キムチの国から見たニッポン 第2回 新卒ではなく、新しい働き方を

金成美
 

 

 前回は私が日本に来て不思議に思っていた就活文化に関してお話させていただきました。新卒社員採用ではなく新入社員採用にすべきではないかという疑問、そして一文字代えて「新卒」というプレッシャーから日本の若者たちを自由にして欲しいという企業人事の方々への小さな提案だったのですが、今回はなぜ、新卒採用というものが日本で当たり前のように思われるのかについて考えてみたいと思います。

 

■「新卒」は日本の企業文化と言語から

 

まず、なぜこのような習慣が定着したのか、文献から得られる情報を元に考えてみようと思いました。韓国には経営史という分野があまり活発ではないのですが、日本には経営史関連文献が割りと沢山あるのでそれを読んでいくことにしました。そのうちなんとなく、なぜこのような習慣が定着できたのかが分かってきました。


私はそこに企業文化と言語という二つの側面に基づく理由があると思います。


第一に、企業側の面は、終身雇用や年功序列など日本企業の特徴に繋がる問題です。まず、終身雇用ですが、日本には一つの職場で働くことが決まったら、その後何十年もそこで働いて生きていくという習慣がありました。なので、最初に選ぶ職場は一生に繋がる可能性が高く、皆就職活動と言うものに必死になるのではないかということです。


しかし、それでもなぜ「新卒」でなければならないのかという疑問は残ります。


次に、年功序列というものがあります。勤続年数が長くなれば地位も、給料も高くなるというものです。最近は変わってきているところも多いとは思いますが、人々の頭の中になんとなく残っているその考え方はなかなかアップデートされてないのではないかと思います。とにかくこの年功序列というものがあったため、年上の人が上司になるというのがこく自然になったのではないかと思います。なのでいきなり年上の人が部下として入ってくるのは気まずいと思う人が多いのではないかと。


以上の二つを繋げて考えると、「日本には終身雇用というものがあり退職するまで一つの会社で働く習慣があったが、一生働く職場では年を重ねていけば地位も給料も上がる。そのなかから「上司=年上」という考え方が根付き、一生働くところに年上の部下、年下の上司という気まずい関係は好ましくない」というところから、「それでは大学を4年で卒業した新卒であれば必ず年下になるので、その人々を新入社員として雇おう」ということに繋がったのではないかと思います。この二つ以外にも理由は色々あると思いますが、私は主にこの二つの習慣から新卒採用というものが出てきたのではないかと考えています。


第二に、そもそも年功序列ってどこから来たのかという疑問から、言語による文化の面がかかわってくるのではないかと思いました。日本語は尊敬語や謙譲語があり、子供の頃から年上の人に敬語を使うように習います。言語自体が年上の人を尊敬するような仕組みになっており、どうしても年配部下や同僚などは考え難いのです。このような言語から生まれた文化による上下関係がややこしくならないためには、やはり「4年で大学を卒業した新卒」は非常に楽な人材の取り方ではなかったのかと思います。これは韓国も同じなので私でもすぐ理解できます。別の話ですが、韓国には兵役の時に年下の先任兵が欲しくないので、兵役義務が発生する二十歳になるとすぐ軍隊に行くという習慣があります。そうすると自分より年下の先任はいないはずなので。

 

■韓国企業にはない新卒採用

 

これでなんとなく新卒という不思議な言葉の訳がわかってきます。

しかし、これって古すぎません?韓国の企業の中には日本を見習って立ち上げられたところが沢山あります。

とはいえ、韓国企業には新卒採用というものはありません。

正確に言うと、今はありません。


韓国にも10年ほど前までは新卒採用と既卒採用、経歴採用という分け方があり、新卒でなければ応募資格がないようなところもあったのですが、最近はほとんどなくなっています。次代が変わっているからです。

グローバルな人材、経験豊富な人材が欲しいけど、大学4年ではどうしても間に合わないことに企業も就活生も痛感したのです。例えば、フィナンシャル・タイムズ紙が年1回発表している、全世界上位500社の時価総額ランキング、FT500 2013の中に入っている韓国企業はSamsung Electronics, Hyundai Motors, Hyundai Mobis, POSCO, Kia Motorsといった5社ですが、その中で新卒採用をしている企業は一社もないです。


その代わりに「大卒新入社員採用」というものがあります。これは大学を既に卒業した者あるいは今年卒業見込みの者を採用対象としています。私が大手企業を例に挙げたのは、そもそもベンチャーや中小企業は新卒にあまり拘らないところが多いからです。


■変わりつつある企業、変わらない学生の意識

 

ここまで述べてきたことを考えると、日本企業って新卒採用の習慣を代えようとしていないのかと思うかも知れません。

私もそうでした。前回のコラムを書いていた時までもそうだったです。

しかし、何回も企業の方々に新卒採用について、留学や経験を積むための休学や留年などについて何回も聞いていくうちに分かったことがあります。


日本の企業は変わってきているということです。

こんな私でも考えられるようなことをベテランの方々が考えてないわけないですね。

初めて私がこのような問題について大手企業の人事の方に質問したのは2011年の夏頃でした。その時、帰ってきた答えは「変わりつつあります」でした。

その時私は「なにそれ、そんなの誰でも言えるのではないか」とイライラしていました。そしてまた最近いろんな企業の方々に聞いてみると、相変わらず「変わりつつあります」という答えを聞きました。

私はまたイライラしたのですが、今度私がイライラしたのは企業の方ではありません。何回も聞いて感じたのは「企業は本当に変わろうとしているし、変わりつつある」ということです。その場で急いで作り出した話ではなく、普段から考えていたことをベースに応えてくれるからです。休学や留年などしても良いと、ただしそこからなんでもいいから学んできて欲しいと言ってくれるのです。

 

しかし、どうやら学生たちには伝わってないようです。私が7~8年くらい前に就活をしている友達に「なんで休学をそんな怖がるの?なんで新卒で就職しなければいけないの?」と聞いた時、その子は「企業がそれを望むから」と言っていました。


そしてまた最近、就活に取組んでいる友だちに聞いたらまた「企業がそれを望むから」と応えられました。


企業はグローバル人材が欲しいし、様々な経験をした個性のある人材が欲しいと、ホームページにも書いていて、採用説明会でも言っています。

なのに学生たちはそれを読んで、聞いて、「企業は個性がなくてどこでも働ける人材を欲しがるし、その中の序列に従える人材を欲しがる。留年や休学は絶対にだめだ」と読み、聞いているのです。


それを見て日本の企業関係者でも、日本の就活生でも、日本人でもない第三者の私は心から感じたのです。変わらなければならないのは企業だけでなない、学生も自身も変わらなければならないと。そして正しいコミュニケーションというものを皆で考え直さなければならないと思いました。企業は発信するだけではなく、就活生に本当にそのような人材が必要だと「伝える」べきです。


そのためにでも「新卒」から「新入」へと一文字代えてみたらどうでしょうか。そしてもっと大事なのは学生自分が変わろうとしなければいけないと思います。

企業の人材像を素直に読んで理解して欲しいです。

彼らがそれを誤解する理由は「いつもの就活の波」に乗ろうとするからだと思います。同じ時期、同じような大企業でなくても、皆がやることを同じようにやらなくても大丈夫、企業もそれを望んでいる。というのが伝わって欲しいです。

 
 

金成美

一橋大学大学院生
金成美

一橋大学商学研究科博士後期課程 一橋大学イノベーション研究センターリサーチャー
修士テーマは破壊的イノベーションと新興市場:POSCOのFINEX技術開発を事例にあげ、韓国鉄鋼産業の成立歴史/最新技術開発におけるイノベーションと日韓比較と言うダブルフィールドで経営ヒストリーとイノベーションを専攻とする。

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