海外ビジネスに関連するコラム

世界は身近にあるもんだ ~国歌研究家 日本で海外の魅力を探す~ 第7回

”発酵”の新たな可能性を探る! 発酵未来研究所

国歌研究家 国歌の輪プロジェクト代表 浅見良太

 
新宿区の”しんじゅく多文化共生ブラザ”では、
隔月で国際交流活動をしている方々が集まっての連絡会があります。
そこで出会ったのが今回取材をした中田さん。
「発酵未来研究所の中田です!」
自己紹介のインパクトは参加団体でずば抜けています。

”発酵未来研究所”

国際交流活動をしている団体が集まる連絡会には不相応に聞こえる研究所名。
いったいどんな活動をしてるのか聞いてきました。

発酵食品は知れば知るほど面白い

取材をするため東京都中央区にある”発酵未来研究所”へ。
「こんにちは!」
と爽やかな笑顔で出迎えてくれたのは主席研究員の中田啓司さん。
この研究所を立ち上げた人物です。
研究所と聞いていたのでフラスコやビーカーがあるのかと思いきや、
入ってみると一般的な会社のオフィス。

資料を前に話をする中田氏

―まず、お聞きしたいのは”発酵未来研究所”では何をされているんですか?―
”発酵食”の魅力を追及し食の大切さを伝える活動をしています。
発酵は日本で独特の進化をしてきました。発酵を通じて日本を世界に発信できたらと思っています。

―世界を視野に入れられているという所で新宿区の連絡会に参加されていたんですね―
そうなんです。
研究所では日本に住む海外の方向けに、発酵食品を食べたり調理したりと発酵を体験してもらうイベントを行っていたりもしますので。

―活動の詳細は後ほどご紹介いただくとして、なぜ発酵に興味を?―
発酵の面白さに気づいちゃったんですね。
発酵食品ってとても古くから食べられているのはご存知ですか?
例えばワインやビール、チーズやパンなど5000年前から存在するんですが成り立ちが面白いんです。
例えばチーズ。
羊の胃袋にミルクを入れて持ち歩いていた時代、入れっぱなしのミルクが固まっちゃってもったいないから食べた・・・これがおいしい!となったのが始まりだと考えられています。
つまり”もったいない”が始まりなんですね。
発酵の始まりはこういったパターンが多いんです。

―それは知りませんでした。確かに面白いですね―
あと、食べられ続けている事にも興味が沸きました。
発酵食品は加工食品(人の手が加えられて作られた食品)ですが、これほど長く食べられている加工食品はありません。
食べられ続けているというのは何か理由があるんじゃないかと思いませんか?

―先ほど仰っていた”もったいない”が長く食べられている理由でしょうか?―
そうですね。
現代ほど食糧事情が良くない中で生きていくため、もったいないという考えから食べられてきたと言えます。
ただ、食べ続けられている理由は、他にもあると私たちは考えています。
それを解き明かそうというのが研究所の始まりなんですよ。
私は発酵食品を食べる事が出来た人種がより健康を勝ち取り、今の人類があるんじゃないかと考えています。
それは発酵食品が体に何らかの影響を与えているからという事です。
今では、美容やダイエット、免疫力アップにも効果があると言われています。

―発酵は様々な可能性を秘めているんですね―
生存競争を考えると様々な物を食べられる者が勝ち残り、広く分布していったと考えられます。
そう考えると人体に大きな影響を発酵食品は与えているという事になります。
発酵食品に適応できなかった者は淘汰されていった可能性もあるかもしれません。
実際、長寿と言われる国々には発酵食品が根付いている地域が多いんですよ。

発酵未来研究所の活動

―具体的にはどんな活動を?―
主に3つに分けられます。
【発酵・食に関する研究】
【研究をベースにした情報発信】
【未来へ繋がる食づくり】
です。

―最初の【発酵・食に関する研究】というのはどういった事をされているんですか?―
今、私たちは京都大学や東京工科大学など7つの大学や研究機関と共同研究をしています。
発酵食品は体に良いって聞きますよね?
でも、どうして体にいいのかはご存知ですか?
漠然と体に良い事は知っていても、なぜ良いのかはあまり知られていません。
「こういった成分が入っているから体に良い」と言われた方が実感が湧きませんか?
そこで、発酵をもっと分かりやすく説明できるようにするための研究を行っています。

―【研究をベースにした情報発信】は、先程のように研究の成果を紹介するという事ですか?―
そうです。発信方法としては2つの仕組みを考えています。
”商品”と”資格”です。
”商品”は分かりやすいですよね。
研究した成果を商品として販売しています。
例えば、私たちは新しい発酵のアプローチの1つとして味噌に注目しています。
そこで研究所が大学と共同研究し新たな味噌を開発しました。
非常に細かい粒子状になっている味噌で、舌触りがとても滑らかなんですね。
味は当然美味しいですよ。経験豊富なプロのシェフが認めるほどですから。
ただ、この商品は味だけではなくて、
”食べて綺麗になろう”というコンセプトで作られています。
普通の味噌は大豆と麹で作られます。
大体比率が1:0.5~1なんですけど、開発した味噌は麹の量が普通の約10倍なんです。
麹を多く含む味噌には、肌の潤いには欠かせないセラミドを体の内側から増やす効果がある事が分かっています。
レストランなどに卸しているのですが、味が良いとシェフからの評判も良いです。

―”資格”というのは?―
発酵食品の魅力をもっと知ってもらいたいという想いから
”発酵マエストロ”という資格を作りました。
東京農業大学などの教授に執筆してもらったテキストを使い、発酵の知識を深めてもらいます。

―発酵の知識ですか?―
最初にお話ししたチーズの成り立ちもそうですし、例えば・・・
世界でも稀有な発酵方法を日本が採用しているのは御存じですか?

―いや、初耳です―
並行複発酵と呼ばれる方法なんですが、
麹菌と酵母を使う発酵方法で2種類の菌を使う発酵方法は世界的に珍しいんです。
ワインは酵母菌、チーズは乳酸と普通は1つの菌で食品を作るんですね。
でも、味噌は違います。
味噌玉は大豆と麹を玉にして寝かせて作るんです。
その味噌玉作りでは麹菌や酵母の他に乳酸菌の活動を促します。わざと乳酸菌を生やしてpHを下げることで、余計な微生物が入らないようにして味噌を作るんです。

―それは明日にでも話のネタとして使いたいですね。発酵に興味を持ってきました―
単なる味噌作り体験でも発酵文化を伝えることが出来ます。
でもそれだけじゃなくて、こういった知識を得ることでより発酵、もっと言えば食に興味を持ってもらえたらなと思うんです。
また、発酵マエストロの資格を取るにあたって発酵だけでなく、体の仕組みも学んで頂きます。

―体の仕組みは発酵と関係ないんじゃないですか?―
発酵食品が体に良いと言われても「” 具体的に”なぜ健康にいいのか?」というのがあまり知られていません。
ですから単に発酵食品を摂取することで得られる効果を伝えるだけでなく、
体の仕組みを知っていただいたうえで発酵食品の効能を学んでもらいたいんです。

―なるほど。発酵食品の健康効果を学ぶんですね―
例えば、講義では皮膚の毛細血管をマイクロスコープで見るんですね。
そうすると特に冷え症の女性は血管が細くて見えにくい事が分かるんです。
他にも寝不足や食生活が乱れている人もそうですね。形が悪いという方もいます。
実際見ると
「食生活を見直さないといけない」
と皆さん口々に仰います。
体の仕組みを知ることで食事をもう少し気をつけようと考えてくれると嬉しいですね。

―それを知った上で発酵の効果を学ぶんですね―
そうです。
先ほど申し上げたように、麹が多く含まれる味噌には保湿成分のセラミドを体の内側から増やす効果がある事や、淡色の味噌には、しみ改善や保湿効果がある事が分かっています。
また、10年間熟成させた赤味噌に脂肪を燃焼させるスイッチの役割を担う成分が含まれていることが判明したんです。これは最初からある成分ではなくて発酵の過程で作られているんですよ。
健康との接点に食を入れていこうというのがねらいです。
いくら「発酵が良い」と言ってもそれで終わってしまいます。連動してくれるアンバサダーを増やすのが必要なんですね。
”資格”を作ったのは、発酵の魅力を知った理解者を増やすためです。

発酵に関してアツく語る中田氏。情熱が共感を呼ぶ

行政と連携して海外に発酵の魅力を発信!

―発酵に関するイベントをされていますね―
発酵の魅力や研究成果を多くの人に知ってもらいたいと思って行っています。
先日は日本に住む外国人の方に日本の発酵文化を知ってもらいたいという想いで、日本人ではなく海外の方を中心に募集し開催しました。

―長野市と一緒に行ったんですよね―
そうなんです。
なぜ長野市なのかというと、日本一の長寿県だからです。
その長野が味噌の生産量と消費量が一番多いんですよ。
ヨーロッパもそうなんです。長寿国のスイスやサンマリノとか食文化や発酵文化が豊かな所なんですね。ということは、もしかしたら発酵と健康は関係あるんじゃないかと思うんです。
さらに言えば、日本でなんとなく食べられている味噌が、未来の世界の人たちにアプローチできるんじゃないかと考えています。

―具体的にはどんなことをイベントではするんですか?―
先程、お話ししたような発酵の魅力をお伝えし、発酵食品を使った料理を楽しんでいただきます。
そのイベントでは私たちが追及している発酵食品の新たな可能性をご紹介しています。

―新たな可能性ですか?―
これが私たちの活動の3つ目、【未来へ繋がる食づくり】なんです。
発酵食品を料理技法として使えないかという研究で、今後の発酵の新しいあり方を探っています。研究と言うと学者を想像しますが、料理人も加わって行っています。
例えば、ポテトコロッケの中に味噌や麹を入れると中の具がクリームコロッケのようにペースト状になるんですよ。
これなら乳製品にアレルギーがある方でもクリームコロッケの食感を楽しんでいただけますよね。
しかもこれが美味しい。
実は国際的に名の知れたレストランが発酵食品を調理技法として最近採用し始めたんです。まだ発酵には多くの可能性があるなと考えています。
イベントでは味噌を使ったクリームコロッケはもちろん、発酵食品の新しい可能性も体感していただいています。

―参加者の反応はいかがですか?―
12カ国の方にご参加いただいたのですが好評です。過去2回行ったのですが両方とも定員を超える申し込みを頂いています。
発酵の実験や料理の試食が好評で「次は友人を連れてきたい」と言っていただいたりと興味を持って頂けました。

講義だけでなく実験や調理など体感して発酵を学べる


食に関心がある参加者が多い

研究所は様々な人たちとのスパイラルで成り立っている

小さい微生物(発酵食品)からスタートして、色々な方と関わることでキラッとする物を作りたい。
そのために研究者や生産者、シェフなど普段交わらない人たちを繋げる橋渡しをしたいという思いがあるんです。
研究所のパンフレットに書かれたスパイラルはそれを表現しています。
違う素材で書かれた輪がコラボし合う事でどんどん大きくなっていくんですね。

様々な人が関わることで大きな輪になっていく

発酵ってやっぱり大事

なぜ私たちは微生物を体の中(腸内)に飼っていますよね。
それは健康を維持するに必要だからです。
人間は世代が変わるのに約50年かかります。しかし微生物は短いもので20分ごとに子供を作って世代交代することが出来るんですよね。
微生物は常に変化していると言えると思います。
そう考えると今の地球環境に最も適した情報を持っているのは微生物かもしれません。
その時の環境によって生物は体の仕組みを変えていきます。その適応能力が早いのが微生物です。
その恩恵を得て人間も良いエネルギーを摂取しようというのが発酵食品なのではないでしょうか?
さらに言うと、そこの環境で生きている物を摂取することによって、自然にその環境に備えた体を得ることが出来るんじゃないか思うんです。
そこに生きる者はその土地の環境に合わせて育っています。ではそこに住む人間もなるべくその環境にあった物を摂取した方がいいと思いませんか?
地産地消という言葉がありますが、経済的な側面だけでなく健康的にも大事なんじゃないかと。
そういう意味でも発酵食品は優れた食品だと思っています。

―発酵食品をそこまで広い視野で見ると面白いですね。哲学すら感じます。
今日はお忙しい中、ありがとうございました―
こういった意識を持つ事で食生活も変わりますよ。
未来の人たちに様々な提案を研究所から出来ればと思います。
こちらこそありがとうございました。

発酵食品の新たな可能性を追求

発酵食品の研究・開発だけでなく、調理方法など新たな可能性を探るというのはユニークな取り組みです。
日本独自の発酵食品である味噌は”日本料理の”調味料というイメージが強い。
それは海外に販路を開く上で、独自色を出すメリットだが、需要が少ないというデメリットを併せ持っています。
「日本食以外で使えないか」 「調味料以外の使い方はないか」
新しい可能性を探るというアプローチで発酵文化普及と販路拡大を模索する研究所の取り組みは、新たな食文化を発見し食品業界に新風を起こす可能性を秘めている。
 

浅見良太

国歌研究家国歌の輪プロジェクト代表
浅見良太

埼玉県出身。テレビ番組制作会社を経て現職。
大学2年の時、ヒッチハイクで埼玉~屋久島間を19台乗り継ぎ往復し、自分の知らない世界に触れ、様々な人に出会える旅の面白さを知る。
2007年、初めての海外旅行でインド・ネパールを1ヶ月周ったことをキッカケに就職するまでにバックパッカーで計30カ国を訪問。
旅中、出会った人に出身国の国歌を歌ってもらい、それをボイスレコーダーで録音する“国歌録音活動”を始め、数多くの国歌を収録。国歌の奥深さ、面白さにはまる。
2010年、名古屋の東海テレビプロダクションに入社。情報番組、バラエティ番組、スポーツ番組などでディレクターを務める。同社在社中も仕事の合間をぬって国歌録音、執筆活動を継続。

2015年に退社後、”国歌研究家”として「国歌を通じた国際交流」の普及を目的に、国歌に関する執筆活動や講演、イベント運営などを行っている。
同年4月、国歌を通じた国際交流の普及を目的とした団体「国歌の輪プロジェクト」を立ち上げ、代表を務める。