2014年5月9日
電通でコピーライターをしております、藤田卓也と申します。
このコラムでは、僕が所属している「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」での議論や研究をベースに、世の中にあふれる「モダンなコミュニケーション」についてご紹介していこうと思っていましたがたぶんそういう内容になりそうもありません。
https://twitter.com/2gta9
キャバ嬢に●●●●●をあげるべからず
先日、キャバクラだいすきな友人がいます。(僕じゃありません)
彼はいつものようにキャバクラへと足を運んだそうです。(僕じゃないって)
すると、いつも指名するキャバ嬢から、ある話を聞かされました。(僕じゃなくて彼が)
それはキャバ嬢に絶対あげてはいけないプレゼントは何か?というもの。
何だと思いますか?
キャバクラ嬢に決してプレゼントしてはいけないもの。
それはぬいぐるみ。
数ある嫌われがちなプレゼントのなかでも、ぶっちぎりでダメなんだそうです。
なぜかというと、「盗聴器を隠しやすいから」。
部屋に置かれたり、抱きかかえられたり、話しかけられたり。
たしかに、女の子の私生活を覗くには、うってつけの存在なのでしょう。
そうした警戒心から(なにひとつ悪くないはずの)ぬいぐるみはその日のうちにゴミ箱へ無慈悲につっこまれ、女の子の枕元はおろか、お店から無傷で脱出することさえむずかしいんだそうです。
彼は、その他にもたくさんのモテる女の子の危険回避術を教えてもらったそうです。
危険を回避できたキャバ嬢、できなかったキャバ嬢
後日、友人のもとに、ぬいぐるみの話を教えてくれたキャバ嬢からfacebookでメッセージが届きました。
「いますか」
2013年の夏に広まったスパムメッセージですね。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
Facebookで「いますか」とメッセージを受け取ったら要注意!Yahooを騙るスパム
(酒井 一樹 | 株式会社エイリスト 就活SWOT代表)
https://bylines.news.yahoo.co.jp/sakaikazuki/20130731-00026908/
この記事へのいいね!数が1.2万にもなっていることをみると、どうやらかなりの数の被害者がいそうです。しかし、そうは言っても1年近く前に流行った古典的なスパム。
あんなに流暢に、「ストーカー予備軍をひと目で見抜く方法」などなどいますぐ役に立ちそうな危険回避術をつぎつぎと語っていた彼女なのに、あっさりひっかかってしまうなんて。
驚きで、(なんでお前はキャバ嬢とfacebookでつながってんだよ)という、素朴な疑問も消し飛びました。
この世に、情弱なんていない
思うに、デジタルの世界で危険を回避するのは至難の業。
異常な速さで進化するテクノロジー、デバイス、手口。
いざ危険に直面しても、相当なリテラシーがなければ、有効な対抗策を検索することすら困難です。「本当にまったく見当もつかないこと」に対して、検索というのはめちゃめちゃハードルが高いものです。
そんな中、的確に情報をアップデートし、危険を回避できる方が少数派のはず。
にも関わらず、ネット上ではいちどスパムを踏んだだけでこう呼ばれます。
「情弱」(情報弱者)、と。
きわめて後ろ向きな、なんならさげすむような気持ちさえこめられてスパムで傷ついた心に塩をワッシワッシと塗りこめられていくわけです、容赦なく。
情弱なんていませんよ。
みんな弱いですよ、情報には。
「キャバ嬢が贈られるプレゼント」といった世界では、身を守るノウハウも既にたまっているでしょうし、手口の進化もあるていど想定の範囲内でしょう。
ところが、デジタルは簡単に国境を超える。
世界中で繰り広げられるスパムのPDCAで磨き上げられたよりすぐりの危機が、光の速さで目の前に届けられる。
「情弱と呼んでバカにしているその相手こそ、”情強”であるあなたが救わなければならない相手なのだ」
あるIT企業のトップがスピーチで語っていた言葉です。本当にそのとおりだとおもいます。
キャバ嬢がぬいぐるみを避けるような、シンプルな方法はむずかしいかもしれません。でもいつの日か、ものすごく単純な考え方をするだけで、安全なデジタル体験を楽しめるようになるかもしれません。
そうなるよう、コミュニケーションのあり方をどんどん模索していきたいと思います。
株式会社電通コピーライター
藤田 卓也
東京大学大学院 工学系研究科を修了後、12年電通入社。2年目コピーライターとして、コピーやCM制作だけでなく、デジタル領域の企画なども手がける。ヤングカンヌ国内選考会プリント部門ファイナリスト、NEW STARS日本代表。