2013年12月17日
イスラエルは先進国なのか?
世界最大規模の淡水化施設がイスラエルには存在する
テル・アビブを貫くAyalon Free Way
その他の代表的なインフラは、高度に発達した上水関連施設が挙げられます。イスラエルでは夏季の間(一般的には4月頃から10月末頃迄)は乾季となるため、ほとんど雨が降りません。つまり、日本のように断続的な降雨量があり、河川が常に水で潤っているという環境とは程遠いのです。そのため、主な水源として同国北部に存在する淡水の湖であるガリラヤ湖が、これまで主要な水瓶としての役割を担ってきました。ただこの水瓶の水位及び水質は雨季となる冬季の降雨量に、毎年大きく左右されるため、水資源の安定的な確保が、同国内の安全保障とも併せてこれまで大きな課題となっていました。
イスラエルの水瓶、ガリラヤ湖
近年この課題を解消するため、地中海の沿岸地域を中心にいくつもの海水淡水化施設が建設されるに至りました。度重なる技術革新の結果、低コストでの海水の淡水化に成功、2012年には世界最大規模の淡水化施設が開設され、現在では国内全水消費量の約4割を淡水化された水によって賄われています。
砂漠地帯に位置するイスラエル独自の水分野における技術革新ですが、これは上水のみならず下水の分野においても顕著であり、現在イスラエル国内で発生する生活廃水の優に8割が、農地や公共施設の庭園等の灌漑施設で再利用されているのです。
Soreq淡水化施設
「Balagan(バラガン)だらけ」のイスラエル
ではイスラエル国民は自国をどう認識しているのでしょう?これは私のステレオタイプかもしれませんが、イスラエル人は概して愛国心が極めて強い反面、自国のことを自嘲気味に語る人々も多く、これは私の周囲にいる家族や友人に大抵当てはまります。これらの人々が持つ自国感というものについて、私は、恐らくは「2級先進国」というものではないかと推察しています。
彼らの云わんとするところを私なりに代弁するならば、「経済、インフラも先進国並に発達した。教育だって悪くないしノーベル賞受賞者も過去に複数出している。最近は世界で最も幸福な国の上位10位内に入ったりもした。でも、国内外は一朝一夕には解決し得ない問題だらけ。これじゃまだ完全には先進国とは言えないよね。」
この国にはスラングに近い言葉ですが、日常でごく頻繁に使用されるものに「バラガン(Balagan)」というものがあります。意味するところは問題、混乱、つまり、なんだか滅茶苦茶に混沌とした状況を総称するものですが、まさにこの「Balaganだらけ」というところが、現在のイスラエルが完全に先進国になるためのボトルネックと考えるイスラエル市民は少なくないと思うのです。
では、イスラエル社会が直面しているBalaganには、具体的にどういうものがあるのでしょうか?
第1に、イスラエル・アラブ問題が挙げられるでしょう。これには周辺アラブ諸国との外交問題と、占領地区を中心とするパレスチナ人との問題があります。
第2には、数々の内政問題が挙げられます。今日特に問題になっているものとしては、国内の世俗派と宗教派との対立構図、急激に高騰する物価、住宅難問題、そして貧富の差の拡大、などです。
内政問題に限って言えば、他の先進国においても同様、むしろ経済問題等においてはより深刻な問題を抱えた国々も決して少なくないのですが、これらも「Balagan」の定義の一つとなっていると思います。
次回以降ではこれらの諸問題等についても随時紹介していきたいと思います。
イスラエル在住
水谷徹哉
名古屋大学卒業(修士)。在イスラエル大使館専門調査員(05’)、JICAパレスチナ事務所企画調査員(12’)。計10年間日本国政府ODAによる対パレスチナ支援に従事する。主にガバナンス分野における国際機関経由、またJICA技術協力案件の実施管理を担う。2013年よりイスラエル国Galilee International Management Instituteに勤務。主に日本向けのコンテンツの開発等を担当。