税務調査で担当官はここを見る!~国際税務編~ 第8回 使用料と人的役務提供

片瀬 陽平
 
 さて、「税務調査で担当官はここを見る!~国際税務編~」第8回目の今回は「出向者が提供する法人の無形資産」についてお話ししようと思います。無形資産は字のごとく、形の無い資産でありますが、形が無いために国外関連者間の取引において無形資産の移転があったか否かが不明確であり、税務調査においてもしっかりと確認される項目となります。

<概要>※移転価格の適用に当たっての参考事例集より
1.日本法人P社は、製品Aの製造販売会社であり、10年前に製品Aの製造販売子会社であるX
国法人S社を設立した。
2.製品Aは、P社の研究開発活動の成果である独自技術が用いられて製造された製品である。
3.P社は、過去にS社に製品A用の部品を販売していたが、現在は、S社が原材料等を全てX国内で現地調達して製品Aの製造を行い、X国の小売店約200社に対して製品Aを販売している。※ただし、日本国内向の製品AについてはP社が自ら製造販売している。
4.P社はS社に対して、製造技術担当として5名、営業企画担当として5名のP社社員を出向させている。
5.製造技術担当の出向者はいずれもP社の技術開発部門において新たな製造技術の開発等の業務に従事し、高度な技術開発知識や経験を有しており、この出向はP社が有する製造ノウハウをS社に提供するために行われている。
6.S社は、P社からの出向者の指導の下、P社が有する製造ノウハウを用いて製造技術部門の製造ラインの改善等を行った結果、効率的製造により、低い製造原価が実現されている。
7.営業企画担当者の5名は、高度なマーケティング知識や営業知識を有しておらず、S社の営業企画部門の現地社員の指示の下、定型業務を行っている。

 <解説>
 まず、出向者が法人Sに対してノウハウ等の供与があったか否かの判断をしなければなりません。今回の事例において、「S社は、P社からの出向者の指導の下、P社が有する製造ノウハウを用いて製造技術部門の製造ラインの改善等を行った結果、効率的製造により、低い製造原価が実現されている」や「製造技術担当の出向者はいずれもP社の技術開発部門において新たな製造技術の開発等の業務に従事し、高度な技術開発知識や経験を有しており、この出向はP社が有する製造ノウハウをS社に提供するために行われている」とあるために、S社において当該ノウハウが移転した事実は確かに認められます。

 一方、営業企画担当の出向者は、営業やマーケティングに関する高度な能力などを身に着けておらずに、ノウハウ等の無形資産の移転があったとは到底認められません。

 ノウハウ等の無形資産の移転があった場合には、基本的に「使用料」と定義され、ノウハウ等の無形資産の移転がなかった場合には、「人的役務提供」と定義されることとなります。OECDモデルの租税条約を確認してもこの2つ(使用料と人的役務提供)は大きく別なものとして定義されており、使用料に関しては源泉税の対象となることとなります。

 また、これらに関連して度々論点として上がる項目にPE認定課税というものがあります。PE(Permanent Establishment)とは、恒久的施設を指し、租税条約において「PEなければ課税なし」という大原則があります。

 ただし、各国の租税条約を見てみると第5条のPEの規定に「長期コンサルティング業務」というものがある国があり、これがまた判断を迷わす曲者となります。具体的にはコンサルティング役務について6月を超えて行う場合には、PEがあると見なされるという規定となります。

 上記の人的役務提供に関して、この「人的役務提供」について6月を超えて行う場合にはどのような取扱いになるかというと、基本的な考え方では、使用人やその他の職員を通じてコンサルティング役務を提供する場合にはPEに該当しませんが、プロジェクトの指揮権を有する場合や技術的な責任を負う行動とみなされる場合にはPEに該当するという何とも曖昧なジャッジとなっています。

 つまり、独立企業間価格が正しいか否かを判断する前に、まず取引の性格をしっかりと把握しなければなりません。取引を明確にすることによって理論的な判断が可能になります。
 
 

片瀬 陽平

株式会社マイツシニアコンサルタント
片瀬 陽平

税理士業界が縮小の一途をたどる中、国際ビジネスのみが税理士業界
に残された最後の領域であると考え、2013年3月にメキシコに渡る。
渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポートを主に行っていた。
2015年1月に株式会社マイツに入社し、現在東京オフィスにて活動している。
専門は国際税務分野であり、特に中堅中小企業の海外進出サポートを中心に行っている。

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