グローバルの流儀

光のイノベーションで、想像を超える未来の実現へ

光のイノベーションで、想像を超える未来の実現へ

Vol.31 ウシオ電機株式会社 代表取締役社長 内藤宏治氏

東京都千代田区に本社を構え、創業55周年を迎えるウシオ電機株式会社。 ランプやレーザー、半導体製造装置などの光応用製品・機器を扱っている。 海外売上比率は約80%という、日本を代表するグローバル企業だ。 もはや国内、海外の垣根はなく、日本もグローバルの中の1カ国と捉えているという。 光の可能性はまだほんの一部分しか解明されておらず、 50年後、100年後も変わらないミッションを追求し続けていくだろうと語る、代表取締役社長 内藤宏治氏。 グローバルのステージでさらなる発展を遂げるために、ウシオ電機が目指しているものとは?

「光」のイノベーションカンパニーとして、世界のトップシェア製品を提供

森辺: 御社はランプをはじめとした産業用光源のトップメーカーとして知られていますが、実際には幅広い光応用製品を取り扱っていらっしゃいますね。 まずは御社の事業内容と歩みについてお聞かせください。

対談風景 内藤: 当社はハロゲンランプや放電ランプなど、様々な産業用ランプの提供に始まり、 これらを組み込んだ光のユニットや装置、さらには光のシステムへと開発の幅を広げてきました。 現在では世界のニッチマーケットで数多くのトップシェア製品を持つまでに成長しています。

当社は前回の東京オリンピックの年である1964年、兵庫県姫路市で創業。 「光」を「あかり」としてだけではなく、紫外線を「光化学エネルギー」として、 赤外線を「熱エネルギー」として利用することで、新しい光市場を創造する、「光」のイノベーションカンパニーとして誕生しました。 1967年にはアメリカに「USHIO AMERICA, INC.」を設立。 以来、オランダ、香港、台湾、フランスなど、世界の国と地域に現地法人を設立してきました。 また、M&Aも積極的に行い、 1992年にはアメリカの映写機メーカーである「Christie Electric Corp.」(現・CHRISTIE DIGITAL SYSTEMS, USA, INC.)の映写機部門を傘下に収め、 デジタルシネマ事業に進出しています。 現在ではグループ会社は約60社、従業員数5,703名までに成長しています。

森辺: 我々が身近に感じられる「光」といえば、思いつくのは照明器具ぐらいなものです。 そもそもの光について簡単にご説明いただけますか?

内藤: エジソンが白熱電球を発明してから140年あまりですが、光がエネルギーとして利用され始めてからはまだ50~60年程度です。 光にはまだ知られていない多くの可能性があるのです。 「照らす」だけではなく、刻む、固める、洗うといった光ならではの役割で、日常の生活シーンから最先端分野まで、広く深く利用されています。

波長が違えば、その光が持つ特性も変わります。 例えば、短い波長で化学反応を引き起こす「紫外線」は、 半導体や液晶、電子部品・精密機器の製造プロセス、環境や医療、化学工業分野などに使われています。 イメージを作り、情報を伝える「可視光」は映画、プロジェクター、照明、空間演出、OA機器などに。 波長が長く、物質の中まで浸透する「赤外線」は、紫外線と同様に半導体や液晶などに使われる他、医療などにも応用されています。

対談風景 森辺: なるほど。 とても多岐にわたって光が利用されているんですね。 そんな中、御社はどのような製品を扱っているんでしょうか?

内藤: どの波長がどのような特性を持つのかを解明し、人工的に再現、コントロールすることで光をツールとして使いこなすのが当社の光技術です。 「インダストリアルプロセス」「ビジュアルイメージング」「ライフサイエンス」の3つの事業分野で製品を提供しています。

「インダストリアルプロセス」分野では、紫外線と赤外線を中心に、 半導体やフラットパネル、精密機器などの製造プロセスに最適化した強く、かつ繊細な光を提供しています。 「ビジュアルイメージング」分野では、映画館のデジタルシネマプロジェクターと、そこに搭載されているキセノンランプ。 プロジェクションマッピングやバーチャルリアリティ、空間演出照明などの映像・照明ソリューションを展開しています。 「ライフサイエンス」分野では、医療やバイオ、自然環境、農業といった未来を支える新しい技術の確立に向け、光の応用に取り組んでいます。

森辺: 特に「ビジュアルイメージング」分野は、我々が知らなかっただけで、映画館やOA機器に御社の製品が使われていたということですね。 実は身近なところでかかわっていたわけです。

内藤: そうですね。ウシオの名前を製品で見ることはなかなかないかもしれませんが、 皆さんが使われているスマートフォンの製造工程でも当社の光が多く使われています。 実は皆さん、日常の中で当社の光技術に接していたというわけですね。

森辺: 医療の分野では、光はどのような使われ方をしているんですか?

内藤: 白斑やアトピーといった、いわゆる自己免疫疾患と呼ばれている皮膚疾患に有効な特定の波長があり、その光源を搭載した治療器を当社で製造しています。 その他には、画像検査機器の照明用光源もあります。

森辺: まさに縁の下の力持ちのような製品が多いんですね。 御社の製品は世界で数々のトップシェアを獲得していると聞きました。いくつかご紹介いただけますか?

内藤: プリント基板用ステップ&リピート投影露光装置、フラットパネル光洗浄装置が世界シェア95%、液晶の光配向装置が85%、 半導体リソグラフィー用UVランプ、トナー定着用ハロゲンヒーターが80%、 液晶リソグラフィー用UVランプが75%、液晶パネル貼り合わせ装置が70%、シネマプロジェクター用ランプが65%……と、 ニッチ市場を中心に多くの世界トップの製品を送り出しています。 お陰様で2018年度の年間売上高は1,734億円で、創業以来、概ね右肩上がりをキープしています。

海外売上比率は実質95%。日本はグローバルの中の1カ国

森辺: 御社の海外売上比率は80%にも上るそうですね。 では国内事業と海外事業と分けずに、全体の現在の状況をお聞きできますか?

内藤: 例えばスマートフォン製造や医療活動など、今や光が使われる場所は国境を越え、世界中に広がっています。 当社は100以上の国と地域をカバーする光ソリューション・ネットワークを構築。 世界中どこにでも変わらない高品質な光をご提案しています。 数字的には当社の海外売上比率は80%ですが、私たちが国内に納めた製品でも最終的に海外で使われるケースが多くあるので、 実際には95%ぐらいが海外売上という感覚です。 海外現地法人が少なかった時代には国内に海外事業部があったのですが、もうとっくにそういう海外専従の部署はありません。 当社の従業員も恐らく、国内、海外という概念がもはやないでしょうね。

対談風景 森辺: グローバル全体を見ていて、そのうちの1つの国として日本があるということですね。

内藤: おっしゃる通りです。 例えば、映画館の仕事でいえば、全世界に17万スクリーンぐらいある。 その中で日本にあるのは3,000スクリーン程度です。 だから、市場としてはあくまで17万スクリーンがメインターゲットであって、そのうちの一部が国内にあるというイメージです。

事業の中で重要な製造についても、海外に複数の工場を配置していて、日本と現地でうまく連携しながらオペレーションしています。 光源においてグループの主力工場である兵庫県の播磨事業所でつくり込んだ製品設計や生産技術を、 生産工場となる中国やフィリピンなどの海外工場に移管していったような形です。 装置は静岡県の御殿場事業所が主力工場になっていて、一部装置は中国の蘇州にある工場に生産技術ごと移管しました。 これらの事業にかかわっている社員たちも、国内と海外との壁というか距離感はほとんど無いと思いますよ。

対談風景 森辺: 意識としてのグローバル化は、御社の中でかなり進んでいるということですね。 そうでないと、海外売上比率80%のオペレーションをこなすことはできないでしょう。 海外への販売というのは、直販なんですか?代理店を経由をするんでしょうか?

内藤: モノにもよりますが、基本的には各エリアに現地法人を置いているので、そこが具体的な営業活動を行っています。 その先はエンドユーザーに直接販売する製品もありますし、代理店経由もありますね。 当社は基本的にBtoBの事業ですから、取引先の業種などによって異なります。

森辺: 海外は今、一番比率が高いのはどの地域になりますか?

内藤: 今は北米が多いのですが、中国を中心としたアジアがどんどん増えてきていますね。

目標や戦略を1つにしていくためのオペレーション、連峰経営と連結経営

森辺: 中国やアジア新興国の事業にはどのように取り組んでいるんでしょうか?

内藤: 中国や韓国、台湾、シンガポール、タイ、ベトナムなどに現地法人を設置しているのですが、 以前はそれぞれが決められた国や地域を担当していました。 5年ほど前からは国境という概念を排し、アジア全体を1つのエリアと捉え、 そこに対してグループ各社の特徴を活かすバーチャルな連結組織「アジア・ストラテジック・エグゼクティブ・コミュニティ」、 略して「ASETT(エイセット)」という取り組みを開始しました。

森辺: 物理的な組織とは別に仮想で組織を作ったんですね。それは面白い。

内藤: アジア自体がかなりボーダレスになってきているので、私どももボーダレスでやっていかないと、キャッチアップできませんからね。

森辺: ASETTではどういうことが議論されるんですか?

内藤: 一番最初に議論されたのは、それぞれのグループ会社における強みです。 それから、その国において何が成長事業になり得るかということを定義し、戦略を固めていきました。

森辺: 御社としての世界標準化みたいなものは土台としてしっかりありながら、アジア新興国は国によってそれぞれ特性が違うので、 それぞれの国で現地適合化もしていかなければならない。 その現地適合化の部分をASETTという仮想の組織内で話し合い、調整していくということですね。

内藤: そうですね。主に新規事業について、お互いに足りないものを補い合ったり、日本から全てのものが出てくるわけではないので、 自らビジネスにつながるようなものを生み出したり。 どうしても国や法人が違うとそれぞれの利害関係が生まれてしまうものですが、 そういうのも含めて全体のバランスを取りながら進めています。

対談風景 森辺: よく、販売と製造の仲が悪いという悩みを、いろいろなメーカーさんで聞くんですよね。 先日、某企業にお邪魔した際に聞いたのは、開発者や製造に携わる人にアジア新興国の現地に行かせて、 自分たちの製品がどういう用途で、どういう環境で使われているのかを実際に見せたところ、 初めて新興国向けの製品開発ができるようになったというお話です。 方法は違えど、同じく仲を取り持つような取り組みですよね。

内藤: そうですね。製造や技術、販売がしっくりこないとか、日本と海外でコミュニケ―ションが上手く取れないということは、 たぶん私どももかなり昔にはあったと思います。 やはりこのASETTに象徴されるように、目標や戦略を1つにし、それに沿ってオペレーションすることで、 当社の場合は上手く進められているんじゃないでしょうか。

森辺: 各法人と各部門が全部横串でしっかり刺さっているからこそ、初めてこの80%という海外売上比率が実現できたということですよね。

内藤: ええ。 当社にはいろいろな事業がある中で、森辺さんがおっしゃったように横串がしっかり刺さっている、 つまり「連結経営」がうまくいっている事業は伸びてきている。 逆に連結経営がうまくいっていない事業は停滞しがちだというイメージがありますね。

森辺: 御社の場合は今後、海外売上比率が増えるというより、比率はそれほど変わらずに全体としての売上総額が上がっていくというイメージだと思います。 すでにグローバル度合いが高い御社が、これからさらに脱皮を繰り返してもっともっとグローバル化していくためには、 どのような課題があると考えられますか?

内藤: やはり私どもがより一層ボーダレスになっていく必要があるでしょうね。 先ほどお話に出た連結経営に加えて、1つ1つのグループ会社がきちんと独立性を持って、 それぞれの法人の特性を生かしながらも山の峰のように連なっている姿が望ましいと考えています。 この姿を私どもは従来から「連峰経営」と呼んでいます。 この連峰経営と連結経営をしっかり融合させていくことが、今後の課題になると思っています。

森辺: それは私の専門であるグローバルマーケティングの世界の用語でいうと、 まさに世界標準化と現地適合化がどちらもバランス良くしっかりとできているという状態を目指しているといえますね。

内藤: 以前は連峰経営の考え方が強かったのですが、 連結経営とうまく融合させることでより事業の最大化がしやすくなるというのが私の考えです。 ただ、これは難しいですよね。 連峰経営をあまりに推し進めてしまうと、自由度が高まる反面、規律がなくなってしまう。 逆に連結経営が強まると、それぞれの会社のいいところがなくなってしまう。 そこのいい塩梅を追求していくというのが大切ですよね。

森辺: 多くの企業が、このバランスに苦戦しているようですね。 特にグローバルではダイバーシティが重要視されますが、日本伝統の考え方はそもそもダイバーシティと対局なところにありますから。 でも、そこの枠組みがしっかりしていないとグローバル経営なんて成功するわけがないので、本当に皆さん、悩まれています。 御社はその点が、これまでの経営の中でしっかりできているので、結果として海外売上比率が高くなったんだとすごく感じました。

内藤: まだまだ足りていないと思っています。 うまくいっていない部分については、うまくいっているものをビジネスモデルとして見習うことを繰り返しやっていかないと。 お客様の方も中国やアメリカの会社をM&Aしたりと、どんどんグローバル化、ボーダレスが進んでいます。 当社がグループ会社単位でバラバラな経営をしていたら、すぐについていけなくなりますから。

対談風景 森辺: 日系の取引先もグローバル化しているし、アメリカやヨーロッパの取引先、中国やアジアの取引先もあるので、 連峰経営と連結経営の精度をさらに高めていく必要があると。 これって終わりのある話じゃなく、常に時代背景や顧客環境、市場環境に合わせて進化をしていかなければならないので、 永遠の課題といえますね。

内藤: そうですね。 今、保護主義という言葉をよくニュースで耳にしますが、産業界ではあまりそういう感じはしません。 産業界ではグローバル化、ボーダレス化がますます進んできているなという感覚がありますよね。

「未来は光でおもしろくなる」というスローガンに込めた想いを実現

森辺: 最後に、長期的なグローバル市場における展望をお聞かせください。 内藤社長が想像する数十年後のウシオ電機は、人々や社会にとってどんな企業になっているでしょうか?

内藤: 当社がずっと取り組んできた仕事は、スマートフォンの製造にしろ、映画にしろ、 皆さんや社会の便利さ、快適さにお役に立ってきた、という自負があります。 ですから、それはきちんと継続していきつつも、まだ見ぬ光が持つ可能性にもチャレンジしていきたい。

冒頭に申し上げたように、光がエネルギーとして利用され始めてからほんの50~60年ですから、 光にはまだ解明されていない多くの可能性が眠っていると思っています。 当社は創業から55年になりますが、恐らく2割ぐらいしか解明できていないのではないでしょうか。 これから残りの8割をしっかりと解明していくことによって、そしてお客様と一緒に新しいアプリケーションを開拓していくことによって、 光の持つ可能性をどんどん広げていくことができるわけです。 これは10年だろうと、50年だろうと、100年だろうと、全く同じミッションでやっていきます。

対談風景 森辺: 光の可能性の解明、夢のある美しいビジョンですね。 ウシオ電機は光の会社なんですよね。 世界のトップシェアを誇る製品を多数作り出している御社であっても、光の可能性が持つほんの一部分を応用しているに過ぎない。 これからも光の可能性を解明し続けることが御社の使命だということですね。

内藤: そうですね。今後もさまざまな社会的課題が発生するでしょう。 その課題の中には、光によって解決できるものもあるはずです。 当社がそのソリューションを担うことで、ウシオ電機をもうちょっと分かりやすい会社にしたいですね(笑)。 当社が企業理念のもとに策定したコーポレートスローガンは、「未来は光でおもしろくなる」。 このスローガンに込めた想いを実現するために、社会的課題の解決はもちろん、 光のイノベーションで想像を超える未来や文化の創造、安心安全な社会の実現に貢献していきたいと思っています。

森辺 一樹 (もりべ かずき)


森辺 一樹 (もりべ かずき)

スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長兼CEO
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 特任講師

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。大手を中心に18年で1,000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』白桃書房)などがある。