ベトナムで予防歯科の医院を作る 第3回 ベトナム人の言語習得熱の高さ

内田 結貴
 



日本人は英語恐怖症?

 

私はベトナムに住んでもうすぐ4年になりますが、ほとんどベトナム語ができません。
理由(というより言い訳)はいくつもあり、発音が難しい、勉強する時間がない、英語・日本語を話すスタッフがいるので通訳してもらえる、などなど。
おかげで4年近くも住んでいるのに、いきつけのお店で店員さんとベトナム語で談笑、なんてことは夢のまた夢です。

日本人の「英語恐怖症」が叫ばれて久しいですが、日本人はどうにも新しい言語を覚えるのが苦手なようです。
最近でこそ留学も盛んになりましたし外国語を話せる人の数も増えてきていますが、「中学高校と6年間も英語を勉強したのにさっぱり使えない」という人もまだまだ多いのではないでしょうか。

 

一方、ベトナム人は言語能力が非常に高いと感じます。

まず、識字率は9割を越えています。そして「勉強好き」な人も多いです。
会社で働きながら夕方から語学学校に行く人もいますし、娯楽が少ないこともあって新聞や本を読む人も多く見かけます。

 

また、歴史的に見ても中華圏の漢字文化に加えてフランス植民地時代のアルファベット文化もあり、アジアの言葉と西洋の言葉が融合している感じがします。

 

言語取得=収入につながるベトナム

 

そして、この「言語習得熱」の高さはやはり「収入」に大きく影響していると思います。
日本で外国語ができれば就職や転職に有利になることはあっても、給料が1.5倍になる、ということは稀だと思います。一部の第一線で活躍する通訳の方などを除いてはあくまでも外国語ができることはオプション扱いのような気がします。

 

しかし、ベトナムでは外国語が使えることはすぐさま給料に直結します。
外国語ができれば、同じ役職でも給料が倍になることもあるので、必要と見ればみな一生懸命外国語を習得しようとします。

 

観光で市場に出かけてみてください。ありとあらゆる言語で話しかけながら、お客さんと値段交渉に持ち込むベトナム人のたくましさを目の当たりにするはずです。
彼らは語学学校になど通っていません。商売しながら観光客に言葉を教えてもらったり、本で勉強したりして独学で習得していくのです。(なので、時々いきなりおかしな方言が出てきたりして思わず笑ってしまうこともあります。)
お客さんの言葉で交渉できなければ食い扶持を稼ぐことができない、とわかっているから必死で覚えていきます。

 

ベトナム人の言語習得スピード

 

私のところのスタッフでも、入社当時はベトナム語しか話せなかったスタッフが少し経つと片言の日本語や英語を話すようになってきます。

上司である私のあまりのベトナム語のできなさ加減に絶望して仕方なく覚えてくれているのかもしれませんが、私がベトナム語を覚えるスピードよりも圧倒的な速さで習得していきます。
中には正社員からバイト社員に降格して構わないので、17:00で退社して大学の日本語学科の夜間部に通いたい、と言ってきたスタッフもいました。(さすがにそのスタッフは2年の間にみるみる上達し、私と日本人患者さんの会話を横で聞いていてほとんど理解するまでになり、結果的にはステップアップを目指して転職していきました。)

 

ただ、習得のレベルはまちまちです。

日本で言えば英検3級くらいのレベルなのに「ビジネス英語に堪能です」と言って求人に応募してくるような人もいます。
学歴も経歴も申し分なく、良さそうだと思っていざ面接をしてみるとこちらの言っていることを半分くらいしか理解しておらず、残りの半分の意味を推測してピントのずれた回答を繰り返す人もいます。
勉強熱心かつ座学で外国語を修めたことは認めるけれど、到底実践で使えるとは思えないような状態でも「私は外国語を扱えます!」と堂々としているところにはむしろすがすがしささえ覚えるほどです。

 

多少なりとも扱えれば堂々と「外国語が扱えます」と言ってみて、採用されればラッキー、あとは実践で覚えて行こう、という感覚なのかもしれません。

日本人にはなかなかできないことです。

しかし、日本人もこれくらい大胆でもいいのかな、と最近は思うようになってきました。私がベトナム化してきているのかもしれませんが、何も完璧な外国語を扱えなくてもまずは使ってみなければ上達もしないと思うのです。

以前、ベトナム系フランス人の友人が「取引先の人と最初に会話するとき、『私の母国語はフランス語なのであまりベトナム語が上手じゃなくてごめんなさいね。』と断りを入れるの。でも、それがアイスブレイクになって、そこから先は多少の言葉の問題があってもコミュニケーションはうまくいくのよ。」と言っていました。

見た目は完全にベトナム人でも育ちはフランス人の友人にしてみれば、どうみてもベトナム語を完璧に話すように見える(がゆえに、完璧なベトナム語を扱うことを期待される)というのはものすごいプレッシャーだとも思うのですが、それを逆手に取った上手なコミュニケーション術だな、と感心した覚えがあります。

ベトナム人も、他の外国人も、決して完璧とは言えなくても「外国語でコミュニケーションをとってみる」ということへのハードルは低いな、と感じます。
あらゆることを追求して完璧を期そうとする日本人の気質はすばらしいことですが、語学に関していえばベトナム人を見習ってもっとオープンに、気取らずに扱ってみるのも良いのかな、と思います。私自身のベトナム語習得に対する自戒も込めつつ・・・。


 
 

内田 結貴

Smile Dental Center(ベトナム・ホーチミン)
内田 結貴


1981年 東京都生まれ。
2歳より埼玉で育ち、大学進学を期に広島在住(広島大学歯学部歯学科卒)。
卒後は東京都内の大学病院や埼玉県内の歯科医院に勤務したのち、2010年5月よりベトナム・ホーチミン市在住、同年11月に同地にて歯科医院をオープンし現在に至る。

日本の高度経済成長期を彷彿とさせるベトナムの現状を知り、「日本人が高度経済成長に伴う生活環境変化の結果として味わった『歯の苦労』をベトナム人には味わってほしくない」という思いから予防歯科をベトナムに持ち込むべく開院を決意。

しかしながら、現在は「細かなニュアンスが母国語で通じる安心感」ということもあって患者の9割を在越邦人が占め、残り1割の中にベトナム人やその他の在住外国人を含んでいる。

9名のベトナム人スタッフとともに唯一の日本人として、日々ベトナム語、英語、日本語に囲まれながら診療にあたっている。

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