お客さまと築き上げてきた信頼の歴史を礎に、次の100年へ

森辺一樹とゲストの特別対談シリーズ【グローバルの流儀】
第36弾のゲストは株式会社 明治 代表取締役社長 松田克也氏をお迎えしての対談です。

1916年に創業し、100年以上の歴史を誇る明治グループ。 グループ全体を束ねる明治ホールディングス株式会社の傘下にある株式会社 明治は、牛乳・乳製品や菓子に加えて栄養食品や加工食品の製造・販売を行う、 日本を代表する大手食品メーカーだ。そんな明治が、今、国内はもちろんのこと、海外市場に力を入れはじめた。 2018年に社長に就任した代表取締役社長、松田克也氏は、同社においてチーズ・バターなどの営業畑出身の社長だという。 その松田氏が考える明治のあり方、そして今後の展望とは――。 グループ全体のビジョンとともに聞いた。

「2026ビジョン」の第1ステージ、「2020中期経営計画」を推進

森辺: 明治グループは2016年10月に創業100周年を迎えられました。 明治といえば、日本人なら誰もが毎日何かしら明治の商品を食べているぐらいに親しみのあるメーカーですが、まずは明治グループの歴史をご紹介いただけますか?

対談風景 松田: 当グループは製糖事業を起源としており、1916年に「東京菓子株式会社」として設立された当初は、キャラメル・ビスケットなどを製造していました。 皆さまに愛され続けるロングセラーの板チョコレート、「明治ミルクチョコレート」は1926年の発売。 1928年には「明治牛乳」を発売しました。 1971年には「明治ブルガリアヨーグルト」の前身である日本初のプレーンヨーグルト、「明治プレーンヨーグルト」を発売。 その後も牛乳・乳製品や菓子のみならず、粉ミルク、スポーツ栄養食、流動食、加工食品など、幅広い商品をご提供してきました。

森辺: 次の100年に向けた新たな歩みの中、2018年に、目指すべき企業グループ像として「2026ビジョン」が策定されましたね。 スローガンは「Beyond meiji」。 このビジョンの概要をお聞かせください。

松田: 「Beyond meiji」は、「明治の向こうにある明治」「明治を超える明治」という意味で、私も大好きなワードです。 「現状に甘んじることなく、課題を見つけて着実にクリアし、自分たち自身で今の明治グループの殻を破り、さらに成長していこう」という想いを込めて定めました。 「コア事業での圧倒的優位性の獲得」「海外市場での成長基盤の確立」「健康価値領域での新たな挑戦」「社会課題への貢献」を4つの重点方針として掲げています。 明治グループ100年で培った強みに新たな技術や知見を取り入れて、「食と健康」で一歩先を行く価値を創造し、日本、世界で成長し続けるグループ像を目指しています。

対談風景 森辺: 現在、「2026ビジョン」の第1ステージにあたる「2020中期経営計画」を進めていらっしゃるところですよね。 この中期計画はどのような内容ですか?

松田: 「2020中期経営計画」の基本コンセプトは「継続的戦略課題への取り組み」と「成長に向けた新たな挑戦」です。 重点方針としては「コア事業での高シェア・高収益の実現」「海外市場での成長基盤の確立に向けた積極的な事業拡大」「健康を軸とした新たな価値領域での仕掛け」 「構造改革の継続的な実行と個別事業課題の克服」「経営基盤の進化とCSRの推進」の5つを挙げています。

現時点での国内事業の具体的な取り組みをご紹介しましょう。明治グループは、2009年に旧・明治製菓と旧・明治乳業が経営統合し、 2011年に牛乳・乳製品、菓子、栄養食品、加工食品といった食品事業を集約した「明治」という会社ができました。 2012年から社長を務めた前任者の川村は、収益性向上を目的に、「選択と集中」を進めてきました。 私の代になってもその方針を継続し、大きく成果につながっています。

「2026ビジョン」にて、当社の強みである国内のヨーグルト、チョコレート、栄養食品の3つの事業を「コア事業」と定義し、 また海外での飛躍的な成長を掲げています。 これらに経営資源を積極投入し、さらなる拡大を目指しています。 ヨーグルトでは「明治ブルガリアヨーグルト」の健康価値を伝えること。 また、「明治プロビオヨーグルトR-1」などプロバイオティクスヨーグルトのエビデンスを継続的に訴求し、需要を深掘りして持続的な成長を目指します。 チョコレートでは、「チョコレート効果」と「明治ザ・チョコレート」を軸に、顧客層の拡大とリピートを促進。 栄養食品では「ザバス」などの新たな需要喚起に加え、流動食で市販用「メイバランス」の販売ルートの拡大を図ります。

森辺: 御社ががやらなければならない商品というのは、おいしいだけではない付加価値のある商品ということですか?

対談風景 松田: そうですね。これからの市場ニーズは、「楽しく、おいしく、食べて、さらに健康になる」ことだと当社は考えています。 チョコレートは、かつては子どもの甘いおやつの位置づけでした。 当社は、他社に先駆けてカカオポリフェノールが持つ健康価値を訴求し、 「チョコレート効果」に代表される高カカオチョコレート市場の拡大を牽引してきました。 最近では、糖として吸収されないオリゴ糖を使用した「オリゴスマートミルクチョコレート」といった商品も発売しています。 昔ながらの甘いおやつのイメージが強かったチョコレートが、 「食べて健康になれる」「食べても太らない」という新たな価値が受け入れられ、伸長しています。

森辺: それはすごいですね。 中期計画の進捗としてはいかがですか?

松田: 2018年度の決算ではザバスなどのスポーツ栄養が好調に推移したこともあり、前年度対比で増収増益でした。 お陰さまで順調に進んではいますが、かつてのような勢いの成長ができているかといえば、そうではありません。 この点は反省をしつつ、新しい商品に積極投資をしながら大きな成長をしていくべきだと考えています。 国内においては「ザバス」の新工場や「チョコレート効果」のライン増設に投資をしているので、これからその効果が現れてくるでしょう。

海外から来た乳製品やチョコレートを、今度はメイド・イン・ジャパンとしてグローバル展開

森辺: 2020中期経営計画の5つの重点方針の1つに、「海外市場での成長基盤の確立に向けた積極的な事業拡大」が挙げられていましたね。 2011年のグループ再編から、まずは国内にフォーカスをして進めてこられた経緯もあり、海外については少し緩やかだったように思います。 しかし松田社長の代になってからは、「遂に眠れる巨人が目を覚ます」と勝手に感じています。 御社の海外事業に関しては如何でしょうか。

松田: 当社の2018年度の海外売上高比率は4.5%しかありません。 当社くらいの規模の食品メーカーでは10%以下の企業はあまりないでしょう。 海外売上高比率が3割、4割、5割というメーカーも少なくありません。 当社が海外に出遅れた原因は、メインが乳製品やチョコレートという、もともと日本にあったものではなく、 海外から入ってきたものだったということが大きいと私は考えています。 これまでの100年は当社の技術や知見で日本のお客さまに合うような形に変えていった歴史でした。 次の100年は、これまで培ってきた技術や知見で、 メイドインジャパンの、あるいは明治だからできる価値を持った乳製品やチョコレートなどを武器に海外に出て行こうと考えています。

対談風景 森辺: じゃあ、本当に今、眠れる巨人が目を覚ましたところなんですね。 海外売上比率4.5%は、確かに低いかもしれませんが、御社の場合、売上が1兆円を超えていますから、4.5%でも470億円以上にもなるんですね。

松田: まだ本気で注力し始めたばかりですから、これからどんどん増えていきますよ(笑)。 海外事業全体では、グローバルでの明治グループの企業価値を向上させるため、海外でのマネジメント体制を見直し、 「meiji」のコーポレートブランドの認知を高めていくつもりです。 「2026ビジョン」の最終年度である2026年度には、海外売上高比率10%以上を目指していきます。

海外で展開しているエリアは今のところ東南アジア、米国、そして中国です。 まずは中国に集中し、2019年1月に中国の統括会社として「明治(中国)投資有限公司」を設立しました。 中国には現在4つの事業会社があり、それぞれで事業を運営していましたが、それらを統括する会社です。 統括会社を置くことで中国事業全体における戦略の立案を強化し、意思決定の迅速化を図ります。 中国では「牛乳・ヨーグルト事業」「アイスクリーム事業」「菓子事業」3つの事業を展開。 売上高は2018年度までの5年間で約3倍に伸長し、業績は順調に拡大しています。

また2019年9月には、牛乳・ヨーグルトなどを生産・販売する2つめの会社「明治乳業(天津)有限公司」も設立し、2022年度下期より生産を開始する予定です。 中国では、おいしさと健康へのニーズから、牛乳・ヨーグルト市場の拡大が見込まれています。

当社の牛乳・ヨーグルト事業は、蘇州周辺を中心に、おいしさで勝るチルド牛乳で2013年より参入。 1パック(950ml)の価格が25元(約375円)前後と、他社製品に比べて高価ですが、非常に売上が伸びており、生産能力が追い付いていません。 2拠点目の「明治乳業(天津)有限公司」の設立により、生産能力アップを図ります。

明治ならではの技術・知見に日本人ならではの繊細さを加味した商品

森辺: 日本企業ならではのおいしさに付加価値が備わった、エッジが立った商品は、中国やアジアの一般の消費者にはまだ浸透していないかもしれませんが、 消費者の中でもイノベーターとかアーリーアダプター的な新しいもの好きの人たちは、インバウンドで御社の商品を買って食しているんじゃないでしょうか。 そこからまた売上が拡大していく可能性もありますよね。

対談風景 松田: 相当ありますね。森辺さんがおっしゃるように、エッジが立っている商品じゃないと、やっぱり駄目でしょう。 そのエッジというのが、当社の場合は技術や知見に裏付けられ、ベネフィットが尖がっている商品。 そうでないと、当社が存在する意義がないと考えています。

森辺: 過去20年の食品メーカーのグローバル展開は、おおむね欧米系が先頭に立って、大量生産で価格やクオリティを下げてきましたよね。 近年ではアジアの食品メーカーも育ってきて、日本の食品メーカーがますますグローバル展開しにくくなりました。 特に、調味料のような日本食がベースになるメーカーは、日本食の後を追っていくしかないので難しい。 そんな中、御社の商品は、まさに万人が食べられるので勝機があるなと思っていました。 松田社長のお話を聞いていると、これからのグローバル競争は、機能を求められるハイレベルの戦いに変わっていくと思われますね。 そうすると、今度はますます日本のメーカーに大きなチャンスがある気がしてきました。

松田: 日本食がベースになる食品は、海外ではほとんどがアジアン売り場に並ぶわけです。 しかし、当社の商品はそうではなく、メインの棚に並びます。 チャンスが大きい反面、エッジが立っていなければ戦えないということですね。 まずは中国に主戦場を置き、その後、機が熟したら東南アジアや米国にも力を入れていきます。 以前とは全然スピード感の違う海外事業の展開になるでしょう。 海外事業本部には「3倍ぐらいのスピード感で実行すること」と言っていますから(笑)。

森辺: それと健康に関して、米国は肥満が大きな問題になっていて、その原因を作ったのはアメリカの食品メーカーだとずっと感じています。 このような肥満の背景もあって日本食ブームが拡大する中、 日本のメーカーがどれだけ技術力とマーケティング力で欧米のメーカーに追随し、さらにその上に行くかが重要ですね。

対談風景 松田: 当社の「明治おいしい低脂肪乳」という低脂肪乳商品は、2019年4月から新製法を採用しました。 よりおいしさを追求した製法としたこともあり、価格は上げさせていただきましたが、前年を超えて伸長しています。 私見ですが、本当に牛乳かと思うくらいおいしいんですよ。 外国人は、低脂肪乳は飲みにくくて当たり前、コーヒーか何かのフレーバーにして飲めばいいと考えます。 しかし、日本人の味覚は繊細ですから、「低脂肪でも普通の牛乳と同じくらいおいしくしてよ」という消費者がたくさんいるわけです。 従来は低脂肪にするために熱をかけていたので、熱による劣化や牛乳本来の風味が飛んでしまうことがありました。 これがおいしくなくなる要因だったのです。 それを、凍らせて脂肪を抜くという「氷点濃縮製法」により、当社は味を損ねずに低脂肪にすることに成功しました。

森辺: 御社の技術力の高さに加えて、日本人ならではの繊細さが生かされているわけですね。 家電の世界では、日本のメーカーはオーバースペックだとずっと言われてきましたが、 食品の分野では今、健康ブームや直接自分たちの口に入れるものへの価値観の変化から、 オーバースペックもマーケティングとうまく合致させると、ものすごい武器になる可能性がありますね。

松田: 「アーモンドチョコレートにこんなに立派なアーモンドを入れているのは明治さんしかないですよ」と言われます(笑)。 かつては、同じ言葉でも、「噛んで食べてしまうのに、何でこんなにきれいなものを入れる必要があるんだ」という批判的な意味でした。 今は「さすが明治」という褒め言葉として使われているように感じます。 価格はどうしても、特殊な製法だから高い、きれいだから高い。でも、だからこそ売れているんですよ。

森辺: そうでしょうね。 日本の菓子メーカーというか、食品メーカーの見方が、今日、松田社長にお会いして変わりました。

松田: 付加価値のある食品で健康を維持・増進できるなら、これほど良いことはないじゃないでしょうか。 明治という会社は着実に信頼を積み重ねていく会社であるべきと考えていますから、堅実に、謙虚に、慎重に。ただし、動的にはものすごいスピード感でいきます。

森辺: なるほど。 これからの海外展開が非常に楽しみですね。

「明治があって良かった」と思われるような、存在意義のある企業に

対談風景 森辺: 「2026ビジョン」では重点方針の1つに「社会課題への貢献」が挙げられていました。 この取り組みを教えてください。

松田: 私が経営をしていく上で最も大切にしていることは、事業活動を通じた「社会課題への貢献」です。 企業は社会に貢献できなければ存在する意味がない。 当社はありがたいことに食品メーカーですから、社会貢献を特別に意識しなくても、真面目にしっかりと商品を作っていけば、 事業運営そのもので「楽しさ」や「健康」などを提供でき、広い意味で社会貢献できるわけです。

そして、これまでもこれからも、社会的使命に基づいたものにも、しっかりと取り組んでいきたい。 その一例が、「代謝異常症用特殊ミルク」や液体ミルクといった商品です。 代謝異常症用特殊ミルクは、先天性の代謝異常などにより母乳や市販の粉ミルクが飲めない乳児のために提供を始めた商品。 代謝異常症というのはたくさんの種類があり、そのうちの30以上の症状に対応できる18種類の商品を当社が作っています。 一番患者数が少ないのは特発性高カルシウム血症という代謝異常症用で、その対象は現在、全国で2人の赤ちゃん。 2人の赤ちゃんだけのために、コストをかけて特殊な粉ミルクを作っているんです。 その子たちは母乳でも普通の粉ミルクでも育つことができない。 粉ミルクの国内4割のシェアを持つトップメーカーの社会的な使命として、 それこそ、企業の社会的責任を意味する「CSR」という言葉が一般的になるずっと前から手がけてきました。

また、「明治ほほえみ らくらくミルク」という液体ミルクは、近年、災害時における液体ミルクの必要性の高まりを受けて、2019年に新発売。 目的は災害時における乳児の栄養補給という「社会課題の解決」でしたが、 昨今の育児の時短や父親の育児への参加などの社会課題にも対応できる、いわゆる社会価値と経済価値の双方を創造する商品になりました。

森辺: それこそ、御社にしかできない技術・知見を生かした商品ですね。

松田: その代わり、我々の事業の基盤になっているのは、乳製品というのは牛の乳ですし、チョコレートというのはカカオですから、すべて自然資産です。 金儲けで作って売っているだけでは資産がなくなってしまいますよね。 ですから、社会から要求されようが、されまいが、サステナビリティに基づいた経営をしっかりやっていかなければならないと考えています。 例えば、カカオの産地である国や地域に井戸を掘る、そこに住む人たちに教育を提供する、 といった貧困の問題を根本から解決していくような取り組みも行っています。 このように、当社の企業活動そのものを通じて、社会課題解決に貢献していきたいと考えています。

森辺: 御社の今後の展望について教えてください。

対談風景 松田: 「26ビジョン」にある通り、「食と健康」は明治グループのキーメッセージです。 「食を通じた健康価値」を日本だけではなく、世界で提供する会社になっていきたいですね。 具体的に取り組んでいるテーマは2つ。 1つ目は「健康志向商品の提供」です。 「明治ブルガリアヨーグルト」「明治プロビオヨーグルト」「チョコレート効果」 「(ザバス)MILK PROTEIN」「メイバランス」シリーズといった健康志向商品に力を入れ、シェアを伸ばしていきたいと考えています。 2つ目のテーマは「食育による啓発」。 当グループでは2011年度から2018年度の延べ人数で約100万人に、食の大切さを学び、健康な身体と心の豊かさを作るための食育活動を実施してきました。 この活動を今後も継続していきます。

森辺: もう少し先、数十年後の御社は、人や社会にとってどのような企業になっていると思われますか?

松田: 「明治があって良かったな」とお客さまが思ってくださるような存在意義のある会社になっていたいですね。 だから、明治にしかできないことしかやらない。 明治にしかできないことにこだわって取り組み、それがお客さまのためになり、笑顔が増える、会話がはずむ。 そんな素敵な世界を作れる会社になりたいと考えています。

グローバルの流儀 特別対談シリーズ

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森辺一樹

 
森辺 一樹 (もりべ かずき)

スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長兼CEO
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 特任講師

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。大手を中心に18年で1,000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』白桃書房)などがある。


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