ベトナムで予防歯科の医院を作る 第2回 なぜ、ボランティア活動でなかったの?

内田 結貴
 


なぜ、ボランティア活動ではなく、開業だったのか?


ベトナムでの開業のきっかけとして「予防歯科という概念をベトナムに持ち込みたかった」と言うと、「なぜボランティア活動ではなくて開業だったの?」と聞かれることが多々あります。

 

確かに、日本からは様々なボランティア団体がベトナム各地にボランティア活動に来ており、歯科においても同様に多くの日本人歯科医師たちが隊を組んで年に何度か無料診察や歯磨き指導などに来ています。

ボランティア活動にはボランティア活動の意義があると思います。
日本の人たちに別の国の現状を知ってもらうきっかけとなることや、現地で医療費が払えない人たちにも治療を無償提供できることなどのメリットがあるからです。

 

しかし、日本人というのはあらゆることを突き詰めて行動する節があり、新興国においてはそれが裏目に出てしまうこともあります。

これはベトナムの近隣国であるカンボジアで支援事業をしている方々からも同様の意見があったのですが、私たちが熱心にボランティアをすればするほど、現地人が「ボランティア慣れ」してしまう、という側面があるからです。

たとえば、3か月に一度、日本人歯科医師たちが来て子供たちの治療や歯磨き指導のボランティアをするとします。


「やってもらうことが当たり前」という発想をもってしまうと・・


おそらく日本人としては「現地のスタッフに私たちがやっていることを覚えてもらって、いずれは自分たちだけで同じことを運営・治療できるように」という狙いがあると思うのですが、時としてその思いが強いあまり熱心に施術を行いすぎて、「日本人が来て熱心にやってくれるから私たちはあまり面倒見なくてもいいよね。」という発想になってしまうことがあるからです。

 

「やってもらうことが当たり前」という発想を彼らが持ち始めてしまうと、私たちにどれだけ崇高な使命感があってボランティアをしたとしても現地人にその思いが根付くにはほど遠くなっていきます。

 

日本からはODAなどにより立派なインフラ環境や設備、器材が整えられることがあります。

しかし、こうした「与えられる経験」が増えてくると与えられることが当たり前になってしまって「自分たちの力で解決する」というチャンスを奪ってしまうことにもなりかねません。

 

現状では「給与」以外で仕事に対する「やりがい」や「モチベーション」を計るものさしを持っている人が少ないベトナムでは、なぜ仕事において自分たち自身で「創意工夫」や「問題解決」を行ってシステムを構築していく必要があるのか、ということが理解されにくい状況です。

 

ベトナム人の多くは、ほんのわずか時給が上がるというだけで簡単に転職しますし、せっかく育てた優秀な人材は逆にヘッドハンティングにあって他社へ行ってしまいます。「転職しない人はその会社で出世街道を歩んでいる人か、まったく取るに足らない人材のどちらか」という考えなので、「優秀な人材は転職する」のが普通だ、と捉えています。仕事とは時間を拘束されるものであって、貢献するものではない、とも考えています。

 

植民地時代やベトナム戦争を経たせいなのかもしれませんが、ベトナム人は基本的に「遠い先の報酬」というものを信じていません。昨日までの自分の資産を、今日は別の人に取り上げられるかもしれないとどこかで思っているのかもしれません。究極に「今」だけを見ているふしがあって、「がんばったら1年後に報酬をアップしよう」と言っても、隣で「明日からうちに来てくれれば3割増しの給料を上げるよ」と言われればそちらに行ってしまいます。たとえ、今の会社がどんなに自分を成長させてくれるものだとしても。

もちろん、すべてのベトナム人がそうだとは言いません。また、今後消費活動が活発になっていくであろうベトナムの現状を鑑みても、多くのベトナム人がより多い収入を求めて転職していくのも至極当然のことだと思います。ただ、そうした中でもっと仕事の多様性を俯瞰で見て、給与だけではなく仕事の面白さや楽しさを見てほしいとも思いますし、どうしたらそれを実感してもらえるのか、ということも考えなくてはなりません。

 

常々、私は「会社にとって必要のない人間になりたい」と思っています。これは無能であれということではなく、「社長なんかいなくても社員の力で会社が回っていくようにしたい」ということです。

「給与」と仕事に対する工夫や問題解決から来る「やりがい」を両立させる一つの方法として、「出世は青天井」ということを見せるのも良いかもしれません。


歯科医院という性質上、専門職とそうでないスタッフが混在していてその役割を兼任することが難しいため思いっきり青天井とはいかないまでも、「どうすればもっと良い職場になるか?」ということを考えてその解決策を見出して実行していけば、誰でも等しく出世していける、ということが見えれば、仕事に対してやりがいを見出すための一つのモチベーションになるのではないかと考えています。

 

「高給」だけを強調すれば「金の切れ目が縁の切れ目」を地で行って安易な転職を招くでしょうし、「やりがい」だけを強調すれば「やりがいだけでは飯は食えぬ」という不満を招くでしょう。

日本人として譲れないところとベトナム人スタッフがわかりやすく実行しやすいシステムを両立させること。これが今の私に与えられている一番の課題だと感じています。

 

一つの会社が雇用できる現地人スタッフの数はしれています。

まして歯科医院など通常は小規模の組織であり、そこで働く人数は人口比でいえばごくごくわずかです。

しかしながら、ボランティアではなくビジネスとして根をおろし私たち日本人が目指している仕事の在り方を示すことには意義があると思っています。

一緒に実行してみて彼らの覚えやすい方法にアレンジし、彼ら自身でシステムを作り上げられるように協力することこそ、彼らの問題解決力を育て、ひいては彼ら自身でまた新たな雇用を創出するきっかけになるのではないかと考えています。

 

 
 

内田 結貴

Smile Dental Center(ベトナム・ホーチミン)
内田 結貴


1981年 東京都生まれ。
2歳より埼玉で育ち、大学進学を期に広島在住(広島大学歯学部歯学科卒)。
卒後は東京都内の大学病院や埼玉県内の歯科医院に勤務したのち、2010年5月よりベトナム・ホーチミン市在住、同年11月に同地にて歯科医院をオープンし現在に至る。

日本の高度経済成長期を彷彿とさせるベトナムの現状を知り、「日本人が高度経済成長に伴う生活環境変化の結果として味わった『歯の苦労』をベトナム人には味わってほしくない」という思いから予防歯科をベトナムに持ち込むべく開院を決意。

しかしながら、現在は「細かなニュアンスが母国語で通じる安心感」ということもあって患者の9割を在越邦人が占め、残り1割の中にベトナム人やその他の在住外国人を含んでいる。

9名のベトナム人スタッフとともに唯一の日本人として、日々ベトナム語、英語、日本語に囲まれながら診療にあたっている。

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