2014年12月12日
前回のコラムテーマは、【プロミネンス、卓立法】でした。
スピーチ、トークに長ける喋り手は何かしらの【プロミネンス】を駆使して魅力的で相手の心に伝わる工夫をしているはずです。「なんとなく喋って、なんとなく営業して年商1億」だなんてあり得ません。自然にスピーチしているようであっても緻密に計算された「ナチュラルな印象を与えるトークに演出している」場合がほとんどでしょう。
さて、本コラム最終回の第10回はプロミネンスと同じく大切な「パブリックスピーチにおける表情」についてお伝えしましょう。
重要なのは「感情=表情」です。
まずは、基本的なスピーチ時における表情の見え方について記述しますと、感情と表情がリンクして「いない」人の存在を、私がスピーチ講師として企業研修やスピーチセミナーを開催した際に知りました。
皆さんの周りにもいませんか?
楽しい、明るい、面白いといったプラスの感情が働く話題を口にする時にも、無表情な人が。「わー美味しいー」と言葉を発していても、笑顔が伝わらない人が。
理由は2パターンあります。
1、本当は美味しいと思っているのに、その感情が表れない人。
2、美味しいと言ったのは社交辞令であり、本心では不味いと思っている人。
2の理由でしたら仕方ありません。心にもない事を口にしてしまったので、つい表情は本心が表れてしまったのだな、と聴き手は捉えるだけです。
もったいないのは、1の理由の場合です。
感情と表情がイコールではないことにより、聴き手に誤解を与えかねないからです。
以前、スピーチ講座終了後、講師である私に駆け寄って「とても楽しく、勉強になりました」と感想を言ってくださる方がいました。ただ感想を伝える際、ほとんど表情変えず口角も目尻もピクリとも動かない女性参加者でした。心からの受講感想なのか社交辞令で私に言った感想なのか、わかりません。
その後スピーチ講座から懇親会に移動し、飲食を共にする状況を共にしました。意地の悪い行為ですが職業柄、私は受講生の会話を耳にしながらその内容、身振り手振り、表情なども観察します。
先ほどの女性参加者は、懇親会でも無表情のまま。周囲の受講生はお酒も入り声を荒げたり、ずっと笑いが絶えず喋り続けたりする人がいましたが女性は周りが笑っていても笑顔は見せません。良くとらえれば常に冷静沈着、クールで聡明な方だなという印象です。悪くとらえるのなら、お酒の場が好きではないのか、今置かれている状況から脱したい(早く帰りたい)のか、いわゆる「のりの悪い人」という印象ともいえます。
そこで直接尋ねることにしました。
「お酒が入る飲み会などは苦手ですか?」
「いえ、わりと好きな方です」
「今、楽しんでいらっしゃいますか?」
「はい」
「それは心からの感想ですか?」とストレートに聞くと
「あ、もちろんです。・・・もしかして伝わらないですか?」
とようやく柔らかい笑顔を見せる女性。
その後、スピーチ講座の後の感想を教えてくださった際の表情について私なりの感想を伝えると、このような返答が返ってきました。
「えぇ!私、笑っているつもりなのですが・・・」
どんなに自分はスピーチが上手いと自信を持っていても、表情豊かだと自負していても、スピーチの上手い下手を決めるのも、立ち居振る舞いや表情から受ける印象も決めるのは「相手」なのです。
自分は「笑っているつもり」
自分は「真摯にスピーチしているつもり」
であっても、相手がそのように捉えなければ「伝わっていない」ということです。
先の女性は、理解してくださりました。自分は「笑っているつもり」であっても他人から見ると体面上には笑顔に成り切れていなかったこと。自分の表情筋はもっと可動域が広がること。彼女には自分が喋る様子を動画で撮影して、スピーチ練習をすると共に表情をしっかりと伝わるまで体現していくようにすることと、その練習動画を他人にチェックし印象を聞く作業をすることをアドバイスしました。
このような「感情と表情がリンクしない(できない)人」は、彼女だけでなく3年間スピーチ講座を開講し、かなりの頻度で出会いました。このコラムを読んでいる皆さんも、スピーチする際に感情=表情となっているか、確認しながらトーク練習をしましょう。「そんな基本的な事、当たり前なのでは?」と思われる方。是非自分のスピーチ動画を撮影して第三者に確認してもらって下さい。
アナウンサーは常に自分がカメラの前で喋るオンエア上の様子を録画し、表情も含めて放送に適したトークと表情だったかを確認し反省する、という作業を繰り返しています。
表情が豊かな喋り手を良いお手本とするのもよいでしょう。「欧米」とひとくちにいっても幅広く、文化風習や職業、社会的地位によって異なると思いますが、感情を表に出す外国の方のスピーチ・トークも参考になると思います。彼らは時にオーバーなほど、表情を変化させますが話す話題に対しての共感力が強いとも言えます。
そして、さらにステップアップさせたい方は、感情がどうであれ「スピーチ内容やその場に適した表情づくりをする」。つまりは聴き手、聴衆にどう見られたいのか?どう見せたいのか?を考えて選択し、表現するということです。この点を工夫してスピーチ練習に臨んでみてください。
このコラムの第2回「トークが上達するための3ステップ」でもお伝えしましたように、スピーチの上手い下手は「才能」だけでは決まりません。ノウハウを学び受け入れて練習を重ねること、自分の課題や欠点を意識しながら改善の努力をし続けること、公の前で喋る経験を重ね増やしていくこと。まるでスポーツを極めるかのようなアドバイスですが、スピーチを上達させるうえで魔法の杖は存在しません。
「努力は必ず実る」とは単純に言い切れませんが、もし貴方がスピーチ・トークの向上を目指すのならば日々練習する事を意識しましょう。世に存在するスピーチ、トークの達人や成功者と言われる人は練習・準備を怠らず努力する事を止めません。どんなにネット環境が進んでも「人と人が対面する事」の重要性を知っているからです。
さあ今から、練習を始めましょう。貴方はどんなスピーカーになりたいですか?
スピーチ・ジャパンフリーアナウンサー
早坂まき子
フリーアナウンサー、スピーチ講師。2002年ミス清泉女子大学グランプリ。
元フジテレビ系列仙台放送アナウンサー。在局時は、スポーツ担当として東北楽天ゴールデンイーグルスを2005年の初年度から取材。『スーパーニュース』スポーツコーナーから、情報番組の食事リポート、イベント司会まで幅広いジャンルをこなす。
2011年の東日本大震災で震災報道も経験。
J:COM「週刊ボランティア情報・みんなのチカラ」(2011年8月~翌年3月まで放送)にて、ケーブルテレビアワード2012年審査員特別賞受賞。
現在、スピーチ講師として、企業研修や結婚相談所でのコミュニケーションセミナー、トーク時における立ち居振る舞いセミナーを実施。
清泉女子大学、非常勤講師。
株式会社スピーチジャパン所属 http://bizsp.net/
無料動画セミナー公開中 http://bizsp.net/freeseminar/