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世界は身近にあるもんだ ~国歌研究家 日本で海外の魅力を探す~ 第5回

「ニッチを強みに変える」世界で唯一のカナダワイン専門店 ”ヘブンリー バインズ”  前篇 ~知られざるカナダワインの魅力を知る~

国歌研究家 国歌の輪プロジェクト代表 浅見良太

 

世界で唯一のカナダワイン専門店

「カナダワインってご存知ですか?」

とあるイベントで知り合ったワイン通の紳士の一言。

ヨーロッパ諸国はもちろん、チリや南アフリカなどは馴染みがあるが”カナダ”でワインが作られているというのは初めて聞いた。
しかもその紳士曰く美味しいらしい。
という事で訪れたのは世界で唯一のカナダワイン専門店”ヘブンリー バインズ”。

恵比寿駅 恵比寿ガーデンプレイス入口から徒歩2分の所にある。



初めての人には少しわかりにくいかも・・・そんな隠れ家的な雰囲気もいい


赤い看板が目印

奥にのびる店内には時期にもよるが常時用意している200種類のカナダワインが並ぶ。ボトルにホコリか被ることなく手入れが行き届いていて清潔感がある。

「こんにちは、ようこそ」

爽やかな笑顔と流ちょうな日本語で出迎えてくれたのは
ヘブンリーバインズ株式会社の代表取締役ジェイミー パクイン氏。

言葉を選びながらゆっくりとした語り口でとても話しやすい。


カナダワインが並ぶ棚を眺めるジェイミー氏

ジェイミー氏は大学の研究生としてカナダから来日。

社会学の研究生としてセクシャリティや都市計画などを専門としていた。

―ワインは研究と関係なかったんですか?―

それが関係ないんですよ。ワインは好きで飲んでいたんですけどね。
ハマったきっかけは友達が持ってきたスペインワインなんです。
なぜこんな味がするのだろうというのが気になっちゃったんですよね。


ワインについて親切丁寧に詳しく教えてくれます

―研究者の血が騒いだんですね―

そうですね。毎日ワインについて考えるようになっちゃって。
その延長で、祖国のカナダでも美味しいワインが作られていることを知ったんです。

―カナダワインって普通のお店で見ませんけど珍しいですよね―

そうですね。世界的に見てもカナダワインを扱っているのはロンドン、香港、台湾、ニューヨークくらいで、買えない国がほとんどなんです。

これだけカナダワインが並んでいるのはカナダでもないですよ。実はカナダでも州をまたいで販売することがあまりないので隣の州のワインを知らない人も多いんです。

なので一番カナダ人が来て驚きますね(笑)。うちは州とか関係ないですから。
海外からも買いに来る人もいますよ。

知られざるカナダワインの魅力って?

カナダでワインが作られていることに驚いた筆者。
ジェイミー氏にカナダワインの魅力を聞いた。

―まずカナダワインってどんな味なんですか?―

うーん、難しい質問ですね。
どこのワインもそうなんですが、ブドウの育った環境や品種、醸造の方法、年代など様々な要因によってワインの味は変わるんです。
なので「カナダワインは総じてこういう味だ!」というのは難しいですね・・・
でもよく言われるのは
綺麗な酸味とミネラル感、そしてコクがある。味わいのクリーンさが特徴でしょうか。

―クリーンさ?―

雑味のないきれいな果実味と、爽やかな酸味が感じられるのが大きな特徴ですね。これらによってカナダのワインは「クリーンな印象」と表現されることが多いです。
クリーンさを特に感じさせるのが酸味でしょうか。
酸味があることですっきりした味わいになり、口の中をサッパリさせ料理の味を引き立ててくれます。酸味はワインの味わいの中でも重要な要素なんですよ。
例えば甘味だけだと口の中が疲れますよね。食べ物と合わせるとケンカしちゃいます。
酸があると口がさっぱりして料理に合わせやすいんです。

そうですね・・・
唐揚げにレモンかけると食べやすくなりませんか?もちろんかけなくても美味しいけど、レモンをかけると唐揚げの油っこさが抑えられてさっぱりするから次も食べられちゃう。
ワインの酸味も、合わせる料理によって似たような相乗効果をもたらすんです。酸味がないワインは、だらけた印象の味わいになってしまいます。

また、酸味は長期熟成にも不可欠なもので、上質なワインにとって酸味はとても重要な要素なんですよ。酸が足りないから補酸するワイナリーがあるほどなんですが、カナダのワインは、補酸しなくても自然にきれいな酸が現れるのが強みの一つなんです。

―その味が出せるのはなぜなんでしょうか?―

それはですね・・・

カナダワインが美味しいワケ①【気候】

カナダのワイン産地は、ブドウの栽培に適している「ワインベルト」と言われる地帯の、北限ギリギリの緯度なんですね。
ギリギリの場所というのは、決してブドウにとっては簡単に生育できる場所ではない。
でもそれがいいんですね。むしろブドウが簡単に生育できるような温暖な場所だと、ブドウがすぐに熟して糖度が上がりすぎてしまい、酸味が感じられないジャムの様な印象のワインになる傾向にあります。酸味が無くなって甘みが前面に出るとブドウジュースみたいですね。ブドウジュースは食事に合いにくいですよね?酸味があるからこそ、ワインの味が引き締まるんですよ。

一方カナダは日中は暖かく夜しっかり冷えるので、木が時間をかけてじっくりと熟していくんです。これが爽やかな酸味と複雑な味を生み出している秘密なんですね。
しかもギリギリの場所でブドウが苦労して成長することもいい味が出るポイントで、温室育ちよりも苦労して頑張っている方が良い味を出すんですよ。
例えば、当店のベストセラーワイン”ノヴァ セブン2013”。暖かい地方のワイナリーであれば夏にブドウを収穫するところもありますが、このワインが造られる地方は冷涼で穏やかな気候なので、ブドウが熟しすぎることなく11月まで待って収穫できるんです。木が時間をかけてゆっくり成熟するので味の複雑さが増すんですね。
しかもアルコール度数が7%しかないんです。ワインで7%は珍しいんですけど、これはほのかな甘みを残すために、発酵を途中で止めているからなんです。
きれいな酸味とほのかな甘みのバランスが絶妙で、また微発泡しているのでとても爽やかです。非常に薫り高いワインで、「このワインのルームフレグランスが欲しい」とおっしゃるお客様がいるくらいいい香りなんですよ。様々な料理との相性もよく、アルコール度数が低いので、使い勝手がいいんです。あまり強いお酒が飲めないという人にもお勧めです。

3-2ノヴァ セブン2013(税込3240円)

カナダワインが美味しいワケ②【土壌】

土壌に石灰岩が多く含まれていることはワインにとって重要なんですが、カナダは世界的に見て特に恵まれています。
フォーシーズンズホテルのソムリエを務めていた人物が自分でワインを作るために世界中のワイン産地で修業したり周ったりして勉強したんですね。
長い年月をかけて世界中を見て回った結果、彼はブルゴーニュのようなワインを作りたいと思ったんだそうです。そこで選んだ土地がカナダだったんですよ。上質なブルゴーニュのようなワインを造ることができる環境に恵まれたワイン産地は非常に少ない。カナダはまさに理想的な条件に恵まれているんです。
世界的に有名なワインメディアも、カナダのワイン生産地の一つプリンス・エドワード・カウンティを
「ブルゴーニュと生き別れの兄弟のようだ、世界にこんな所があるなんて」
と絶賛したほどです。

カナダワインが美味しいワケ③【小規模経営のワイナリー】

実はカナダワインは世界のワイン生産量の0.5%くらいしかありません。
生産量が少ないためにほとんど自国で消費しちゃうんですね。
なぜ少ないかというと
1つは先ほど言ったようにカナダが” ワインを生産できるギリギリの緯度”なので生産に適した土地が少ないこと。
2つ目は小規模で生産しているワイナリーが多いことです。家族経営の所が少なくありません。

具体的に言うと、カナダでは1つのワイナリーが年間5000ケースかそれ以下の生産量のところが多いです。大規模な所で30000ケースでしょうか。
でも世界の他のワイン産地では、年間1000万ケース以上も生産するような大規模生産者もあります。

―桁が違いますね―

そうなんです。
でも小規模だからこそ、ブドウの木1本1本に気を配れるんですよ。
ワイナリーによってはそれぞれの木にタグをつけて日照条件などの環境や生育状況を把握して、せん定方法などの管理をしているほどです。

―それは細かい・・・―

大規模ワイナリーだと機械で収穫しますがカナダでは手で摘み取ることが多いです。
そうすることで早い段階で状態の悪い実を取り除くことが出来ます。
商業として効率よく作るためにやっているというより良い物を作りたいという思いが強いんですね。


カナダワインの魅力を語るジェイミー氏

いかがでしたか?
カナダワインの魅力を感じていただけたでしょうか?

実力があるカナダのワインですが、日本ではフランス・イタリア・チリやスペインなどワインで有名な国が並ぶと存在が薄くなります。

そんな日本市場でどのように顧客をつかんでいるのでしょうか?

ニッチを強みに変える戦略がありました。

次回はその秘密に迫ります!

【ヘブンリーバインズ】

住所:〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南2-29-5 ブルーローズガーデン1F
営業時間:平日 午後3時~午後8時
土・日・祝 午後2時~午後8時
定休日:月曜日
TEL:03-5773-5033
HP:www.heavenlyvines.com 

 

浅見良太

国歌研究家国歌の輪プロジェクト代表
浅見良太

埼玉県出身。テレビ番組制作会社を経て現職。
大学2年の時、ヒッチハイクで埼玉~屋久島間を19台乗り継ぎ往復し、自分の知らない世界に触れ、様々な人に出会える旅の面白さを知る。
2007年、初めての海外旅行でインド・ネパールを1ヶ月周ったことをキッカケに就職するまでにバックパッカーで計30カ国を訪問。
旅中、出会った人に出身国の国歌を歌ってもらい、それをボイスレコーダーで録音する“国歌録音活動”を始め、数多くの国歌を収録。国歌の奥深さ、面白さにはまる。
2010年、名古屋の東海テレビプロダクションに入社。情報番組、バラエティ番組、スポーツ番組などでディレクターを務める。同社在社中も仕事の合間をぬって国歌録音、執筆活動を継続。

2015年に退社後、”国歌研究家”として「国歌を通じた国際交流」の普及を目的に、国歌に関する執筆活動や講演、イベント運営などを行っている。
同年4月、国歌を通じた国際交流の普及を目的とした団体「国歌の輪プロジェクト」を立ち上げ、代表を務める。