海外ビジネスに関連するコラム

キムチの国から見たニッポン 第4回

私が好きな日本

一橋大学 大学院生 金成美

 

今回は私が好きな日本について少し語ってみようと思います。私は日本滞在合計6年目の留学生です。その6年には学部の時に交換留学生として日本に来ていた1年間も含まれています。私は交換留学を終えて一度韓国に帰国したのですが、それから3年くらい後に再び日本に戻ってきました。この話をするといつも「なぜ日本に戻って来たのか」と聞かれます。その質問に対して私は冗談半分ですが、「私は日本のおばさんが好きなんです」と応え続けています。しかし、この冗談半分の答えには私の本音が入っています。日本のおばさんがなぜすきなのか。それは、とても礼儀正しく、いつもきれいな日本語で、しかもずっと年下の私が聞いても可愛らしい話し方をしているからです。そのような日本のおばさんたちの優しさに憧れているということです。

 この話をすると、皆面白いネタとして笑ってその場を終わらせます。それでもいいのですが、今度はもう一歩進めてみたいと思います。

 「日本のおばさんの優しさが好きだ」と言っているのですが、実は日本人の優しさが好きだということを日本のおばさんに投影して面白く話しているわけです(その中でもおばさんたちの優しさが一番すきなのは本当ですが)。このような日本人の優しさはどこにでもあります。

代表的なのは、日本を訪ねて来た外国人たちが感動する日本の一側面の一つとして、とても明るく礼儀正しい店員さんたちがいます。私は今まで約20カ国を旅しているのですが、どこの国に行っても日本の店員さんたちのような良いサービスを提供してくれる国はありませんでした。他の国に旅出て、日本に戻ってくると空港からその優しい声にほっとしてしまうのです。これは韓国に行って来た時も同じで、日本に何年も住んでいて、年に1回くらい帰国すると、ついに日本の店員さんたちと韓国の店員さんたちを比較してしまいます。そして、韓国で生まれて大学を卒業するまで住んでいた母国にも関わらず、日本の店員さんたちの優しさが恋しくなるのです。

それ以外にも、人によるとは思いますが、韓国に比べるとずっと学生に優しく、親しい大学の先生方々がいます。私は交換留学の時に、ゼミの先生と学部生が恋愛相談をしているのをみてとても驚きました。韓国の大学ではそもそも学生が先生に尋ねて行くことも少ないですが、尋ねて行くとしても進学相談や授業関連がほとんどで、先生と恋愛相談なんてどうしても想像できないことでした。それはきっと、日本の大学の特徴でもある「ゼミ」という制度があり、先生と少人数の学生が定期的にセミナーを行うので、より近い人間関係が築けるのではないかと思います。

 

 しかしながら、このような日本人の優しさが嫌いな時もありました。はじめて日本に来た時、皆が笑顔で優しくしてくれるので本当に嬉しかったのですが、生活をして行くうちに、「日本人って断るのが本当に苦手なんだ」ということに気が付きました。断れないから、とりあえずにっこりと笑ってその場でははっきりしないままにしておく。そして後から何かしらうまい言葉で、断れてないけど気が付いたら断れているということが何度もありました。最初はそれが理解もできなく、いらいらしてしまう一方でした。そこから、いつも笑顔で優しいその姿が全部ウソに見えてきはじめたのです。その時はじめて知った「たてまえ」という言葉があること自体に人間不信になりそうにもなってしまいました。

 ある日、友達にそれについて聞いてみました。「なんで日本人ははっきり言わないの?」。すると、「日本人の言葉がうまいということは、はっきり言わなくても相手に気持ちを伝えることなんだ。断ることで傷つけてしまうかも知れないので、言葉でも傷つけないように気をつける」という答えが返ってきました。この言葉で、私は日本人の曖昧さも、裏も訳も分からないような笑顔も、初めて会った人なのにびっくりするほど優しい相手の行動も、再び好きになれることができました。

 なぜなら、その言葉から、はじめて会った人でも、知らない人でも、傷つけないためになんどもこころの中から考えているというもう一つの優しさがあることに気が付いたからです。日本人はそれを知らないうちに、当たり前のように、日常生活のようにしているかも知れないのですが、思いついたら言ってしまい、行動してしまう私のような人間にはとても難しいことなのです。

 今も時々、はっきり言ってくれないことに対してイライラすることはもちろんあります。そのせいで、10分で終わることが何時間もかかってしまうこともあるので。しかしながら、相手がどのように考えているのかを考える、という優しさが今の私はとても好きなので、以前のように人を信じられなくなるのではなく、もう少し軽く考えてくれてもいいのになという自分の中の小さな希望に変わっています。

 ただ、これを読まれている読者の方々に、外国人、少なくとも韓国人に会ったときにはある程度ははっきり意見を言うことも必要ですよとアドバイスしたいです。

 

 今回はキムチの国から見た日本のいいところについて語ってみました。というよりは私自身の私見なのですが。

 次回からは私の周りにいる留学生たちに彼(彼女)らが好きなあるいは嫌いな日本について聞いてみようと思います。

 

金成美

一橋大学大学院生
金成美

一橋大学商学研究科博士後期課程 一橋大学イノベーション研究センターリサーチャー
修士テーマは破壊的イノベーションと新興市場:POSCOのFINEX技術開発を事例にあげ、韓国鉄鋼産業の成立歴史/最新技術開発におけるイノベーションと日韓比較と言うダブルフィールドで経営ヒストリーとイノベーションを専攻とする。