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コスモポリタン〜時代や環境を超えて生きる人は何が違うのか?〜 第5回

「No pain, No gain」

プロインタビュアー  早川洋平

 

急速に開発が進む都市圏と周辺に今も残る雄大な自然。日本からの好アクセスに物価の安さ。英語の通じやすさに加え、多民族国家ならではの充実した食文化……利便性と癒やしを兼ね備えるマレーシアは、今や日本人にとって「移住先ナンバーワン」の呼び声も高い。一方で、世界人口の4分の1に迫るとも言われる巨大なムスリム市場の入り口としても注目を浴びている。





 そんな同国最大の都市クアラルンプールに居を構えるのが経営コンサルタントの立花聡。今回のコスモポリタンだ。

 

■あこがれの「職住分離への道は一日にしてならず」

立花は大学を卒業後、LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在にいたる。

 

いまの住まいは、クアラルンプール郊外の閑静な住宅街にある大きなプール付きの一軒家。ここに夫人と愛犬たちと暮らしながら、中国と東南アジアを中心にビジネスを展開する「職住分離」というあこがれのスタイルを2年近く続けている。


 

と、ここまでの経歴と現在の彼について書くと、ため息がでそうになる。しかし、彼がここにたどり着くまでの道のりは決して平坦なものではなかった。

 

「もともと起業しようなんて、全く思っていなかったんです」

 

立花は笑う。

 


 前述の通り、立花はロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。当時担当していた日系企業のマーケットシェアを95%にまで伸ばすなど、6年にわたる在任期間で、外資系企業に徹底して求められる「結果」を出してみせた。

 

しかしあるとき、上司から「あなたのミッションは完遂しました。9割のマーケットを取れたからもう仕事はありません」と非情の通告を受ける。

 

「これが外資系のロジックなんです。高い給与は、ミッションが完遂したところで辞めてもらうための退職金も折り込んでいたというわけです」

 

外資系企業の基本的な考えは、「ポストあっての人」。だから役割を終えたらお役御免。日本企業よりも高給取りのイメージが強いが、それはあくまで「人」ではなく、「ポスト」に支払われるものだった。

 

「『いつ会社を辞めることになっても生きていける力は自分で身につけなさい』というのが彼らの考え方。でもおかげで、サバイバル力がつきました」

 

立花に残された道は、これまでの「駐在員」とは異なり、突然の解雇もありうるロイター香港での「現地採用」か、ロイター・ジャパンでの雇用。東京への帰任となるが、雇用は保証される。どちらを選んでも給与が半減するのは同じだった。

 

悩んだ末、東京帰任を選んだ立花だったが、配属されたのはこれまでのグローバルな仕事とは対極の「ドメスティック」な仕事が求められる部署だった。そんな状況にたたみかけるように折り合いの悪い上司。さまざまな葛藤を抱えるなかで、彼は決心する。

 

「上司を変えることはできないし、会社の方針も変えられない。それなら変えられるのは自分だけ、そう思いました」

 

一度きりの人生。このままの自分でいるくらいなら、思い切って退路を断って独立しよう。そう決意した。人生の節目節目でさまざまな哲学を教えてくれた会社には、いまでも感謝している。

 

立花が会社を辞めて選んだのは、コンサルティング業だった。選んだ理由は二つ。ひとつは物事をロジカルに考えるのが好きなこと。もうひとつは、投資金額が一番少なかったこと。

 

「在庫もいらないし、自宅の一室とパソコン1台で始められる。固定費の負担も軽い。これならどこの国でもできるかな。シンプルな理由です」

 

 

■「選択と集中」の先にあったもの

 

とはいえ、世界的な企業の看板が外れた彼に恐怖はなかったのだろうか。

 

「そりゃあ、恐怖だらけですよ。一番変わったのは給料日。今までは楽しみな日でしたが、これが恐怖の日に変わる(苦笑)。自分はともかく、社員がいれば当然彼らには支払わなければならない。商売だって100%うまくいく保証は全くないですしね」

 

起業当初は、「日本企業進出サポートから、人事労務を含めて雑務にマーケティング、何でもやった」。土台づくりに時間がかかったこともあり、2度ほど資金が底をついたこともある。

 

そんな立花のターニングポイントとなったのは、2007年。自社がコンサルティングする分野を人事労務に絞り込む決心をする。

 

「差別化をはかるうえで、コンサルの仕事のなかで一番の生ものは人。だから人事労務かなと。財務はお金のことだから生きてるわけではありませんし、税務関係の法律は決まってるからどこの会社にいっても同じ。だけど、人事労務は人間だから、国が変われば国民性も変わるもの。労働法も変わります。企業によっても従業員の質は全然違う。となると、ひとつひとつの企業にあわせたやり方をしていかなければならない。一番みなさんが苦労されてるとことだから」

 

そこに特化することが、生き残る道だと思った。

 

「デパートと靴屋とはよく言うけど、大手弁護士事務所、大手コンサルの彼らが100の仕事できるとしたら、うちのような零細企業は一つの仕事しかできません。けれどそのたった一つが彼らより優れていればいいんです。デパートでは買えないオーダーメイドの履き心地のいい靴をつくれれば、オンリーワンになれる」

 

ロイター退職時に続いて再び退路を断った立花は、数年にわたって寝る時間も惜しんで勉強を続け、いまでは中国のクライアントの連結決算の合計が30兆円規模にまでなった。本来競合ともいうべき、他のコンサルティング会社からも依頼が来ることもある。

 

そんな彼に「環境や時代を超えて生きるために必要なことは何か」を聞いた。

 

「自分の信念と原理原則を持つこと。哲学というと非常に堅苦しくとらえられ、現代社会では軽視されがちですが、ぶれない軸を持つこと。迎合しないこと。そして商売をするなら、原理原則を曲げないこと。僕は大学を出てからずっと貫いてきました。ときには人間関係を壊してしまうこともありましたが、それでもやっぱりこれは一番大切だと思います。」

 


 座右の銘は、「No Pain, No gain.」。リスクを取らずして成功はあり得ないと語る立花は、今日もマレーシアと世界を駆けめぐる(了)

 

 

※  今回の記事は、時代や環境を超えて生きるための音声マガジン『コスモポリタン』の内容から一部を抜粋してお届けしました。同マガジン本編では、

◆  ムスリム市場の可能性

◆  マレーシアで生きるために知っておくべきこと

◆  話題の「マレーシアマイセカンドホーム(MM2H)ビザ」

 

などについても立花さんにお話をうかがいました。

インタビューはこちらから

 

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早川洋平

プロインタビュアー
早川洋平

新聞記者を経てプロインタビュアーに。2008年、インターネットラジオ番組「キクマガ」をスタート。よしもとばなな、加藤登紀子、茂木健一郎、高城剛ら150人以上のゲストが出演、年間200万ダウンロード超の番組となった。
近年は、ユニクロやネスカフェなどグローバルブランドのCM等にもインタビュアーとして携わる。13年からは「世界を生きる人」に現地インタビューする月刊オーディオマガジン『コスモポリタン』を創刊。世界各国での取材活動に精を出している。

代表をつとめるキクタス株式会社では、企業・機関・個人のメディアを創出するプロデューサーとしても活動。中核となるポッドキャスト配信サービスは、公共機関、教育機関、企業、マスコミ、作家などに広く活用されている。

キクタスから配信されるインターネット番組のダウンロードは毎月約200万回超。全世界での累計視聴回数は7,000万回を超えている。「横浜美術館『ラジオ美術館』」「鳥越俊太郎のニュースの職人チャンネル」「伊藤忠商事『THE 商社マン』」などプロデュース多数。
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