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ベトナム・ハノイ工場立ち上げ奮闘記〜契約から本格稼働まで〜 第3回

ベトナム工場進出に際する正しいコンサルタントの選び方

元某自動車パーツメーカー ベトナム法人副社長 石井希典

 


前回、お話したとおり、工場稼働を5月にするためには、11月からカウントしても建設期間は、半年しかない。


【12月に訪問した際の工場建設予定地。まだ何も始まっていない。】



土地取得が完了したことで、業者側の建設準備も急ピッチで進む。11月段階ではラフだった建設費見積もりは、社長が正式に建設を依頼したことで、12月になると、さらに正確さをましてきていた。また、建設にあたって役所への申請は、建設会社で全責任をもって、行うとのことだった。


【起工式の様子】



ただ、12月17日の週に打ち合わせをした際、建設開始の遅れから、工場の最終引き渡しは、5月末になるとのことだった。工場棟を先行して建設を進め、4月の中旬目標で工場棟を完了させ、そののちに事務棟の建設をするというスケジュールを組んだとのことだった。従って、5月からのテスト稼働は可能とのことだったが、大きな懸念は、本来工場操業のためには、消防等役所の審査が必要で、それらは工場完成(引き渡し)後におこなわれるのが通常だ。テスト稼働のためには、かなりイレギュラーな手筈を踏む必要がありそうで、大丈夫なのか?という点を確認したところ、そのあたりはぬかりなくやるので、信頼してほしいとのことだった。

通常のプロセスだと、まず建設許可の申請を、消防等の役所に行い、その申請許可がおりてから、工場建設開始。建設終了後、工場の引き渡しを受けてから、役所の立ち入り検査があり、認可がおりてから、生産に入れる。もっとも、この段取りを順番にやっていては、ほぼ間に合わないだろうと、変な意味で確信していた。

12月の段階では、パイル打ちがはじまった段階で、起工式が1月中旬、棟上げが3月と、十分にタイトなスケジュール。イレギュラーな作業はやむを得ない。ちなみに、パイルは26m打つとのこと。工業団地から一歩でると、周辺は田んぼというか湿地帯だった。


【2013年1月14日 パイル打ちが終了した段階】



もう一つ気になったのは、建設費用見積もりにVAT(付加価値税10%)がついていること。土地費用の支払いもVAT付きで日本より支払済とのことだった。建設とは、直接関係ないが、なぜVATがついているのか? なぜならば、今回、C社の企業ライセンスはEPE(輸出加工企業(Export Processing Enterprisesの略)*注1)で取得できていると、社長や自分をこの企業に紹介したコンサルタント(S氏)から聞いていたからだ。


注1)輸出加工企業(Export Processing Enterprises:EPE)

詳細かつ正確な情報は、専門誌をみていただければと思うが、EPEとして企業ライセンスを受けると、その企業の敷地は、いわば保税状況となり、輸出入関税やVATが、免除になる制度。たとえば、日本で材料を購入して、ベトナムに輸入する場合、日越両サイドで非課税になる。また、原理原則(※1)として、ベトナム国内で購入した物品やサービスも、EPE企業敷地内の使用目的(※2)であれば、すべて VATがかからない。

(※1)工場で使う電気製品を、当初、ハノイ市内の量販店に行って購入したのだが、彼らの領収書にはVATがついており、交渉したものの、VATなしには、してもらえなかった。彼らの処理(輸出処理)が面倒なので、拒否されるケースもある。EPEの一長一短については、別の機会に記せればと思う。

(※2)物流費用の例で言うと港での輸入処理は非課税、港から工場までの陸送費用はVATがかかり、工場内での積み下ろし費用は非課税。会社として工場敷地外に社宅を借りた場合は、VATがかかる。電話代金は、VATがかかる(国際電話は非課税だったが、結局区別がつかず、両方課税になってしまった。)



もともとC社は、ローカル企業への販売を目的としておらず、取引先は同じEPE企業として登録されているベトナム内法人 または海外への輸出であることから、EPEとしての企業登録は当然だろうと理解していた。

ところが、前述のとおり、土地の取得代金も工場の建設費用の見積もりもVATがついている。土地に関しては、企業ライセンスの取得前に支払う必要のあるスケジュールだったらしいので、ひとまず支払って還付金申請かとも思ったが、建設費用に関しては、どうにも納得できない。

銀行口座を開設に行った際、銀行サイドに企業ライセンスを提示し内容の確認を依頼、更に、ベトナムで前述S氏より紹介をうけていた別のコンサルタントMY(ミー)氏(後述)にも、確認を依頼した。彼らからのコメントは、要約すると以下のとおりだった。

C社の企業ライセンスは

1、   ローカルの一人有限会社(ベトナム人が会社をベトナムでおこしたのと全く同じ)

2、   精密部品メーカーであるにも関わらず、一切の優遇税制の申請をしていない

というもので、要はEPEではなかった。唖然とした。


コンサルタント会社の変更をせざるを得なかった


自分をベトナムに誘ったコンサルタントの前述S氏に、その旨を言うと絶句。彼もEPEだと思っていた。彼のベトナム側のパートナーのT氏にコンタクトしたところ、彼女は、EPEでないことを知っていた。そして、この申請を担当したのは自分ではないと責任転嫁。CEOのメッセージとは思えない。実際に対応したというスタッフをダナン(DaNang:ベトナム中部の都市)から呼び出し、問い詰めたところ、EPEの申請ができなかったと認めた。C社ベトナム法人として、契約をしなかった。EPEでない事が明確になってから1か月後、2013年の1月末のことだ。


【2013年1月末の状態】



問題のあるベトナムコンサルティング会社のケース


第一回目に触れたが、ベトナムの法的に有効な文章はすべてベトナム語である。よって、ベトナム語の内容を完全に理解するためには、社内にスペシャリストがいない限り、他社スペシャリストに頼むのが必須だろうと思う。T氏は、11月に出会った時から、いろいろ確認のメールをいれても返事が遅く、また、聞かない限り、一切何も言ってこない。当然ながら、次をどうすべきであるというような提言は一切なかった。そして、今回のEPEの件である。

「こちらが聞かないと何も教えてくれない、当方は、何もわかっていなかったのに」という不満は、時折、日本企業ベトナム法人経営者からも聞いた。各種事情があり、必ずしも適切でないコンサルティング会社と業務契約を結ばざるを得ないケースは、ベトナムでも多いようだ。

情報を開示しないコンサルティング会社とは、先方にどんな事情があるにせよ、業務契約を締結してはいけない。どこの国でももちろんそうだが、ベトナムでも改めて再認識した。


【2013年2月4日急ピッチで工事が進む】

コンサルティング会社との連携のポイント


気を付けなければいけない事は、ベトナムにおいて、各種役所への申請等のルールは広義に規定されていることが多い。よって、解釈によってYESともNOとも取れるという部分があり、さまざまな思惑の入りこむ温床となっている。同じ役所でも対応した人によって、解釈のわかれるケースすら普通にある。この感覚がわからないまま、他国と同じスタンスで活動しようとすると、スタックしてしまうケースがある。又、コンプライアンスという言葉の意味を知らない、または理解のレベルが違うベトナム人が依然として多いという問題もある。これが、対ベトナム投資を難しくしている一つの部分といってよいかと思う。

企業活動を始めるにあたって、コンサルティング会社に期待する大きなポイントの一つは、解釈の違いと言う曖昧な部分が、こちらにとってうまく行くように交渉をし、そして次回から、彼らなしに我々が対応できるよう、順次指導していってもらうこと。特に、設立当初は、これをお願いできるかが最重要だと思う。

そのためには、その地域における経験と、適切なベトナム内での人間関係がコンサルティング会社に求められる。


新しいコンサルティング会社との契約


正式契約は、3月からになるが、1月早々には、自分が相談させてもらっていたベトナム人MY(ミー)氏は、まさにそのような人だった。

ミー氏 および彼の経営するミタコ社(MITACO COPPORATION)は、外に向かってのプロモーションをしていないため、あまり知られていない。今回、本人の了解を得られたので、会社名ともども紹介させていただく。

新しい業務提携契約を締結する際、当方からお願いした内容は、EPEへのライセンス変更と、自分からの万相談を受けてほしいというものだった。

ベトナムには、多くの日本企業向けのコンサルティング会社があるし、その一覧表はJETRO等にゆけば、照会できる。自分もJETROからは、一覧表をもらい、コンタクトできる状況ではあったが、あえて、日本人のいない、そして、JETROのリストには掲載されていないミタコ社と契約した。

これは、彼が、政府関係等に強いパイプがあり、同業の企業のコンサルティングを含めての長年にわたっての経験があると聞いたことはもちろんだが、彼のメッセージ(もちろん彼は日本語が堪能)が、他の誰よりもわかりやすかったという事に、他ならない。もちろん、相性というものはあったかと思うが、帰国するまでの自分の活動は、彼の存在なくしては、ありえなかった。

11月に初めて訪越した最初の晩に、ミー氏の話はでており、その後、12月に正式に紹介を受けた。他国の経験でもそうだったのだが、新規参入の場合、そのような人を探すことから始めることが普通で、出会うのには、かなりの時間と手間を要するのだが、すぐに出会えたのは、本当に幸運だった。

【多くの作業員は住み込みで工事に従事する。その為に建てられたバラックの住居】


 

石井希典

元某自動車パーツメーカーベトナム法人副社長
石井希典

石井 希典 (いしい まれすけ)
1960年生まれ
1982年日本ビクター(株)に入社後、1990年、ソニー(株)へ転職、20年間在籍したのち、(株)メルコホールディングスに3年ほど在籍。
常に、新規事業を創出するための事業開発、事業企画および、事業運営に携わる。
2013年1月より、とある自動車部品メーカーに入社。現地代表として、単身ベトナムに渡り、工場建設から陣頭指揮し、11月に本格稼働をさせた。一定の成果をあげたことと、家庭の事情により、職を辞し、次なるチャレンジに参画すべく、充電中。