2014年4月2日
2009年、ついにアフリカの大地をはじめて踏んだ。国はエチオピア。
何故エチオピアを選んだかと言うと、今も現代文明から離れたところで暮らす民族が沢山いるから。エチオピアに行けば私が憧れ続けた人たちに会えると思った。
私の希望通りエチオピアではユニークな民族に沢山会うことができた。
下唇を切ってプレートをはめるムルシ族にファッショナブルなエルボレ族、白いボディペイントが魅力的なカロ族。
初渡航から5~6度エチオピアに渡った今改めて振り返ると、なんだかんだ一番面白かったのは普通のエチオピアの人々とその国自体かもしれないと思う。
私はこの国へ来る度に必ず虫にやられる。
南京虫に腰から下を一晩で200ヵ所刺されたかと思えば、よく分からない虫に指に卵を産み付けられて期せずして辺境の地で子持ちになったこともあった。極めつけは突如こぶしほどの大きなコブが日に日に背中に増えていくという症状。とりあえず、現地の病院に毎日通ったが当初は原因も分からず、コブに針を刺しては水を抜いてもらうという応急処置を4日間ほど続けた。が、最終的に担当医から「こりゃアフリカンアレルギーだわ、君」と、適当な診断をくだされた。(匙を投げられた。)エチオピア以外でこんな症状が出たことは一度も無い。まさに、この適当さがアフリカである。
時にアフリカを旅する上で避けては通れない経験がある。
それを初めて私に体験させてくれたのもエチオピアだった。
私がこの国に訪問する際、近くに寄ると必ず顔を見せに行く友人一家がいるのだが、いつものように家にお邪魔したその日の夕飯時、突然そこのおばちゃんにこう言われたのだ。
「nagi、その鶏をアンタ捌きな!」
エチオピアでは鶏も家族だという認識がある。なので、鶏が当たり前のように家の中をうろついているのはもちろん、我がもの顔でソファーに座り、「邪魔!」と言わんばかりに人間である私を突っつくのも日常茶飯事だ。
しかし、そんな家族である鶏を私に捌けというのだ。
当然私は拒否した。それまで鶏を捌いたこともなければ、できれば今後も食べる専門でありたいと思っていた。さすがに駄々をこねて嫌だと伝えれば分かってくれるものだとばかり思っていたが、甘かった。彼女たちは許すどころか、拒む私に説教を始めたのだ。
「nagi、貴方がいつも食べている肉にも命があるの!命の有り難みを改めて知る必要があるの!大人なんだからちゃんと現実を見なさい。食べるだけじゃダメなのよ! 」と。
それでも私が駄々をこね続けているのを横目でやりながら、おばちゃんは近所の青年を呼んで捌く準備をささっと整えた。青年はソファに座っていた鶏を手際よく捕まえ、首をナイフで切って地面に落とした。死ぬ前のひともがきと言わんばかりに暴れる鶏に大きな金だらいをかぶせ、大人しくなるまで見届けた。※エチオピアでは鶏の首を切るのは男性の仕事なので、女性はやってはいけないらしい。
そしてここからが女である私の出番。
促されるがままに、息絶えた鶏の足を掴み、熱湯に突っ込みながら羽を毟った。この時、私は目の前で屠殺が行われたショックと息絶えたばかりの鶏を初めて触る気持ち悪さに半泣き状態だった。
「こんなことを経験しなきゃならないのならば、私はもう2度と肉は食べない!食べなくていい!」と、彼女たちに訴えかけながら、後半はもうヤケクソで私は羽を毟り続けた。
羽を毟って、内臓をかき出すまでは本気で『2度と肉なんて食うか!』と、思っていたが人間というものは実に不思議なもので、さっきまで生々しかった鶏の死骸が徐々に捌かれていき、スーパーで売られている鶏肉の切り身と変わらぬ姿になると"美味しそう"という思考へと次第に切り替わっていった。そしてそれまでの感情が嘘かのようにお腹は減り始め、目の前の鶏肉を体が欲し始めた。もし自分が動物の屠殺に立ち会ったら、絶対にショックから立ち直れなくて肉を食べられなくなると思っていた。が、意外と早く立ち直ってしまった。(自分でもビックリ。)
これは単なる食い意地なのか、それとも切り替えの早さなのかは分からないけれど、とにかくこの図太い神経のお蔭で肉食を断たずに済んだ。
こんな経験をさせてくれたエチオピアには感謝をしている。
驚くほどの適当さと命に対する真面目な姿勢、こんなアフリカならではのギャップを初めて味あわせてくれたのがこのエチオピアだった。
その反面で、エチオピア人は私が出会ったアフリカ人のなかでもかなり日本人に近い国民性をもっているのではないかと思うことがある。
私が何か食べ物を分け合おうとすると「nagiが全部食べな~」と一度断ったり、何かを褒めると「そんなことないよ~」などと謙遜したりする。
そんな彼らの性分も手伝って、私はこの国がとても気にいったのだ。
アフリカ人になりたかったのになれなかった私の記念すべき初アフリカはエチオピアであった。次回はマリでの体験を紹介したいと思う。
フォトグラファー
ヨシダナギ(nagi yoshida)
1986年生まれ、フォトグラファー。
幼少期からアフリカ人に意味の分からない憧れを抱き「自分も大きくなったらアフリカ人のような姿になれる」「彼らと一緒に同じ生活が出来る」と信じて生きる。
イラスト・写真を独学で学び、2006年よりイラストレーターとして、2009年よりフォトグラファーとして活動。アフリカからインスピレーションを受けた独特の色彩感覚と世界観、ユニークなタッチが欧米のアニメーションスタジオなどから評価を受け、2011年頃からは国内外問わずキャラクターデザインをメインに活動中。イラストを描く傍ら、アフリカや発展途上国に訪れ少数部族などのポートレート写真を撮り始める。大使館後援イベントへの写真展示オファーを機にフォトグラファーとしての仕事を確立。現在は海外でポートレートを撮りながら、アーティストやモデルの宣材写真などの撮影も行う。今夏(2014)、第一弾写真集を発表予定。
WEB SITE : http://nagi-yoshida.com/
BLOG : http://ameblo.jp/bohemiandays/
Twitter : @nagi_yoshida