないというのに、「俺は絶対これをナンバーワンにするんだ!」と言ってくれて、 レストランで食事をする時でさえ、ありとあらゆるポケットにペンをいっぱい入れて行くんです。 ウエイトレスの女性が注文を取りに来ると、「このペンを使いなさい」と言って渡したりして。 そんな地道なことを徹底的にやってお客さんを増やしていくようなパートナーでした。 ただ、めちゃくちゃ怖いおじさんで(笑)。 年に1回か2回、日本にやって来ては、「これを1週間で作れ!」「これを来年までに作れ!」と無理難題を出されたことも何度かありました。 その人がオーストラリアにマーケットを作ってくれたと言っても過言ではありません。

マレーシアでもディストリビューターがすごく積極的で、当社から部品と材料を安く仕入れ、現地で組み立てて売っていただきました(笑)。 その当時はそんなことをやっているという話は他のメーカーでは聞いたことがなかったですね。 そのディストリビューターがマーケットを作っていったんです。 しばらくして為替の問題が発生した時に、やっと当社がマレーシアに進出したという展開なので、 ここでもパートナーに恵まれたことが功を奏しました。 インドネシアでも早くからパートナーに任せて現地生産に取り掛かっていましたね。

森辺: シヤチハタは謙虚な社風なので「パートナーに恵まれた」とおっしゃいますが(笑)。 パートナーに恵まれたことは事実でも、その無理難題に歯を食いしばって応えていったからこそ、 その国の市場に合った商品が出来上がっていったわけです。 それが浸透したことにより、トップシェアを獲得するに至ったんですね。 また、利益至上主義ではなく、日本人らしい謙虚で縁の下の力持ちのような姿勢がパートナーにも通じて、 「俺がナンバーワンにする!」と思い入れを高めてくれたのでしょう。 普通に考えれば、こんなに日本でも海外でもトップシェアを取っていたら鼻高々でも当然なのに、本当に謙虚なんですよね。

舟橋: そんなつもりはないんですが……。当社はそもそも、紙がなくなったら生き残っていけないわけです。 すぐになくなることはなくても、この先20年を考えると確実に数量は減っていくでしょう。 それこそ20年も前から、「いずれデジタルの時代になったら食べていけなくなるぞ」「早く次の柱を作らなければ」と散々言われてきましたから、 常に危機感と隣り合わせで、「まだまだ足りない」という意識を持っていますね。 今の当社は諸先輩方が築いてきたもの。 私たちはただそこに乗っかっているに過ぎません。 そういう点では、今の私たちが「Xスタンパー」の次の柱になるものを開発していきたいですね。

対談風景 森辺: 謙虚な姿勢で危機感を持って取り組まれているところは、御社の成功の要因になっているように感じました。

「諸先輩方が築いてきたものの上」というのは、消費財メーカーでは大手になればなるほど、歴史があればあるほど、 諸先輩方が開発した商品、諸先輩方が最適化した価格帯、諸先輩方が築いた販売チャネル、諸先輩方が実施したプロモーションのデータ……、 こうしたものの上でビジネスをしていることになります。 ゼロから1を作るのではなく、1を2にする、2を3にするということをやっているわけですね。 しかし、海外展開するということは、全くのゼロからビジネスをスタートすることになります。 そういう意味では、「自分たちはできるんだ!」と自信を持って海外へ出て、そこでぺシャッとつぶされる企業が多い中、 御社の危機感の中にある謙虚な姿勢というのは、ゼロスタートするに当たってもとてもプラスになることだと思いますね。

同族経営ならではの決断の速さと粘り強さを今後の長期戦略の武器に

森辺: 御社の創業時は舟橋商会いう社名だったんですね。 舟橋家による経営が代々続いているわけですが、実は私、御社のような同族企業の経営にすごく注目しているんです。 同族経営の何がいいかというと、決断力があって、覚悟が決まっていること。 国内でもそうですが、グローバルビジネスの方が圧倒的にスピードが求められます。 一般的な大企業の場合、1つ物事を決めるのに多くの人の意見を聞く必要があるため、 どうしても決定に時間がかかりますが、 同族経営の場合は社長の一声でみんながパッと動くような、スピーディーなイメージがありますね。

グローバルで大きな成功を収めている会社は、業界を問わずオーナー社長や同族経営であることが非常に多いです。 例えばソフトバンクやユニクロ、日本電産、ユニ・チャーム、キッコーマン、ハウス食品、そして森永もそうですね。 グローバル、特にアジア新興国は、短期戦略ですぐに結果が出るような市場ではありません。 中長期のプランを実践してこそ、ようやく莫大な利益が返ってくるわけです。 長期的な投資になるほど経営判断も難しくなりますが、そこを覚悟を持って確りと判断を下し、 粘り強く遂行できるのがオーナー社長や同族経営の強みだと思います。 御社も、そこが大きな成功へのエネルギーにつながってるんじゃないでしょうか。

舟橋: あまり考えたことがなかったですが、確かに何がしかのDNAがあって、考え方の軸がぶれないところはあると思います。 組織的にも決定するスピードをできるだけ早くするために、取締役会を非常に少ない人数で行うようにしているんですよ。

また、当社は2015年に創業90年を迎えたという歴史があり、ロングセラー商品もたくさん取り扱っていますから、 長いスパンで物事に取り組むという姿勢は常に持っているといえるでしょう。 長期戦略のいい例が、電子印鑑システム「パソコン決裁」です。 ネットワーク時代に対応すべく1995年に販売を開始したんですが、当初は伸び悩みながらも「いつか花開くぞ」、と言いながら育ててきました。 やっとここに来て、世の中のネットワークが整い、クラウドが全盛期を迎える時代になったので、 これから発展していけるのではないかと思っています。 そういう点では、やはり当社はかなり辛抱強いといえるのかもしれません。

対談風景 森辺: 決断の早さがあって、一度決めたことに対するぶれがなく、粘り強さと長期でそれを推進できる力がある。 常務はご謙遜されていますが、外から見ると、これが御社に対する正当な評価だと思いますよ。

舟橋: ありがとうございます。今回、森辺さんとお話しさせていただいて、当社が当たり前のように実践してきたことが、 実は当社ならではの強みにつながっていたことに気付かせていただきました。 今後、デジタル時代に即した次の柱になる商品の開発にも力を入れるとともに、 技術の蓄積だけではなく人と人とのネットワークの蓄積も図っていきたいですね。 そして、50年後も今のシェアを保っている企業であり続けたいと願っています。

グローバルの流儀 特別対談シリーズ

PREV

NEXT

森辺一樹

スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長 ファウンダー
森辺一樹

1974年生まれ。
幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。
帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。
2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。
2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。

専門はグローバル・マーケティング。
海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。
15年で1,000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。
著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』(白桃書房)などがある。