海外ビジネスに関連するコラム

ピアニストが経験したグローバルな世界 第3回

イタリア留学を成功に導く行動様式

WPTA国際ピアノコンクール公式審査員  福田里香

 

第二回の続きをお話する前に、音楽留学成功のコツをまた一つ。自分から動いて、苦労を避けないことだろう、と思う。それは、事前準備にあたる、留学希望の先生へのアクセスや交通の手配から始まって、留学生活の全てに通じることだと私は思っている。

当然ながら、動けば摩擦が起き、摩擦が起きればストレスが生じる。それらが日常になって回せるようになると、海外で生活しながら、勉学での成果が期待できる環境になって行くのだと思う。

 

交通の手配一つでも、お任せパックと自分でやってみるのとでは大違いであろう。自分で部分的にでも手配してみると、実地で使える語学力や、留学先の国の制度、文化を予め体験する好機にもなると思う。おおよそ留学でしか得られない肝に触れるには、苦労を避けないで、自分から動く習性が必須だ。

 

アナウンス無しの国際列車

 

ミラノ中央駅でやっとの思いで乗り込んだ国際列車は、直ぐに100km/h超えのスピードで一路ミュンヘンに向けて快走を始めた。更に速度を上げた列車の窓から外を見ると、景色がビュンビュンと流れて行く。50分で、私が降りる予定のコモ駅に到着する、とミラノ中央駅のインフォメーションで教えてもらったものの、国際列車は一切のアナウンスがなく、本当に初めての停車駅がコモ駅なのか?確信が持てないままに45分が経過。たまらずに、周りの乗客に、次はコモ駅に停車するのか?を尋ねると、2,3人が軽く頷いてきた。リアクションが少なくて、更なる不安が頭をもたげる。と同時に、列車は心持ち、速度を緩めているではないか。慌てて、降りる準備に入った感じの乗客にも聞き回った。誰もが、次がコモ駅であることを否定しない。とは言っても、何せ乗客情報である。車掌さんはどこにいるのか?全く姿を見ないまま、列車は急減速し、重い車体はブレーキの軋み音を立てながら、ホームに入っていった。

 

最初の停車駅に到着。。

 

ホームに差し掛かって、ほとんど停まりそうになっている列車の中から、最初の停車駅となる駅の表示を探したが見つからない。駅名を知る手がかりが何もみつからないままに、ゴットン、と重々しい音を立てて停車。ドアが開くと、乗客が降り始めた。開いたドア越しにホームを見渡しても、尚、駅名を示す看板などは何処にも見当たらなかった。一体どこの駅だろう?しかし、もしここがコモ駅であって、降車しそびれると国境を越えてスイスに入ってしまう。降りる乗客の流れがまもなく終わりそう、という時、私はようやく覚悟を決めて、荷物満載のスーツケースを、高い位置のデッキ部分から慌ててホームに引きずり降ろした。

先に降りた乗客はどんどん、ホームから地下に通じる階段へと吸い込まれていく。更に駅名を確認しようとしたが、どこにも見当たらない。仕方なく、他の乗客について、改札に通じていそうな階段を10段ほど降りると、ようやく‘Como’という表示を発見。緊張していた全身の筋肉が一気に緩んで、ようやく、空気が肺の奥まで入っていくのを感じた。

 

バス乗り場はどこ?

 

コモ駅に着いたら、バスに乗って、留学先の先生が指定した街まで行くことになっていた。まずは、バス乗り場へ。しかし、駅前にはバスの姿はなく、バス乗り場がどこにあるのかわからない。改札付近に幸い駅員がいたので尋ねると、どうも少し離れているらしい。スーツケースをゴロゴロと引きながら、手で指し示された方向へずんずん歩いて行くと、程なく、20台くらいバスが停まっている場所が見えてきた。ここから、発着するらしい。



コモ駅近くのコモ湖、南北50Kmの「人」の漢字に似た形の大きな湖です 

 

英語が通じない!

 

 バスは20台以上停車していて、一体どのバスに乗るのか?わからない。第一、バスの乗り方がわからない。バスの傍らでおしゃべりに興じている運転手さんに、行きたい街の名前を告げると、それなら10番のバスだ、と紙に行き先と番号を書いてくれた。しかし、まずは切符を買うらしい。どこで買うのだろう?とまた尋ねると、右手に見えている建物を指さされた。その建物に入ると、カウンターがあり、男子高校生?と思うような若い男性が座っていた。

 「10番のバスに乗るので、その切符を1枚ください」と英語で話しかけると、さっぱり通じない。先ほどの行き先とバスの番号の書かれた紙を見せながら「1枚」と英語で2,3度言っても通じない。反対に、ウノ?ドゥエ?と聞いてきた。あっ、英語が通じなくなっている。ミラノ中央駅も、国際列車も、英語が通じたけれど、ここはまさにイタリア。随分遠くまで来たものだ。旅して来た1万キロの道のりと、準備に費やした10年の道のりが重なる。

 いよいよバスの出発だ。チャオ・イタリア!

 

 

福田里香

WPTA国際ピアノコンクール公式審査員
福田里香

国産ピアノ製造黎明期に横浜にてピアノ製造に携わった大伯父の影響で、幼少よりピアノに親しむ。国内で2種類の学士号を取得。群馬県新進芸術家海外研修生としてイタリア留学、K.U.シュナーベル教授に師事。イタリアから帰国後は演奏活動、指導の場をを日本のみならず台湾に広げる。
 米国西海岸に在住後、英国RCM奨学金を得て、チャールズ皇太子が名誉総裁を務められる、英国Royal College of Music, London大学院課程に留学、2001年に同大学大学院課程修了。帰国後は、財団法人ヤマハ音楽振興会本部勤務を経て、「横浜開港150周年記念ピアノコンクール&フェスティバル」「日タイ音楽家交流 in Bangkok」(いずれも、外務省:日メコン交流年認定事業)を代表とする国際交流活動に熱心に取り組む。
 これまでに国内外7カ国で演奏。2013年、国際ピアノ導者連盟主催の国際ピアノ会議(セルビア)招かれ、レクチャーリサイタルを開催。セルビアの楽曲にもレパートリーを広げる。
 また、国際コンクールを含む、複数のピアノコンクールの審査員を歴任。現在、WPTA国際ピアノコンクール公式審査員。

あと、参考なりそうなページのリンクをはっておきます。
今夏招待参加した国際ピアノ指導者会議(セルビア)参加レポート
http://www.piano.or.jp/report/04ess/itntl/2013/09/06_16539.html
文藝教室ちえのわ講師紹介
http://chienowa-bungei.com/index.php?page=music