バラガンだらけなイスラエル 第2回 アップルがイスラエルのハイテク企業を買収する理由

水谷徹哉
 


昨年11月下旬のある日、当地経済紙に興味深いニュースが紹介されていました。

 

「AppleがイスラエルのハイテクスタートアップPrimeSenseを買収」。

 

買収額は約3億5千ドル。この額の規模はさて置き、PrimeSenseというこの会社、3D感知技術を主体とする先端テクノロジーを有し、本部及びR&D拠点を当地テル・アビブに置きつつ、アメリカ、日本、韓国、台湾等にも拠点を持つ、ハイテク分野では有数として知られるイスラエル企業です。

 

イスラエルのハイテク企業が世界の大手に買収されるのは何も同社に始まった話では決してないのですが、本記事の話題性は主に下記2点に集約されるかと思います。

 

1つは「Appleが3D感知技術に積極関与を示した」ということ。つまり、今回の買収が、iPhone等を含むApple製品の今後の方向性を示すものとの憶測が、業界関係者間(これは当地のみならず世界的なレベルですが)で話題となったのです。

 

マイクロソフトの「Xbox」に採用されていたPrimseSenseの技術

 

そもそも、PrimseSenseの有する先端技術に目をつけたのは、Appleが最初ではありませんでした。この企業が持つ技術で最も知られたものとしては、マイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox」付属の「キネクト」(正式名称はKinect for Xbox 360)が採用する、プレイヤーの位置や動き、顔、音声等を感知する技術があります。


 


 

Xboxそのものは日本ではあまり大衆受けしなかったゲーム機なので、「キネクト」をご存知の方は日本にはあまり多くないかもしれません。コントローラーを用いず、動作や音声のみの直感的なプレイができる斬新なゲームシステムとして2010年に登場した体感型ゲーム機ですが、ここで応用された同社の3D感知システムは、トム・クルーズ主演のハリウッド映画「マイノリティ・リポート」(2002年)の近未来的テクノロジーを具現化するものとして、当時世界的に話題になった技術でもあります。


 


結果として、Microsoftは次世代機器(Xbox One)においてはPrimeSenseとはライバル関係にある会社を買収し、インハウスでの類似技術の開発を実施する方針をとったため、同社とMicrosoftとの蜜月状態は2012年にて終焉することになります。

今回のAppleの買収劇はPrimeSenseにとっては「捨てる神あれば拾う神あり」といったところでしょうが、Microsoftが捨てた技術をまさにAppleが獲得したという点に、Apple製品の今後の動向を注視する関係者の注目が集まった訳です。

 

アップルが買収したイスラエルの会社は2社存在する


もう一点の話題性としては、これは主に海外メディアというよりは当地メディアによる報道ですが、「今回の買収はAppleが買収するイスラエルの会社としては2社目である」ということです。

 

Appleは今回のPrimeSense以前にも、2012年に半導体製作のAnobit Technologiesというイスラエルのスタートアップ会社を買収した経緯がありました。Appleは当時、全ての製品において電力消費の甚だしいハードディスクへの依存度を極力ゼロにすべく努力しており、Anobitの有するフラッシュメモリにおける最先端技術は、まさにAppleインハウスの技術システムには欠かせない要素であったという背景がありました。


「イスラエル=ハイテク国家」というイメージは欧米企業には定着している

 

これらのニュースは、イスラエルの技術が世界の注目を集めた最近の数例に過ぎませんが、世界に流布する先端技術の中には案外イスラエル発のものが少なくないのです。

 

例えばIntelなどは1974年からいち早くR&D拠点をイスラエルに設置しており、同社がこれまでこの世に送り出してきた最先端技術の数々には、イスラエル人科学者及びエンジニアの存在が不可欠であったと言われています。Microsoftも同様にR&Dセンターを設置しますが、これは2006年になってからのことでした。

Appleも2013年の最初にR&D拠点をイスラエルに設置しており、ここで活躍することになる約150名の従業員の大半は、数週間以前にレイオフされたTexas Instrument社(米国大手の半導体開発・製作企業)イスラエル支部の元技術者達であったと言われています。これらのことからも世界中の大企業がイスラエルの頭脳を求め、当地に進出しているという現状がお分かりになるかと思います。

これら世界の大手企業が何故イスラエルの頭脳を求めるのか?このテーマに特化した最近の本に、「アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜイスラエル企業をほしがるのか?」(2012年・ダイヤモンド社)という著書がありますので、ご関心のある方は右を読まれることをお勧め致します。

 

 

日本ではイスラエルに対するこのような印象は定着していないものと思われますが、当地に暮らす者の実感として、「イスラエル=ハイテク国家」という印象は市民レベルにおいては自国に対する自負という側面のみならず、実生活面への恩恵という形でも非常に分かり易い形で定着しているように思われます。

 

つながるイスラエル、つながらない日本


例えば、筆者はつい最近たまたま日本に帰国する機会があったのですが、日本と比べてもイスラエルでのスマートフォンの普及率はより幅広い年代層で高いように思われますし、ネット環境に関しても(そのスピードは日本の足元にも及ばないまでも)、例えば無料の公共無線Lanのアベイラビィリティは、基本的にはカフェのある街角ならどこでも、また公共交通機関においても電車の車内も含め、ネットへのアクセスが容易な状況となっています。

 

正直のところ、日本滞在中の移動先ではイスラエルから持参したiPhoneが全くネットに繋がらず、これにはかなり閉口した次第です。様々なサービスが緻密且つ高度に発達した日本において、イスラエルのような国からやって来た者が(!)、しかもインターネット環境において(!!)不便を感じることになろうとは予想だにできない状況と言えましょう。2020年の東京オリンピック開催が決まったということもあり、日本国外から来訪される人たちが一律且つ容易に利用できる公共無線Lanサービスの拡充を、個人的にも強く望みたいところです。

さて、上記筆者の個人的な愚痴はさて置き(笑)、世界に注目されるイスラエルのハイテク産業。収益の8割は海外輸出からくるという非常に元気の良い輸出産業ですが、日本産業との関わりはどうなっているのでしょうか?これについてはまた次回以降の稿で紹介できればと思います。

 

 

 
 

水谷徹哉

イスラエル在住
水谷徹哉

名古屋大学卒業(修士)。在イスラエル大使館専門調査員(05’)、JICAパレスチナ事務所企画調査員(12’)。計10年間日本国政府ODAによる対パレスチナ支援に従事する。主にガバナンス分野における国際機関経由、またJICA技術協力案件の実施管理を担う。2013年よりイスラエル国Galilee International Management Instituteに勤務。主に日本向けのコンテンツの開発等を担当。

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