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バラガンだらけなイスラエル 第1回

イスラエルとはどんな国なのか?

イスラエル在住  水谷徹哉

 

イスラエルは先進国なのか?

イスラエルというと、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか?

一般的なものでは、砂漠の国、小さな国、ユダヤ人の国、暑い国でしょうか?

また昨今のハイテク分野産業の躍進からハイテク国家というイメージもあるかもしれません。

一方、同国が抱える政治・国際問題等からややネガティブなイメージが強いのも確かでしょう。軍事国家、テロや紛争の多い国、パレスチナやアラブの敵、ひいては占領国家などです。

これらは私が直に日本にお住まいの方々から得たイメージですが、いずれも大きく現実からかけ離れたイメージではありません。

但し、イスラエルという国が持つ特性は、それだけではないのも事実です。

インターネットが各家庭に浸透する今日、「イスラエル」と検索をかければ大体の情報は瞬時に収集することは可能でしょう。それ故、当国の人口や地理的要素等のドライな基礎情報は本稿では割愛させて頂きたいと思います。本コラムでは、日本の方々からよく寄せられる当国のステレオタイプ的なイメージにより踏み込む形で、この国の持つ側面をいくつかのテーマに沿って紹介していきたいと思います。

今回は、「イスラエルってそもそも先進国なの?」という問いについて考えたいと思います。右は当地に来訪される日本人の多くの方々から、ごく頻繁に寄せられる質問でもあります。類似するものでは、「もっと砂漠で荒涼としたイメージが強かったが、来てみて想像以上に発展していた」。「この発展度からみてこの国をどう定義してよいのか?」等。海外で移動する先々の国を理解する一つの視点として、先進国か?それとも発展途上国か?という定義設定は、その国を手っ取り早く理解する上でも重要な視点であり、妥当な問題意識かと思います。

まず、先進国とは何か?という定義について考えねばなりませんが、世界で最も一般的に受け入れられている考え方として、先進国クラブとも称される「経済協力開発機構(以下、OECDで表記を統一)」に加盟した国々は先進国、というものがあります。これに基づけば、2010年にOECD加盟を果たしたイスラエルは立派な先進国ということになります。

また、所得レベルにおいても、一人当たりのGDPは33,432ドル(2012年)と、日本の46,706ドルには及ばないまでも、世界では26位に位置しており、すぐ下位には27位のイタリア、28位のスペインが続くことから(日本は12位)、他国との比較においてもそこそこの水準にあるとも言えるでしょう。

(出展:https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html)

世界最大規模の淡水化施設がイスラエルには存在する

そもそもの先進国の定義が曖昧なので、様々な考え方があるとも言えますが、他に考えられる視点としては道路網等の国内インフラの発達度が挙げられるでしょう。

まず、道路網の整備に関してですが、国内の隅々には高度に発達した高速道路網が整備されており、国内の車での移動は比較的容易です。唯一、国の南北を縦断する幹線道路のみが有料となっていますが、料金所のようなものは一切存在せず、高所に設けられたカメラによりナンバープレートを自動的に読み取り、自動的に請求書が送付されるという高度に自動化されたシステムが採用されています。


テル・アビブを貫くAyalon Free Way

その他の代表的なインフラは、高度に発達した上水関連施設が挙げられます。イスラエルでは夏季の間(一般的には4月頃から10月末頃迄)は乾季となるため、ほとんど雨が降りません。つまり、日本のように断続的な降雨量があり、河川が常に水で潤っているという環境とは程遠いのです。そのため、主な水源として同国北部に存在する淡水の湖であるガリラヤ湖が、これまで主要な水瓶としての役割を担ってきました。ただこの水瓶の水位及び水質は雨季となる冬季の降雨量に、毎年大きく左右されるため、水資源の安定的な確保が、同国内の安全保障とも併せてこれまで大きな課題となっていました。


イスラエルの水瓶、ガリラヤ湖

近年この課題を解消するため、地中海の沿岸地域を中心にいくつもの海水淡水化施設が建設されるに至りました。度重なる技術革新の結果、低コストでの海水の淡水化に成功、2012年には世界最大規模の淡水化施設が開設され、現在では国内全水消費量の約4割を淡水化された水によって賄われています。

砂漠地帯に位置するイスラエル独自の水分野における技術革新ですが、これは上水のみならず下水の分野においても顕著であり、現在イスラエル国内で発生する生活廃水の優に8割が、農地や公共施設の庭園等の灌漑施設で再利用されているのです。


Soreq淡水化施設

「Balagan(バラガン)だらけ」のイスラエル

ではイスラエル国民は自国をどう認識しているのでしょう?これは私のステレオタイプかもしれませんが、イスラエル人は概して愛国心が極めて強い反面、自国のことを自嘲気味に語る人々も多く、これは私の周囲にいる家族や友人に大抵当てはまります。これらの人々が持つ自国感というものについて、私は、恐らくは「2級先進国」というものではないかと推察しています。

彼らの云わんとするところを私なりに代弁するならば、「経済、インフラも先進国並に発達した。教育だって悪くないしノーベル賞受賞者も過去に複数出している。最近は世界で最も幸福な国の上位10位内に入ったりもした。でも、国内外は一朝一夕には解決し得ない問題だらけ。これじゃまだ完全には先進国とは言えないよね。」

この国にはスラングに近い言葉ですが、日常でごく頻繁に使用されるものに「バラガン(Balagan)」というものがあります。意味するところは問題、混乱、つまり、なんだか滅茶苦茶に混沌とした状況を総称するものですが、まさにこの「Balaganだらけ」というところが、現在のイスラエルが完全に先進国になるためのボトルネックと考えるイスラエル市民は少なくないと思うのです。

では、イスラエル社会が直面しているBalaganには、具体的にどういうものがあるのでしょうか?

第1に、イスラエル・アラブ問題が挙げられるでしょう。これには周辺アラブ諸国との外交問題と、占領地区を中心とするパレスチナ人との問題があります。

第2には、数々の内政問題が挙げられます。今日特に問題になっているものとしては、国内の世俗派と宗教派との対立構図、急激に高騰する物価、住宅難問題、そして貧富の差の拡大、などです。

内政問題に限って言えば、他の先進国においても同様、むしろ経済問題等においてはより深刻な問題を抱えた国々も決して少なくないのですが、これらも「Balagan」の定義の一つとなっていると思います。

次回以降ではこれらの諸問題等についても随時紹介していきたいと思います。

 

水谷徹哉

イスラエル在住
水谷徹哉

名古屋大学卒業(修士)。在イスラエル大使館専門調査員(05’)、JICAパレスチナ事務所企画調査員(12’)。計10年間日本国政府ODAによる対パレスチナ支援に従事する。主にガバナンス分野における国際機関経由、またJICA技術協力案件の実施管理を担う。2013年よりイスラエル国Galilee International Management Instituteに勤務。主に日本向けのコンテンツの開発等を担当。