海外ビジネスに関連するコラム

世界は身近にあるもんだ ~国歌研究家 日本で海外の魅力を探す~ 第15回

内戦のイメージはもう古い! 南米随一の経済安定国コロンビア

国歌研究家 国歌の輪プロジェクト代表 浅見良太

 
今年で修好通商航海条約が日本と結ばれて110年となるコロンビア。
日本人移民の受け入れなど日本とコロンビアは長く、そして深い友好の歴史を築いてきた。この節目を祝うため、駐日コロンビア大使館や在コロンビア日本大使館と共同で文化的・経済的な催しを行う予定だという。
しかし、私たちはコロンビアについてどのようなイメージがあるだろうか。“内戦”や“麻薬”、“ゲリラ”といったネガティブな情報が多く発信されている日本においてコロンビアの印象は決して良いものとはいえない。
だが経済成長に関するデータを見れば順調な経済成長を続けている。旅行者に聞けば「コロンビアは良い国だった」「出会うのは良い人ばかり」と悪い話は聞かない。
実際のコロンビアとはどんな国なのだろうか?
今回は品川区にある駐日コロンビア大使館を訪問。
パウラ・エスゲラ広報担当官とホルへ・チャベス経済・商務担当官にお話を聞いた。


以下、パウラ広報担当官による回答

―コロンビアはどのような国でしょうか―

日本の方がまだ知らないのではないかと思うことの一つに、コロンビアが持つ “多様性”があります。
コロンビアは生物多様性がある国の一つです。それに加えて、多様な景色・気候、多くの種類の花や動物にも富んでいます。コロンビアには日本のようなはっきりとした四季はありませんが、地域の標高の高さによって気候が様々に変化するんです。
また文化も多様と言えます。コロンビア人は主に3つのタイプに分類されます。ヨーロッパからきたスペインの人々、アフリカからきた人々、ずっとコロンビアで暮らしてきた先住民の人々、です。これらの異なるインフルエンサーのおかげでコロンビアは前述の通りの素晴らしい多様性と豊かな文化を享受できていると言えます。
先住民の方々には憲法にて、彼らが住む地域において彼らの伝統的な生活を守って行く特別な権利が保障されています。彼らの多くはスペイン語を話しますが、伝統的な言語を保護して行こうという動きもあります。
もう一つ、コロンビアについての “イメージ”についてです。もしかしたら多くの日本の方はコロンビアが危険な場所であるというイメージを持っているのではないかと思います。しかし今は状況が変わり、多くの日本の方が旅行やビジネスでコロンビアを訪れています。それだけ安全になったということです。
さらに、人々が陽気で温かいというのも大きなポイントです。特に地元のお祭りなどに参加すればとても温かく迎え入れられるでしょう。

―現在大使館が力を入れている事は何でしょうか?―

両国間の協力体制を強化するための政治的・経済的な側面の課題に最も力を入れて取り組むことです。
それに加えて、コロンビアをよく知らない方々向けに私たちの国のポジティブな情報の広報活動を精力的に行うことです。そのことを我々は“情報の更新”と呼んでいます。イベントを開催したり、ニュースレターや新聞等各種マスメディアと共同で広報の機会を設けさせてもらったりなどしています。
コロンビア大使も様々な場面で「現在のコロンビアの状況と、日本人が一般的にイメージするコロンビア像、危険である等マイナス面が先行するイメージ像とのギャップ解消が何よりも大きな課題である」という点を強調して述べています。もちろん、今でもコロンビアは治安面等含め解決していかなければならない問題はまだまだありますが、20~30年前のコロンビアとは大きく違うということは事実なので、やはり情報の更新はとても重要であると考えています。

―危険というイメージが先行して観光に行く人はまだ少ないかもしれません―

コロンビアへの観光客はアメリカ人が最も多く、日本人は全体の1%にも満たないくらいかと推定されますが、観光地としても魅力的です。例えば、カルタヘナはコロンビア北部の海岸に面した歴史的でコロニアルの雰囲気を残すとても美しい街です。食事や観光、その他多くのアクティビティーを楽しむことができます。また、コーヒー生産地域を訪れるのもおすすめです。多くの日本の方はコーヒーがどのような場所で、どのように生産されているかご存知ない方も多いかと思いますので実際にそういった過程を見ていただくことはとてもいいことだと思います。
メデジンはかつて世界で最も危険な都市の一つでしたが現在は最も革新的な都市の一つにその姿を変えています。とても豊かな文化がありますし、何よりも気候がとてもよく“常春”と呼ばれているように常に暖かい春の陽気を保っているような気候です。そして人々はとてもフレンドリーでホスピタリティーにあふれています。大都市ですが大きすぎず、観光客にとって見学しやすい都市だと思います。
そして、コロンビアの国土の約25%を占めるアマゾン地域ですね。言わずもがな大自然を味わえます。多くの日本の方はアマゾンというとブラジルを想像すると思いますが、実はコロンビアのアマゾンもなかなか魅力的です。

文化や観光についてお話しいただいたパウラ広報担当官



ホルへ経済・商務担当官


以下、ホルへ経済・商務担当官による回答

―コロンビアの経済状況について教えてください―

ラテンアメリカで最も経済的に安定した国の一つと言えます。デフォルト(債務不履行)に陥ったことがないですし、ハイパーインフレーションに陥ったこともありません。世界銀行や国際通貨基金から経済政策が最もうまくいっている国の一つとして認められています。
ただ、コロンビアの国家収入の多くは石油からきているため石油価格の変動の影響を大きく受けてしまいます。現在伸び率自体は停滞気味ですが、全体的にみるとコロンビアの成長は依然継続しており、過去15年の平均成長率が4%ほどであるということを鑑みれば現在の状況も決して悲観するような状況ではなく、引き続き成長していく見込みです。
輸出面では約20パーセントの成長を記録しています。その理由は、政府が輸出分野で強みになりうる新しい分野のプロモーションに着手しているためです。農業や金融、保険等の分野が急速に成長しており、これまで石油輸出から得られる収入に依存していた経済から遷移しつつあると言えます。石油価格が下落してもGDP成長率を2パーセント台をキープできるのは上記のような石油産業以外の産業の台頭が理由の一つとしてあると思います。

―そんな魅力的な国に対して日本企業の進出は遅れています―

日本企業はビジネス上の意思決定が遅いと思います。それは海外でビジネスするうえでは大きな課題でしょう。
コロンビアの企業と目先の利益にとらわれた短期的な関係を結ぶのではなく、長期的な関係を結ぶことを推奨しています。ビジネスの関係を結ぶことはいわば 結婚 のようなもので、長期的なウィンウィン関係を結ぶことが望ましいと考えます。

―コロンビアに投資するメリットは―

まず、立地の良さです。南北アメリカの真ん中に位置しており、これはビジネスをしていく上でとても大きな利点であると言えます。
また、質の高い人的資源も非常に重要な要素の一つです。コロンビアは周辺諸国と比較して教育水準が高く、またコロンビア人はよく働き、勤勉で真面目です。
また、内需が比較的大きいというのもあります。人口が約4800万人とブラジル、メキシコに次ぐラテンアメリカ第3位の人口を有する地域大国です。それに加えコロンビアは約50カ国との自由貿易協定を結んでいるので、コロンビア自体の人口だけでなく、連携諸国も加味した潜在的な需要も取り込むことができます。
そして、国内では一人当たりの所得が急速に伸びており、中間所得層・上流階級層が拡大しています。中間所得層が低所得層を上回り、生活必需品だけでなく嗜好品や高級品等も積極的に消費するようになりました。

―投資をする上で治安は重要な問題です。コロンビアの治安に関してネガティブなイメージがありますが実際はどうなのですか―

治安の問題というのはコロンビアだけでなくどこの国でも共通して存在する問題ではありますが、確かに日本におけるコロンビア関連のニュースはその多くがネガティブなものです。ただし一つ確かなのはコロンビアの治安は20年前と比較すると確実に改善してきているんですね。かつてはゲリラ軍が存在し特に地方の治安状況がかなり深刻でしたが、近年和平合意を結ぶことに成功し、それにより治安面は実に大きく改善しました。ゲリラ軍との和平合意締結がひと段落した政府は、現在犯罪全般の抑止対策に力を入れる政策を打ち出しており、犯罪自体も減少してきています。
治安の良い日本の視点からはコロンビアは危険な国である、というのはその通りです。ただし同時にコロンビアの都市よりも危険な都市があるというのも確かです。
また、日本の政府関係機関、例えば日本の外務省は治安面での安全の基準がとてもとても厳しく、時々少し厳しすぎるのではないかと思う時があります。海外安全マップ等でもコロンビア全体がとても危険とされていながらかつてゲリラ軍がいた地域も旅行者が訪問しても大丈夫という状況もあったりします。もちろんある程度の防犯対策は必須ですが、近年、多くの日本人旅行客が新たな目的地としてコロンビアを訪問しその多くの魅力を楽しんでいる姿も多く見かけるので、とても厳しい安全基準だけを見て渡航を断念することなく是非より多くの方にコロンビアの魅力を楽しんでいただきたいと思います。

―海外からの企業誘致に関する政府の取り組みについて教えてください―

政府は常に努力していており、様々な取り組みを行っています。
1つは、ホテル産業を支援する部門を設置し、ホテルを新規で建設しようとする企業には税金を免除するなどインセンティブを与えています。
また、自由貿易ゾーンの存在も重要な取り組みです。企業はそこで輸出のための製品の開発を行っておりますが、コロンビアの特徴はそこで企業に製品開発で重要な物資・原料の輸入も許可している点にあり、その点がコロンビアに投資するインセンティブになりうると考えています。また、自由貿易ゾーンはかつてゲリラの影響下等でビジネスできなかった地域を利用しているところも多くあり、その地域で新たにビジネスを始めようとする企業に特別な税金の免除等を付与しています。治安の改善がビジネスに新たな機会を与えているのです。これはより安い税金の地域でビジネスをしたい企業の進出のインセンティブとなりうる特筆すべき点です。

―貿易について教えてください。全体として輸出量が多いのはコーヒー豆なのでしょうか―

実は現在最も大きなウエイトを占めているのは石油です。輸出の60パーセントが石油関連で、石油価格に応じてその割合は50~55%等に変動します。
またGDPの面で重要な産業は金融・保険産業です。金融・保険がGDPに占める割合もとても多く 約13パーセントほどです。コロンビアは経済的に安定しているため金融分野でもより付加価値を生み出しやすい、という背景もあるでしょう。
日本だとコーヒー、エメラルド、カカオのイメージが強いですが全体でみるとその割合は少ないです。
また、よりビジネスを円滑に行えるようにするためにコロンビアの高速道路や橋の建設などインフラストラクチャー整備の支援を行う外国企業が増えていますね。

―コロンビアから日本への輸出で力を入れてるものはありますか―

コーヒー等の輸入は割合上多いですが、既に昔から確立された分野でもあります。近年ではカカオ製品や花、鶏肉、アボカドなどの新しい製品にも力を入れており、それの貿易を促進するために特にカカオ製品の魅力を宣伝するようなイベント等を開催しています。しかし日本は輸出入に関する規制が厳しいこともあり、これらの貿易を確立させて行くには多くの労力や時間が必要で、まだまだ道半ばという状態です。

―日本とコロンビア間の今後の課題について教えてください―

日本とコロンビアの関係をより緊密にするため投資をさらに活発にしたいです。二国間で投資に関する条約を結ぶため、現在EPAについて交渉中です。こういった交渉は長期戦であり、とても難しい話なので簡単ではないことはもちろん承知していますが、なんとか実現したいところです。
貿易面では、日本とコロンビアの物理的・文化的距離の克服、日本の厳しい基準をコロンビアがどう満たして行くか、というのも大きな課題として挙げられますね。

―最後に、ワールドカップ初戦はコロンビアと日本が闘います。 スコア予想を教えてください―

スコア以上に日本とコロンビアの両チームが次のステージに進むことを何よりも願っています。試合の結果は重要ではないです!
もちろん日本代表チームもヨーロッパやメキシコの強豪チームに次々と優秀な選手を輩出しており力をつけていることも知っていますから、何よりもお互い良い試合をして、決勝トーナメントに進出できることを心より願っています。この機会に、日本の方々にサッカーだけでなくコロンビアの様々な側面を知ってもらえれば嬉しいですね。


2人とも大変きさくなお人


 

浅見良太

国歌研究家国歌の輪プロジェクト代表
浅見良太

埼玉県出身。テレビ番組制作会社を経て現職。
大学2年の時、ヒッチハイクで埼玉~屋久島間を19台乗り継ぎ往復し、自分の知らない世界に触れ、様々な人に出会える旅の面白さを知る。
2007年、初めての海外旅行でインド・ネパールを1ヶ月周ったことをキッカケに就職するまでにバックパッカーで計30カ国を訪問。
旅中、出会った人に出身国の国歌を歌ってもらい、それをボイスレコーダーで録音する“国歌録音活動”を始め、数多くの国歌を収録。国歌の奥深さ、面白さにはまる。
2010年、名古屋の東海テレビプロダクションに入社。情報番組、バラエティ番組、スポーツ番組などでディレクターを務める。同社在社中も仕事の合間をぬって国歌録音、執筆活動を継続。

2015年に退社後、”国歌研究家”として「国歌を通じた国際交流」の普及を目的に、国歌に関する執筆活動や講演、イベント運営などを行っている。
同年4月、国歌を通じた国際交流の普及を目的とした団体「国歌の輪プロジェクト」を立ち上げ、代表を務める。