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アフリカ人にあこがれて 第3回

泣いて喚いてモスキート

フォトグラファー  ヨシダナギ(nagi yoshida)

 

エチオピアの次に私が向かった国は西アフリカのマリ共和国とブルキナファソ。

どうしてこの2か国を選んだかというと、西アフリカは東アフリカよりもディープなアフリカを感じられるという情報を得たから。そして、ただ単純にブルキナファソという馴染みのない国名に妙に興味をそそられたから。





渡航前、「西アフリカはフランス語圏だから結構苦労するよ」「西アフリカは過酷だよ」と告げられていたのだが、フランス語圏とは言え、簡単な英語くらい通じると思っていたし、そうそう過酷なことなんて無いと思っていた。

が、マリに着いて早々、フランス語圏の洗礼を受けることになった。

 

目玉焼きwithモスキート


朝食を食べようと宿のレストランに入ると、男性スタッフ3人が突っ立っていたので私は笑顔で「Good morning」と挨拶をした。が、彼らから返ってきた言葉はフランス語。申し訳ないが、フランス語はボンジュールくらいしか分からない。そんな私に対して、彼らは意地悪な笑みを浮かべながら長々とフランス語で話し掛けてくる。「Please speak English!」と訴えかけても返ってくるのは意地悪な笑顔だけ。

 

( 決して彼らは感じが悪いわけではない。ただ単純に彼らは英語が全く喋れないのだろう )


そう勝手に解釈し、半ば逃げ腰で近くの席に座り、朝食が運ばれてくるのを待った。

 

そして、目の前に運ばれてきた皿を見て私は驚いた。


ウエイターが運んできた皿には目玉焼きが1つ。その目玉焼きの上に大きな4匹の蚊が埋まっていたのだ。これがマリスタイルなのだろうか?もし、これが嫌がらせでも何でもなく、マリのスタイルなら食べようと思った。が、念のため、ウエイターに身振り手振りで「これ食うのか?」と聞いてみると彼らはニヤリと笑いながら食えと合図してきた。


 

( やっぱり何か彼らのあの笑顔、信用できない )


どうしようか考えているところに通訳が迎えに来てくれたのでモスキート入りの目玉焼きを見せてみると、案の定、食べちゃダメ!と返ってきた。だよね。だよね、そうだよね。流石に、蚊は食べないよね。ウエイターのお兄ちゃんに「新しいのに変えて!」と皿を渡すと、お兄ちゃんは思いっきり目玉焼きに指を突っ込んで蚊をつまみ出し床に投げ捨て、皿を突き返してきた。そして意地悪な笑顔と共に私の前から去っていった。

 

私がフランス語を全く喋れなかったことが原因なのか、何が理由なのかサッパリ分からないが明らかに嫌がらせだと分かった時は本当に悔しかった。だから次は絶対にフランス語で挨拶してやろうと思い、通訳から少し習ったフランス語で翌日私は彼らに挑んだ。昨日同様、意地悪な笑みで私を迎える彼らに「Bonjour!Ca va?」と覚えたてのフランス語を披露した。これで優しい微笑みが返ってくると思っていたのだが、彼らから返ってきた言葉に思わず耳を疑ってしまった。

 

「Good morning, Nagi. Did you sleep well?」


(めっちゃ英語喋れるじゃん!!折角フランス語で挨拶したのに英語で返してくるなんて何なのー!? )



イラっとしている私を見て、相変わらず意地悪な笑みを浮かべる3人。彼らとの出会いを機に、西アフリカでは人間関係がスムーズに進まないだろうと悟った。






大人気もなくアフリカで号泣


マリからブルキナファソ方面へ進んで色んな人たちと出会い、もちろん沢山の良い人とも出会えた。が、一部のエリアではアジア人差別があるらしく、道端で砂や石を投げつけられたり、時にはすれ違いざまに強く叩かれたりと何度か心が折れかけていた。そんな状況下でとある町に立ち寄った時、子供から思いっきり砂を顔面に投げつけられた。この時、何かが私の中で爆発してしまい、砂漠の町のど真ん中で号泣してしまった。

 

あっという間に私は野次馬に囲まれ、泣き続けていたらこのまま集団攻撃をされるのではないかと怯えつつも、涙が止まらず内心焦っていた。


が、野次馬同士で「お前が泣かせたのか!?」「俺じゃない!」といったやり取りを繰り返していたので、その間、私は涙が枯れるまでこの際、泣きじゃくってやろうと恥じらいもなく大泣きすることに決めた。


すると徐々に野次馬の対応が変わり始め、泣き止まない私にアフリカ人の方が慌て出し、皆で私を慰め始めたのだ。そして、私に砂を投げつけた子供を引っ張り出し、私に謝罪をするように促してきたのだ。


この時、私は( もしかしたら、アフリカ人には言葉で訴えかけるよりも泣き喚く方が手っ取り早いのかも… )と、思い始めた。この考えはブルキナファソの空港で確信へと変わった。






自然に身に付き始めた”泣き喚く”という術



チェックインをしようとカウンターに並んだのだが順番を次々抜かされ、気の弱い私は当時抜かし返すことも文句を言うことも出来ず、刻一刻と迫るフライト時間に焦っていた。やっと私の番になったかと思いきや、空港スタッフは英語が全く喋れない。航空券を渡しても何故かチェックインをしてくれる気配もなく、ブツブツ何かを言っているのだがフランス語なので全く分からない。この時点で私のフライトは30分後に迫っていたというのに、あろうことか空港スタッフは私をすっ飛ばして、次の人の手続きを始めたのだ。私が目の前に航空券を突き出しても完全無視。私が話し掛けても無視。私の方を見ようともしない。

 


( どうしよう…このままでは飛行機を逃してしまう… )



空港という場で大の大人が大泣きするなんて少々気が引けたのだが、飛行機を逃すわけにはいかない。


それに、ここはアフリカ。


私はチェックインカウンターの前で思いっきり声を上げて泣き喚いてみることにした。


すると案の定、空港内の人々の視線は私に集中した。


そして、砂漠の町同様、野次馬に囲まれ、その視線は次第に空港スタッフへと向けられた。すると、さっきまで全く相手にしてくれなかったスタッフが急に態度を変えてチェックインを始めてくれたのだ。

 

これをキッカケに私はアフリカで何か嫌なことや不愉快なことがあると、さほど悲しくもないのに涙を流して喚くという癖が自然についてしまった。


普通に考えたら非常に大人気ない行為なのかもしれないが、対アフリカ人に関しては言葉で訴えかけるよりも遥かに効率が良い。

間違いなく彼らにはコレが一番効く

(これは私が女だから通用する手段なのかもしれないが)






それでも、やっぱりアフリカが好き



「何故、異国で嫌な思いをしたり、泣いたりしてまで、また懲りずにそこへ戻るのか?」とよく聞かれるのだが、自分でも正直その詳しい理由は分からない。


だけど、私にとってアフリカという地はとにかく面白くて仕方がない。

どこへ行ってもハチャメチャなことが起きる。嫌なことも面白いことも。

今回のブルキナファソの話で言えば、エアコン設備がある宿に珍しく泊まれたので、その時はもう嬉しくて真っ先にスイッチを入れたのだがスイッチを入れた瞬間、吹き出し口から大量の土がふき出した。かと思えば、エアコンから大きな変な音が出始めて、これは爆発でもするんじゃないかと思った瞬間…吹き出し口から大きなイグアナが私目がけて飛び出してきたという出来事があった。私はこういう予想外のことが日常的に起こるアフリカがたまらなく好きなのだ。

 

そして、アフリカは私に色んなことを教えてくれる。

私はアフリカに行く前までは小心者で、1人で何かをするということもできなければ、今以上に人見知りで自分の感情を表に出すことも殆ど出来なかった。だけど、アフリカに行って”国や文化は違えど、人間はその環境に応じた人間になれる"ということを彼らから教えてもらい、色んな意味で自信がついた。


そして私の性格は大きく変わったと思う。

今ではアフリカに行く度に「お前、俺らアフリカ人よりアフリカ人だな」と言われるまでになった。

(その分、日本に戻った直後は"動きが雑"だとか”反応がアフリカ人っぽい”と言われ、よく迷惑を掛けてしまうのだが)

 

そんなこんなで、少しずつアフリカに順応してきた私のアフリカ珍道中はまだまだ続く。

 

 

ヨシダナギ(nagi yoshida)

フォトグラファー
ヨシダナギ(nagi yoshida)

1986年生まれ、フォトグラファー。
幼少期からアフリカ人に意味の分からない憧れを抱き「自分も大きくなったらアフリカ人のような姿になれる」「彼らと一緒に同じ生活が出来る」と信じて生きる。

イラスト・写真を独学で学び、2006年よりイラストレーターとして、2009年よりフォトグラファーとして活動。アフリカからインスピレーションを受けた独特の色彩感覚と世界観、ユニークなタッチが欧米のアニメーションスタジオなどから評価を受け、2011年頃からは国内外問わずキャラクターデザインをメインに活動中。イラストを描く傍ら、アフリカや発展途上国に訪れ少数部族などのポートレート写真を撮り始める。大使館後援イベントへの写真展示オファーを機にフォトグラファーとしての仕事を確立。現在は海外でポートレートを撮りながら、アーティストやモデルの宣材写真などの撮影も行う。今夏(2014)、第一弾写真集を発表予定。

WEB SITE : http://nagi-yoshida.com/
BLOG : http://ameblo.jp/bohemiandays/
Twitter : @nagi_yoshida