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5感を満たすライブラリーカフェ(自由が丘)〜心身をリセットできる空間を目指して〜 第1回

スタバが広まる前に出会ったボストンのカフェ。

株式会社セレンディピティ  高良悦子

 


 私が初めてのボストンの地に足を踏み入れたのは17歳の春でした。 ボストンの街並みには、日本とも、それまで留学していたミネソタの田舎町とも違った活気にあふれた空気感がありました。当時のアメリカは、スターバックスをはじめとするカフェ文化が大きく広まる前のカフェ黎明期でした。当時学生だった私にとってカフェは生活になくてはならない存在になっていました。

 

ボストンのニューベリーストリート。ここに、私がよく通ったブックカフェがありました。そこは学生、会社員、ミュージシャンなど、分野が全く違う客層でいつもにぎわっていました。



 

私がよく通ったEspresso Royal Cafe



日本と違い、アメリカの大学生は月曜日から金曜日までは ひたすら宿題に追われます。親元離れ、一人で部屋で根を詰めて勉強するのは とても孤独でした。


「人の気配を感じたい」


かといって 集中しなければ勉強ははかどらないので 集中できる環境も欲しい。口元が寂しくなったら 誰かがサーブしてくれて孤独感を感じず、でも独立した環境がほしい。そんな若者のわがままなニーズを満たすには、カフェは最適な場所でした。

 

雑音、話し声、BGMが混ざり合い、決してリラックスできる環境ではないのですが、適度に周りの空気に包まれている安心感があり、美味しいドリンクを飲みながら 自分のペースで勉強に没頭するにはうってつけでした。

 

店員は 顔面ピアスをした人 刺青の人、リズムを刻んでオーダーを取る人とさまざまでしたが、彼らは皆、適度な距離感を保ってくれて、応対は多少ぶっきらぼうでしたが、こちらの要望や質問には丁寧に対応してくれる。見た目以外は、とても細やかでした。

 

本棚には なぜかアジアの歴史本が多く、カウンターにはお香が販売されており、コーヒーの香りと全くマッチしないが その空間が好きでした。

 

カフェの壁には 美大生の描いたカフェの趣向と違う大きめの絵画が壁に飾られていました。カフェの雰囲気に合うかと言えば 決してそうでもないし、絵画のタッチもまとまりが無かったのですが、学生のチャレンジ精神を応援したいという店主は 学生が持ってくる絵画を喜んで壁に貼っていたのでした。

 

カフェの空気と言うのは 不思議なもので、まとまりがなくても それがまた味わいに変わります。カフェの扉を開けば、その店主のコンセプトを 言葉ではなく 肌で感じ取ることができます。 私は理屈じゃ説明できない居心地の良さ、このまとまりなさ加減がとても好きでした。

 

 


Boston Public Library 石造りの建築がとても素敵です!



リラックスしながら集中もできるありがたい空間でありながら、創造的な空間でもありました。初めて会ったばかりの隣のお客さんと話をする事も年がら年中で、私達は同じ空気を共有しているという一体感のもとで会話がはずむ。 自分と違うタイプの人と話すことで、まったく違う価値観を共有できました。



学校のクラスでこんな発想や展開は決して生まれません。気負わずに自分らしくいながら 交流もでき 創造的な空間がカフェにはありました。そこで知り合った友人とは、今でも交友が続いています。


 

私が住んでた所で、よく利用していた最寄り駅



頭はコーヒーとともにますます活性化され、それまで気付かなかった全く違うアイデアが生まれてきます。 嗅覚味覚が満たされ、知的好奇心も満たされ、ある種の興奮状態に陥ってくる。それを抑えるのが、宿題の続きでした。


 

独立性を守り、個性を大切にするアメリカにおいて 当時のカフェの雰囲気というのは、アメリカの国民性を映し出している場所のひとつだったように思います。 そして、この多様性を許すスタイルが 自分の存在を受け入れてくれる安心感と癒しを私に与えてくれたのでした。

 


ここまで書くと、私が自由が丘に開いたカフェは、変わった風貌の人が店員を務める雑然とした空間だと思われるかもしれませんが、実際は、全く異なる寛ぎの空間です。 これは、その後、色々な経験をするにつれ、見えてきた、ボストンや東京のカフェに足りない部分、多すぎる部分が影響しています。

 

次回は、カフェとの出会いが、「自分でカフェを始めたい!」にまで高まった経緯についてお話します。

 

 

 

高良悦子

株式会社セレンディピティ
高良悦子

1975年生まれ
高校より米国留学し、ボストンの大学を卒業。
3人の子供のを育てながら、子供の成長を機に、かねてより計画していた
カフェ事業を始めるために株式会社セレンディピティを設立。

2014年10月にブックカフェ、ライブラリーカフェ自由が丘
(The Library Cafe http://www.librarycafe.jp)を開店。