海外ビジネスに関連するコラム

ハラールを合言葉にイスラム圏と日本の架け橋に 第3回

イスラム教徒の食事対応

一般社団法人ハラル・ジャパン協会 代表理事 佐久間朋宏

 

■日本ではイスラム教徒の食事対応をどうしているのか


イスラム教徒は日本のどこにいるかご存知ですか。


訪日イスラム教徒は28万人(2012年)、在日イスラム教徒は18.5万人(2011年)と言われていますが、食事に関して言えばその市場規模は在日イスラム教徒の食事が911億円、訪日観光客では266億円(ハラル・ジャパン協会推定値)となり決して小さい市場ではありません。


観光で言えばさらにお土産という大きな市場も存在します。日本を訪れるイスラム教徒の多くはカタカナと漢字で表示された成分表示を読むことができない為に、コンビニエンスでもお土産を買うにも何を買っていいものか分からずに困っているのです。

国内ではイスラム文化圏の国から留学生を受け入れていた大学が在日イスラム教徒に対して対策を講じていました。


留学生受け入れ数が全国3番目の2936人(2012年5月現在)である東京大学(東京都文京区)でもハラルフード対応が本格化しています。


特徴は関東甲信越69大学の生協が加盟する「大学生協東京事業連合」が、食材調達やメニュー開発を一手に担っていることです。


そもそもの発端は、2006年に東京大学の講師がムスリムの学生が食べられるメニューの学食での提供を東京大学生協に依頼したことです。

東大生協では大学生協東京事業連合に相談し、学内の第二食堂でブラジル産のハラル認証を受けた鶏肉を用いた鶏のから揚げなどの提供を始めました。しかし一度トンカツを揚げた油でハラル鶏肉を揚げることができないなど調理上の問題があり、ムスリムの学生からもメニューが少ないことに不満の声が上がってきました。



そこで2009年の第二食堂の改修に合わせ、メニュー刷新に取り組むことになりました。留学生と懇談会や試食会を重ね、「発酵調味料である味噌や醤油は使わない」(今はハラル対応の味噌醤油が出来ています)、「ハラル専用の鍋や鉄板を使う」、「トングも専用のものを使う」など基準を決めていきました。また「ハラル肉は通常の豚肉と同じ冷蔵庫で管理せざるを得ない」、「食器は通常の料理のものと共用」、「殺菌のためにアルコールスプレーを使う」など積極的に情報開示し、「ムスリムの留学生にこの条件で食べられるか、食べられないかの判断を委ねた」(大学生協東京事業連合食堂商品課・林芳生課長)。結果、多くのムスリムの学生の理解を得ることができました。


 

     




調理では一台で焼く、蒸す、煮る、炊く、炒めるが可能な多機能加熱器「スチームコンベクション」、料理を急速冷凍する機械「ブラストチラー」、冷凍した料理を真空パックする「真空包装機」の3点セットをハラル専用として新たに導入しました。

まとめて調理し、5食パックに分けて冷凍保存する仕組みを整えました。このシステムによって他の豚肉を使った料理などと接触することなく、複数のハラルメニューを予め用意することが可能になったのです。営業時間中は湯煎で戻して温蔵庫に入れておき、注文があり次第すぐに提供できるようになっています。(取材:ハラル・ジャパン協会)

 

■国内飲食店の取り組み


国内の飲食店の場合は、まだまだ事例が少ないのが実態です。2013年に観光関連でハラルが話題になったこともあり初めに取り組み始めたのがホテルでありホテル内のレストランでした。


事例としては、北海道のルスツリゾート(加森観光株式会社)、千葉県のホテルスプリングス幕張、京都市のホテルグランヴィア京都(株式会社ジェイアール西日本ホテル開発)、関西国際空港のホテル日航関西空港(新関西国際空港株式会社)といった観光地や国際空港、国際的なコンベンションなどを抱える地域から始まっています。ホテルの客室にもイスラム教徒への対応(お祈りの対策)を施し従業員教育をしっかり行っています。



【写真 ホテル客室のイスラム教徒対応】


そして施設内の一部店舗やメニューをハラル対応もしくはムスリムフレンドリー対応にしています。

ホテル以外では、ハラル和牛によるしゃぶしゃぶの「花咲か爺さん(東京都渋谷区)」ハラル和牛の焼肉「牛門(東京都渋谷区)」などがあります。豚肉以外は問題ないというのは肉に対する概念としては間違いで、厳格に言えば牛肉であっても鶏肉であってもイスラム教の戒律シャーリア法に則った屠畜でなければならないのです。肉に関しては、和牛は国を上げて輸出産品として取り組みがされています。(平成26年度予算にイスラム圏向けのハラール対応型食肉処理施設の整備ととして30億円の予算が発表された)

料亭の「美濃吉(京都市)」などの和食店の取組事例は多くありません。インドネシア人のアンケートによりますと、日本に来て食べたいものは1位ラーメン、2位寿司、3位たこ焼き4位お好み焼き5位刺身(出典:エスノグラフ)となっており、日本まで来て自国などのエスニック料理は望んでいません、そういう意味で日本の料理をイスラム教徒向けにハラル対応することには無限の可能性があります。

 

ハラルがブームになるのは望ましいことですが、情報が溢れ初めてくる中で基礎知識がないと間違った解釈をしてしまいます、当協会ではハラル関連情報をガイドするために解説サイトをオープン致しました。

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「ハラルジャパンチャンネル」https://www.halal.or.jp/hjch/?hj

 

※ハラルとハラールは発音の違いで同意でありここでは「ハラル」と表現します。



 

佐久間朋宏

一般社団法人ハラル・ジャパン協会代表理事
佐久間朋宏

略歴
1964年 岐阜県下呂市生まれ
1991年 国立岐阜大学工学部工業化学科卒業
1992年  株式会社中広 入社 
2006年 常務取締役管理本部長でIPO準備  
2007年 名古屋証券取引所(証券コード:2139)に上場
2009年 株式会社東京事務所、日本エリアマーケティング支援機構設立
2012年 一般社団法人ハラル・ジャパン協会設立代表就任